第2話・「初弟子も悪くないっス……なまらパネェ」
とんがり帽子の少女の家に運ばれた、漂着者の少年はヌイグルミのベットの上で意識を取り戻した。
「ここは?」
白いシーツを体に掛けられた少年は、起き上がろうとしてヌイグルミベットの足がクニャと曲がり、バランスを崩してフワフワの床に転がる。
「なんだ、このベット!? ヌイグルミ? わぁっ! なにも着ていない!」
少年はパンツを穿いていないコトに気づく。
近くのヌイグルミ椅子に器用に座っていた。
とんがり魔女帽子に、ヘソ出しルックの少女が言った。
「ヌイグルミのベットは、バランスをとって寝ないと転げ落ちるっス」
シーツで体を包み隠した少年は、部屋の中を見回す。
ヌイグルミの時計。
ヌイグルミの植木鉢と、ヌイグルミの花。
ヌイグルミの机。
壁や天井もヌイグルミの、ヌイグルミの家だった、普通の固さのリアルなモノは数少くない。
「もしかして、ここは【ヌクヌク島】ですか? ヌイグルミ魔法師が住んでいるっていう」
「もしかしなくても、ヌクヌク島っス……どこから来たっス」
「東方地域の〝のら村〟です……ぜら村の隣村の」
「なまらパネェ! ぜら村と言えば、魔法少女や魔女を数多く選出しているコトで有名な村っスね……邪魔魔女レミファとかいるっス」
「ボクの【のら村】も、それほど魔法使いは多く出てはいませんが、有名なところです……ボクのパンツ脱がしました?」
魔女帽子の少女は。一部が毛糸になっている髪に付いていた、ゴミをつまみ捨てながら言った。
「引きずって運んできたら道で勝手に脱げたっス……なんでパンツ一枚で漂着していたんスか?」
「密航していたんです、積み荷の中に隠れていたら暑くて。パンツ一枚になって潜んでいたら、嵐になって
船を軽くするために、積み荷ごと海に放り出されて」
少年の話しだと、ヌクヌク島の近くを航行する船だと知って密航していたらしい。
「アポっスね……なんでヌクヌク島に行きたかったんスか?」
「ボク、ヌイグルミ属性の魔法力があるって鑑定されたんです……でも、ヌイグルミ魔法なんて誰も指導してくれないし、そんな時にヌクヌク島のヌイグルミ魔法師の噂を聞いて……弟子入りしたいと思って」
「ふ~ん、なまらパネェ話っスね。そのヌイグルミ魔法師の噂って、どんな噂っスか?」
とんがり魔女帽子の少女は、ヌイグルミのカップに入ったココアを飲むマネをする。
少女がカップから口を離すと、フェルトのココアは減っていた。
弟子入り希望の少年が目を輝かせてしゃべる。
「なんでも噂では、聡明で美人な大人の長身女性でヌイグルミを愛している優しい方で……スゴい人らしいです、名前は『プラッシュ・トーイ』知りませんか?」
ヘソ出し、グラディーターロングブーツの少女が、ヌイグルミの骨付き肉をかじりながら言った。
「知っているっス……それ、あっしのコトっス。ヌイグルミ魔法師『プラッシュ・トーイ』面倒くさいから『プラプラ』と名乗っているっス……実際にプラプラ歩き回っているっスから」
「えっ!?」
少年が、勝手に想い描いていたヌイグルミ魔法師のイメージに、亀裂が走り砕ける。
「噂が東方に伝わっていくうちに、美化されたみたいっスね。少し狂暴な飼い猫が、
「そんな……ボクが長い間、想い描いていた。聡明で美人な大人の女性のイメージが……あぁ、そんな」
プラプラは、ボタンの目で少年を眺める。
イメージしていた魔法師の理想とのギャップに、放心状態で口から出かかっていた魂を引っこ抜くと魔法で魂をヌイグルミに変えて。
黒いペンで『ヌギヌギ』と魂のヌイグルミに書いて、こっそり少年の口に押し込み戻してから訊ねた。
「どうするっスか? 試験を受けて弟子になるっスか? ならないっスか? ヌギヌギ少年……今日から君の名前は『ヌギヌギ』っス」
「えっ? ボクの名前はそんな名前じゃ……ボクの名前? あぁ、ヌギヌギって名前しか浮かばない! ボクの体に何をしたんですか?」
プラプラは、ヌギヌギ少年の質問を無視して部屋の片隅に置いてある、ヌイグルミの宝箱を猛禽類の爪のようなキャップの人差し指で示して言った。
「とりあえず、裸だと目のヤリ場に困るから……そこの宝箱の中に入っている漂着衣服の中から、自分に合った衣服を探して着るっス」
ヌギヌギは、しかたなく女モノの下着を穿き、ショートパンツ〔太股丸出しの短いズボン〕と、ポタン留め長袖シャツとベストを着た。
「パンツ、女性のモノしかなくて。男が穿いたら変な感じなんですけれど」
「それしか無いっス、嫌ならパンツ脱ぐっス。服を着たら試験開始っス……ついて来るっス」
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