第21話 『やられたら?もちろん倍返し♡』

「それ俺だけど」


全身に稲妻が走るような衝撃に、握っていた雑誌が手から滑り落ちた。


「・・・・・・・は???」


精一杯言葉を絞り出すが、何も出ない。


「いや、それ俺だから。何で気付かないの」


さも当たり前、ましてや気付いていない私がおかしいというような態度を示してくる倉岡。


いや分かる訳ないやろ。馬鹿か。


「気付かないわよ。冗談やめてよ。あのショウ様があんたなんかで堪まるかっつーの」

「そりゃ残念だったな」


あまりの毅然とした倉岡の態度に、段々本当なのではないかと疑ってしまう。

本当にイヤだ。

あの人気イケメンアイドルが倉岡だなんて。世も末だ。


「アイドルなんてそんなもんだぞ。みんなが見てるのは綺麗なところだけだし、アイドルが見せてるのも綺麗なところだけ。お前にプライベートをとやかく言われる筋合いはないね」

「そうだけどさ、あんただけは嫌だった」

「ギャップ萌えって考えれば可愛いもんだって」

「あーーーもう喋らないで」


ベッドに腰かけ足を組む倉岡。

今日は陰湿な底辺間抜けキャラじゃない。


髪の毛はさらさらとしていつものダサメガネの代わりにサングラスがTシャツの襟に掛かっている。


いくら頭で否定してもどうしても雑誌やテレビで見るショウと姿が重なる。

何だか気分が悪くなってきた私は頭を抱えた。


「良かったじゃないか。こんな人気モデルと付き合えるなんて宝くじが当たるくらいの確立だぞ」

「それなら宝くじが当たった方がマシだわ。そういうところが気持ち悪いのよ」

「ふーん、『気持ち悪い』ね・・・・・じゃあこれでも?」


倉岡がベッドから立ち上がり、何かを企んだ暗い顔でゆらりゆらりと私に近寄る。


私はそんな倉岡の股間を下から蹴り上げた。


「おおおっっっっ????!!!!!!!!!!!」


苦し紛れの断末魔と共に、倉岡の口から唾が噴き出、目は取れるのでないかというほど引ん剝かれた。

倉岡はその場にガクンと膝を付き、体を震わせる。


「・・・・・ぅっ―――カッ・・・・・!!!――ハッ・・・!!」


息も絶え絶えで実に苦しそうだ。

フフフフ。


「もう不用意に私に近づかないことね」


意気揚々と倉岡を見下ろす私に、倉岡はこれまでにないほどの憎しみ深い顔で私を見上げる。


「―――オッ・・・・マエッ・・・・!!!!」


そこまで言って、倉岡の首がガクンと落ちる。


「ふっはははははははは!!!!!!!!!!!」


私は大声で笑うと、苦しみ蹲る倉岡の目前にしゃがみこむ。


「良い気味ねえぇぇぇぇぇ、そうだ!!今まで私があんたにもてあそばれていたことを鑑みると、たかが蹴り一発じゃ済まないわよねえ」


目を輝かせる私に、倉岡は何かを察したのか絶望の表情を浮かべる。


「・・・何を言って―――」

「あんた、本当に『ショウ』なんでしょ?」

「・・・・それがなんだよ・・・」

「イケメン芸能人、紹介して?♡」

「はぁ??!!!誰がお前みたいなデブゥぅぅぅぅっ―――???!!!!!!!!!」


私は問答無用で倉岡の頭に全力のチョップを入れる。


倉岡は脳震盪を起こし、白目を剥いて倒れた。


「だめじゃなぁい、にそんな態度取ったらぁぁぁ」


そう言って私は倒れて動かなくなった倉岡のポッケからiPhoneを取り出す。


そう、倉岡と無理に付き合わなくてもいいのよ。


こんな性格最低野郎はあくまでも踏み台。私が付き合いたいのはイケメンで、なの!


ショウとなれば、そこらへんの男優やら有名人たちとある程度関係を持っているはず。

はっ!!!!!!!!!!!!!もしかしたら、コネが出来て私、芸能界デビューしちゃうかも???!!!!!!


倉岡と付き合うという罰ゲームのような状況からここまで夢が膨らむとは!!!!!!!!!!!!!


これは人生最大のチャンスよ!!!綾乃!!!!!


私はiPhoneの指紋認証を、動かなくなった倉岡の指で解除する。


「LINE、LINEっと・・・」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


そこには何と・・・・


「菊池泰平???!!!!!!!!!」


LINEのトップ。

つまり、先ほど来たばかりのラインだ。


そこには有名映画監督、菊池泰平からのメッセージが表示されていた。



『今度の主演、期待してるよ』



・・・・・・・しゅ、しゅえんんんんんんんんんんんんんんんんんん???!!!!!!!!!!


ヤバい!!!!!!!!!!!これはビッグニュースをリークしてしまったかもしれない!!!!


図らずも、倉岡の俳優デビューを知ってしまった!!!!!!


そこからまた私の脳内で秘書の姿をした私がメガネをくいっとしながら現れる。


「その情報、カネになるのではないでしょうか?」


レンズを光らせ、力強い口調で秘書綾乃は言う。


そうよ・・・・・・・・、私、もしかしたら良い金ズルを手に入れたのかもしれない・・・・・・


私は綺麗な顔をしたまま気絶する倉岡を、じっと見つめた。



どう・・・しよう・・・・・


私の口元は緩んでいた。

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