第22話 『初めての共同作業』
大人気モデルショウの秘匿情報は金になる。
が、今情報を金にするより彼女で居ておく方がメリットが多いのではないだろうか。
倉岡以上の人気芸能人は他にも居る。
まずはそういう人たちと交友関係を持ってから倉岡を売るのも悪くないのではないだろうか。仕返しにもなるし。
私は引き続き、倉岡のライン履歴を遡る。
しかし意外と芸能人が居ない。
知らない人間ばかりだ。
と言うか、履歴が古い。
あまり人と連絡を取っていない・・・・・
はっ!!!!!!!!!!!!
コイツ!!!!!!!!もしかして!!!!
本当に友達が居ない???!!!!!!!!
私は気絶したままの倉岡に憐みの目を向ける。
可哀想に。
例え試用期間だけの彼女だとしてもこれは同情する。
例え超人気イケメンモデルだとしても、友達が居ないのはあんまりだ。
私の中で膨らんでいた仕返しをしようと企む悪魔が、しゅるしゅると心の奥底に萎んでいく。
その時、気絶していた倉岡が目を開いた。
一瞬ゆらゆらと視線が揺らいだかと思うと、私を視界に捉えた瞬間パッと目が見開かれた。
「おい!!何してる?!」
ガバッと起き上がった倉岡は、私の手元から勢いよく携帯をむしり取った。
「馬鹿!!お前!!!何勝手にLINE開いてんだよ!!」
倉岡が私の腕をどつく。
「・・・・・・・・・いいじゃない、彼女なんだから」
「ダメだろ!!お前に心許してる訳じゃねえんだから!!勝手にプライベートな部分に土足で踏み入るな!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
―――――これは冗談抜きで怒っている。
倉岡はプンプンしながらLINEか弄られていないか確認し、頭をイライラと掻きながらiPhoneを閉じた。
大きなため息と共に、倉岡は携帯を私の方に向けた。
「お前!!次俺の携帯に触ったらもう容赦しないからな」
あーーーこれは面白がってるとかではなく本気で怒ってるわーーーーー。
ちょっと調子に乗りすぎたかな。
「でも気絶する方が悪い」
ここまで来ても反論する私に、倉岡は天を仰いだ。
「ほんっっっっと可愛くない奴だな。素直に謝れば済むのにさあ!!!」
「じゃあごめん」
「『じゃあ』ってなんだよ!『じゃあ』って!!!じゃあごめんじゃないんだよ!!ったくもう!!!」
「何してももう許されないでしょ?」
「はぁ!!!もうっ!!!わかった、もうお前に頼もうと思ってたことやってくれればいいよ!!もうそれでいいから!」
「・・・・・・なに?」
倉岡は腹一杯の鬱憤を全て吐き出すような溜息をして立ち上がると、私が床に置いていたグッズのデザインボードを指さす。
「これ、次の女子ファン向けのブレスレットにするつもりなんだけど、どうも斬新さを求めすぎてゴチャゴチャになっちゃった気がするんだよね」
そう言われれば、確かにチェーンの部分もあまり見ない型の少しゴツゴツとした形だし、そこに色とりどりの宝石、さらに『Shoau』(ショウの英語での書き方だ)という筆記体があしらわれた金属もぶら下がっている。
「最近イメージがまとまらなくてね。たぶんスランプなんだけど、今度のファン感謝祭で俺デザインのファングッズ発売するって豪語しちゃっててさ、期待裏切れないんだよね」
「私に手直ししろってこと?」
倉岡はパチンと指輪鳴らして私を見る
「そゆこと」
「は??私こーゆーのした事ないけど」
「お前だったら出来るだろ?断るのか?」
「うっ・・・・・・・・・」
思わず少したじろいでしまう。
いくら私でも、ショウの女性向けファングッズとなれば粗悪な物にファンは黙っていてはくれないだろう。
私・・・・・・怖気付いてるの???
ダメよそんなんじゃ!!!!
私は春日野綾乃!!どんなプレッシャーにも負けないハートの持ち主でしょ!!!
「分かった、やるわ」
「よしっ!!それでこそお前だ!!早速、女性視点で意見を聞かせて欲しいんだけど、ブレスレットにするつもりのこれ、アンクレットにするのもアリだと思うんだよ」
「そうね〜、でもサンダルとか履かないとアンクレットは使わないし、今からの季節的にもブーツが多くなるからブレスレットの方がいいと思う」
そう言って、倉岡と私の意見交換が始まる。
どうやら倉岡は考えすぎているらしい。
ずば抜けたセンスはあるが、それが空回っている印象だった。
これもいい!これもしたい!
そういう思考が却って倉岡のセンスを鈍らせていた。
私がする仕事は簡単だった。
そんな倉岡の考えすぎたアイデアを削ぎ落としていく。
これだけ。
出来上がったイメージボードは当初よりも随分とスッキリとして、チェーンの斬新さはそのままに、宝石は淡いシルバーで統一し、その中に『Shoau』のアルファベットを金色で施すシンプルなデザインに落ち着いた。
「――――イイ・・・・・・すごくイイ・・・!!」
私は肩をすくめる。
「案外私がすることなかったわね」
「いや、それでいいんだよ。・・・・・・・・・いやぁ、これすごくいい!!女性ファン向けにするつもりだったけどこれ男向けでもいけるな・・・・・・・・・・・・ありがとう、綾乃。いやぁ、本当に・・・・・・これ俺もつけようかな・・・」
作品の出来栄えに酔い知れる倉岡。
しかし私は聞き逃さなかった。
今、私の名前をハッキリと呼んだのだ!!
『綾乃』
はぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!///////
倉岡がイメージボードからパッと顔を上げる。
目と目が合った。
「サンクス!!」
そう言って倉岡は目を細め、満面の笑みで笑った。
ズッキューーーーーーンッ!!!!♡♡♡
私は鼻血を吹き出して数メートル飛んだ。
いつも寡黙なクールキャラで笑顔を見せない人気モデル、ショウ。
そんなショウが私だけに見せた笑顔はあまりに可愛らしく、ギャップ萌えと健気さで私のハートを破壊するには十分すぎた。
なんだよ倉岡、お前そんな笑顔出来たのか・・・・・・・・・・・・――――――――
私は宙を舞いながらそう突っ込んだのを最後に意識を手放した。
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