第23話 『彼女改造計画始動』
「はい」
そう言って差し出された倉岡の手には、1万円札が握られていた。
「ごれ、ぐれるの?」
鼻にティッシュを詰め込んだまま話す私の言葉は実に滑稽だったが、それ以上に倉岡から1万円を貰えるという事実に対する驚愕の方が勝っていた。
「おう、バイト代。予想以上にいい仕事をしてくれたからな」
「ざっずがジョウ
私は倉岡の言葉に甘えてい1万円札に飛びついた。
「こういう時だけおだてやがって」
倉岡は現金な私に呆れたようだが、この世は金でなんでも帰る時代なのだ。こうなるのも致し方ない。
倉岡が「よしっ」と言って立ち上がる。
「帰ろうか!!」
「え゛っ」
「『え゛っ』ってなんだよ」
私は鼻栓を取った。
「も、もう何もないの?」
倉岡は眉をひそめ、首を傾げた。
頭の上にクエスチョンマークが出ているようだ。
「なにもねえよ。逆になにがあると思ったんだよ」
「えぇ・・・・ったく・・・・あんたってほんと無神経なのね」
私は深い溜め息を吐いた。
倉岡はそれで全て察したようだった。
「ははーーん。そういうことがしたかったのか」
「もういいわよ、帰る」
私はわざと不貞腐れた態度で鞄を肩から下げた。
男は去ろうとする女を追いたくなる生き物なのよ。
私は髪をなびかせ、ツンとした表情で倉岡から目を逸らす。
すると倉岡は手を振り笑顔になった。
「おう!!!帰れ帰れえぇぇぇ!!!」
私は鬼の形相で倉岡に詰め寄る。
「イチモツ引きちぎられてぇのか、おお??」
ドスの効いた声で倉岡の目の前で拳を握りしめて見せる。
しかし倉岡は飄々としたままだ。
「あのさ、女だったら誰でも欲情されるとでも思ってんの?やっぱりキスとかしたくなるような女の子はね、みんな可愛いの。お前、鏡で自分の顔見てこいよ」
「へ、へぇぇぇぇぇ」
震える声を押し殺し、何とか言葉を続ける。
「つまり、私に魅力がないって言いたいの?」
「そうだな」
私は白目を剥いた。
倉岡のデリカシーの無さには卒倒しそうだが、それ以上に今の言葉が倉岡の本心なのだろうと思うと胸を殴られたようなショックがあったのだ。
これが・・・・私の目を逸らしていた現実というもの・・・・?
「・・・・・でもあんた・・・・私にキスしたじゃない・・・・」
蚊の鳴くような声で何とか反論する。
「確かに・・・・・」
それに対し倉岡は、顎に手を当て何やら考えだした。
「お前みたいなデブス、生理的に受け付けないはずなんだけどな・・・・・」
おい
と、心の中でツッコむ。
デブスと言われ傷つく気持ち半分、それでもキスをしてきたから例外なのではという期待半分で複雑な心境に陥る。
するといきなり倉岡は顔を上げ、私の目を見た。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
気まずい空気が漂う。
・・・・何よコイツ・・・・・
倉岡はパッと顔を明るめ、指を鳴らした。
「分かった!お前、素はいいんだ」
「は???」
「よし、今日から俺がアシスタントとして前を改造してやるよ」
「はぁぁぁ?????」
倉岡は頭の理解の追いついていない私の肩にポンと手を置く。
「もし、痩せて今よりマシになったら俺が立ち上げるファッションブランドのモデルにしてやる」
「ち、ちょっと待って、話が追いつかないわよ」
私は肩に添えられた倉岡の手を振りほどく。
「え、まず私はダイエットするのね?」
「そう」
「で、それをあんたがバックアップするのね」
「そう」
「で、あんたはファッションブランドを立ち上げるのね?」
「そう」
「で、私がそのブランドのモデルになるのね?」
倉岡は指をパチンと鳴らす。
「Sou!」
「いや、意味不明だから」
しかし倉岡は聞く耳を持たない。
「よしっ!さっそく俺行きつけのパーソナルジムに行くぞ!!」
倉岡は突っ立ったままの私の手を取る。
「俺に任せろって」
倉岡はそう言って、にこっと笑って見せた。
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