第20話 『ドS炸裂』

「あ、あのっ!!!あの、そーゆーことはいくら何でもちょっと早すぎるってゆーか!!段階というものを踏んで致さないと後から後悔したり――」

「なんの話?」


倉岡は意味が分からないというようなキレ気味な顔で慌てふためく私を見下ろす。


「えっ・・・?」

「お前さあ、自分が襲われるとか思ってんの?」


顔が熱くなるのを感じる。


全て見透かされているし、超恥ずかしい。


しかし倉岡は何故か口角を上げる。


「面白いほど自意識過剰だな。ふーーん、そんなに俺としたいの?」


倉岡はゆっくりと私の方へ、ゆっくり足を踏み出す。


「―――な、なに・・・んっ」


倉岡は私の後頭部を抑え、強引にキスをしてきた。


首を少し傾けた倉岡の唇は、逃げようとする私の唇を離さない。


これが・・・本当のキスなの・・・・??


突然の出来事に状況が理解できず、何も考えられなくなった。


しばらくしてやっと解放された私はへにゃへにゃとその場に座り込んだ。


「はぁ・・・はぁ・・・」


顔を見上げると、これまでになく嬉しそうな倉岡がニヤニヤと私を見下ろしていた。


「はぁ・・・・・最初から・・・こういうことするつもりだったんでしょ」


私は肩で息をしながら途切れ途切れに質問する。

倉岡はそんな私を鼻で笑ってみせた。


「いーや?お前に性欲湧かねえもん。ただキスして欲しそうな顔してたからしただけ。反応ウブで面白いし」

「あんたねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!人をおもちゃにするな!!!!!!!」

「はいはい。でもお前、そんな顔赤らめて説得力ないけどね」

「///////////?!」


頬を両手で抑えると、確かに顔は熱があるのかと思う程熱かった。


「いやぁ、イジり甲斐があるな」


楽しそうに笑う倉岡。


「―――っっっっっ/////////////////////」


私は何も言い返せなかった。

倉岡は私で遊んでることに悪びれる様子がない。


あと一か月、もしかしたらこんな調子で遊ばれ続けるとしたら・・・・


心臓が持たない・・・・!!!!!!


「お前・・・・・『お前』って呼ぶのもカップルらしくないよな。おい、なんて読んで欲しい?」


倉岡は少し考える仕草をしながら私に尋ねる。


「・・・・・は、はぁ?・・・・す、好きな呼び方・・・・呼びやすい呼び方でいいんじゃないの・・・・?!?!」


何で私キレ気味なのよ!!!!!!!!!!!!!

かわいげどこ??!!!!!!!!?

どこに置いてきたの!!!!!!!!!いや!!!!!!!!!倉岡にかわいげは要らないんじゃない???!!!!

ここにかわいげプラスしたらもっと調子乗られるでしょ??!!!!!

サバサバで行くのよ!!!綾乃!!!!!!


「っつーか、お前名前なんて言うの?春日野、なに?」

「・・・・綾乃よ。『綾乃』って呼べばいいんじゃない?」

「ふーーん。『あやの』ね」


そこで悩む倉岡の目の奥がきらりと光りを帯びたのを私は見逃さなかった。


悪い予感・・・・


倉岡はまた口角を上げ、嫌らしく目を細めるとボソッと呟いた。


「―――『あーちゃん』」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!やめろ!!!その呼び方は気持ち悪い!!!!!やめろ!!!ゼッタイやめろ!!!!!!」

「どぅしたの、、そんなに怒って」


発狂する私に、倉岡はわざとらしく子犬のような目を向けてくる。


しかしこの顔も・・・・ちょっとかわいいかも・・・////


ダメだ!!!!完全に倉岡の流れに持っていかれてる!!!!

抜け出さなきゃ!!!!無理!!!もう帰る!!!!!


私は駆け出し、ドアノブに手を掛ける。


ガチャッ


「・・・・あれ?」


くそっ!!鍵を掛けられてる!!

慌てて鍵に手を掛けるが、その上から更に大きくゴツゴツとした手が私の手を抑えた。


「どこに行くの、あーちゃん」

「・・・・ひっ!」


後ろから低音ボイスが耳をくすぐる。


「・・・・まだ、頼み聞いてもらってないんだけど」

「―――『頼み』・・・・?」


倉岡は私の後ろからそっと離れる。


「はぁ、そろそろちゃんと仕事するか・・・・」

「????????」


何の話をしているか分からない私をそっちのけ、倉岡は部屋の隅に置いてある机に向かった。


大きなメタルでできた机。

机というか、作業台に近い。重量感があり、机の上にはカッターやコンパス、色見本版などが転がっていた。


その机の引き出しから、倉岡は数枚の紙を取り出した。


「これ、どう思う?」


倉岡が私に向けて差し出した紙には、たくさんの書き込みがされたイメージボードのようだった。


中心には、女物のブレスレットのイラストが描いてあった。


「―――なにこれ」

「次のグッズ」


私は倉岡の顔を凝視する。

真顔で答える倉岡はいたって真面目そうだ。


―――長い沈黙


「・・・・・・・・・は?」


結局私は意味が分からなかった。

『グッズ』とは?????


倉岡は肩をすくめた。


「やっぱり気付いてないのか」


溜め息混じりに呆れた倉岡は、部屋の一角にある本棚から、サッと適当に一冊を取り出し、私に投げ渡す。


「わっ」


何とかそれをキャッチすると、表紙を見た。


「『BooonUp』・・・・・有名なファッション雑誌じゃない」


BooonUpは人気男性アイドルやモデルが筆頭として掲載される男性ファッション雑誌の大御所だ。


表紙にはタイトルの下に様々な文言が連なっていた。


『女性が抱き付きたくなる大人の香水3選』

『アクセサリーは色気のシンフォニー』

『ファッションの神、ショウが教える「自分の色」』


「あっ、ショウも載ってる」


私はそう言ってパラパラと雑誌をめくる。


あった。ショウのページ。


ショウが色々な画角から撮影されている。

サングラスを掛けていたり、空を見上げていたり、服をつまんでいたり――

イケメンでスタイル抜群のショウは、何をしても絵になる。


「ショウ好きなのか?」


倉岡がベッドに腰かけ、問いかけてくる。


「まぁね。こんなイケメン嫌いな人いるの?」


私は雑誌を引き続きパラパラとめくる。

倉岡が1つ咳払いをした。


「それ俺なんだけど」


私の手から雑誌が滑り落ちた。

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