第32話 『好きな人の為なら頑張れる』
「おおっ!」
私は思わず歓声を上げた。
なんと、体重が一気に3キロ減っていたのだ。
朝食を和食に変え、お腹が空いた時はするめを噛んでいた。夜はサラダでも水をがぶ飲みすれば何とか耐えられるようになった。
空腹を意識すると辛くなるので就寝時間も早くなった。
お蔭で生活習慣は良くなったと言えるだろう。
まるで雪だるまのように次々と健康な生活習慣に変わっていく。
誰かが『悪い習慣を辞めるのではない。新しい習慣を始めるのだ』って言ってたけど、こういうことなのね!
鏡を見ても、なんだか肌にツヤがある!
それに・・・・・
私は鏡から一歩引いて、上半身全体を眺める。
「・・・・・めっちゃ痩せてんじゃん!!えっ?!?!しかも私、可愛くない?!」
体がほっそりするだけでなく、顔もほっぺの肉が落ちて輪郭が見えるようになっている。
超調子いいじゃん!!!!!!
私はせっかくだからと、久々にコテを取り出してみた。
コテって面倒なのよね。
普段ストレートの方が楽だし綺麗に見えるし。
でも髪伸びたし痩せたから少しくらい久々に洒落てみてもいいわよね?
温まったコテを髪に通す。
髪からコテを離すと、髪の毛が緩く一回転して可愛らしく跳ねた。
「んかっっっわいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」
************************
「うらら課題教えて~」
「さやかちゃん、私に教えてもらわなくても分かるでしょ?」
「だってあの課題めんどいじゃん~」
「もう、仕方ないなぁ、じゃあみんなでやろ?綾乃ちゃんも一緒に」
「いいね!!って、お、噂をすれば綾乃来たじゃん」
「おっ、綾乃ちゃんおはよ―――えっ・・・・」
「えっ・・・・・綾乃?」
私は出来るだけ顔を伏せてうららとさやかに近づく。
「お、おはよ」
まるで倉岡のような雰囲気になっている。
いや、でもこれ、顔を上げるに上げられない。だって―――
さやかが何気ない口調で問いかける。
「綾乃、パンチパーマにしたの?」
「違う!!!!!!!!!!!」
私は顔を上げて即答した。
今にも泣きそうな顔とパンチパーマのようにくるくるした髪の毛を見てさかやが吹き出す。
逆にうららは真っ青な顔で何と言ったらいいか分からないような顔になってしまった。
「違うの!!これ、パンチパーマじゃないの!!!久しぶりにコテ使ったら巻きすぎたの!!!!!!!!!!たすけてぇぇぇぇぇぇぇ」
私は2人に泣きついた。
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
さやかは目に涙が浮かぶほど笑ってる。
こいつは話にならない。
「うららぁぁぁぁぁぁぁ」
私は優しいうららの方に抱き着く。
「あ、綾乃ちゃん、大丈夫だよ?おかしくない――ぶふっ」
「うららも笑っちゃってるじゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
なんやかんやで数分後、さやかの手によって私の髪の毛は全て1つのお団子にされて、パンチパーマを誤魔化す事に成功した。
嬉しいことが起こったのはそこからだ。
髪の毛をフルに結んだせいで、私の顔が全て丸出しになった。
いつも髪の毛を下ろしていたから、こうやってみんなの前で顔を丸々出すのは初めてだったのだ。
「あれ?綾乃ちゃん、めっちゃ痩せてない?」
髪を結んでいる途中、それを眺めていたうららが首を傾げる。
「え、やっぱり勘違いじゃない!超痩せてるよね?」
「まじ?」
髪を結び終わったさやかが、私の後ろから正面に回る。
「ほんとだ!綾乃痩せてるよ!」
私は肩をすくめる。
「えぇ、そんなことないよぉ~?」
そう口では言うものの、内心嬉しすぎて花冠をつけたミニ綾乃が花をバスケットからまき散らしながら花畑を楽しそうに駆けていた。
「綾乃ちゃん、最近ダイエット頑張ってたもんね」
「何キロ痩せたの?」
私はダイエットし始めの頃を思い出す。
「ええーっと、10キロくらいかな」
「10キロも?!」
「やばっ!!!!」
「へへへへへへへへへへへ////////」
しかし照れた直後、妙な不安が心の中で広がった。
そっか、10キロじゃ全然目標に届かないよね・・・・
本来なら、-40キロ程痩せないと標準体型にはならないのだ。
倉岡は、こんなんじゃ満足しない。
「どうしたの、綾乃?暗い顔して。お団子嫌だった?」
顔を上げると、さやかが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「いやっ、全然!」
私は慌てて手をぶんぶんと振った。
「そ、そうだ、鏡持ってないの。ちょっとどうなってるか見てみたい」
「持ってるよ~」
さやかがごそごそとバッグを探り始める。
ダメだ、もっと頑張らないと。
あと一週間しかない。もっと、もっと――
―――おい
「おいって」
「!!!!!!!!!!!!!」
呼びかけに顔を上げると、倉岡が横に居た。
「なにぼーっとしてんだよ」
モサモサの髪でダサい黒縁メガネをかけたの倉岡が、いつものように怪訝な目を私に向けていた。
周りを見ると、隣と向かいにそろぞれさかやとうららが、私に話しかける倉岡を見上げていた。
手に握られたタッパーを、ぎゅっと握る。
あぁ、そうだ。そう言えば、もう昼休みだった。
何だか、今日は一日中頭がボーっとして何をしていたか記憶がない。
視線を落とすと、食べ掛けのサラダがタッパーの中で散らかっていた。
「お前、髪型どうしたw」
倉岡が薄ら笑いを浮かべて小馬鹿にしてくる。
私は言われてハッと我に返り、慌てて頭を撫でて抑える。
そうだ!!お団子にしているとは言えパンチパーマだった!!!
「ちょっと、誰か知らないけどその言い方は可哀そうよ!」
さやかがそう言って倉岡を怒鳴りつける。
「さ、さやか、落ち着いて!この人、口は悪いけど悪い人ではないの!!!ごめんなさい、先輩」
フォローがフォローになっていないうららが、慌ててさやかを制止する。
そういえば、うららと倉岡は小学生の時の部活の先輩後輩だったっけ。
「でも、先輩、綾乃ちゃんとはどういう関係なんですか?」
うららがさやかから顔を逸らし、きょとんと首を傾げる。
そうなのだ、この2人に、倉岡との関係について話していない。
なぜなら私の心情も関係も複雑で、自慢しようにも自慢出来なかったのだ。
それに、どうやら倉岡はモサい変装をしてまで自分がイケメンなのを隠そうとしている。
今なら想像がつく。
そりゃああの天性の美貌を持った大人気モデルが学校に出現したとなると学業もまともに受けられなくなる。
それを無視して周りに倉岡のことを言いふらす程、私も馬鹿ではない(当たり前だが)。
倉岡もうららの返答には少し困っているようだった、が、少し間を開けて、ふっと笑みを零した。
―――!!!!この笑みは!!!!!
この笑みは、ダーク倉岡!!!
倉岡はメガネを外すと、首を傾げたうららの真横に顔を近づける。
「ひゃっ!/////」
うららがそばかすのある頬を真っ赤に染めて、可愛らしい悲鳴を上げる。
さやかも私の隣で、驚いた様子で無言になってしまった。
私はそれを止める事が出来ない。
体が固まって、見たくないものを見ているはずなのに、目を逸らすことも出来ない。
―――何をするつもりなのよ・・・・倉岡・・・・
倉岡のエッチな顔をした横顔が、うららの耳に近づく。
そこで倉岡は口を開いた。
「綾乃、俺の彼女なんだ」
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