第19話 『イケメンで金持ちに襲われ・・・?』
レザーのシート。
良い香りのする車内。
地面を這うように進むフェラーリ。
横にはサングラスを掛けたイケメン。
いずれも私が憧れていたもの。そして自分に似合うと思っていたもの。
しかし、居心地が悪かった。
全ては倉岡のせいだ。
そう言うと少し語弊があるか。
倉岡ではなければ最高だった、ということた。
「あんたさぁ、なんでこんな高級車乗ってんのよ」
私は自分の座席をバンと叩く。
「おーおーおーおーやめろやめろ。弁償させるぞ」
サングラスでいつにも増してイケメン補正がかけられているが、やはり声と言い喋り方といい倉岡だ。
「なんで高級車乗ってるからって、別にいいだろ」
「フェラーリで迎えに来る時点でこの質問されるのは目に見えてたでしょ」
「まぁな。別に車好きって訳じゃないけどカッコイイから乗ってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
怖い。純粋に怖い。
返答が一般人のそれではない。
フェラーリに乗るような人間は車が好きで頑張ってお金を貯めて買うか、あるいは本当にお金持ちのどちらかだ。
車好きではないとしたら本当の金持ちだとしか言えないのだが・・・
「ほら、着くぞ」
私達が乗った車は住宅街に入って行く。
豪華な家々が軒を連ねる高級住宅街に。
ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇ。
私は座席いっぱいに体をのけぞらせる。
美人な奥さんが優雅にガーデニングをしていたり、庭に設置されたバスケットゴール(一般家庭には普通設置されていない)でバスケットをして遊ぶ兄弟。
そんな家に駐車されている車はピカピカのレクサス、ポルシェ、フェラーリなど金額を見れば卒倒してしまうようなものばかりだ。
そこの一角。まだ新しいモダンな家に、倉岡は駐車をした。
倉岡は何も言わず、サッと運転席を降りてしまった。
ドアをバンッと閉められ、急に静寂をまとった車内に私ら1人取り残された。
運転席の窓の外から倉岡が面倒くさそうに手招きをしている。
「早く降りろ」と言っているようだ。
私は促されるままフェラーリから降りる。
倉岡はピッと車の鍵を閉めると、私を先導しながら玄関へ向かう。
黒と白のシックな色合いの大きな家。
「ここ、あんたんち?」
鍵をいじる倉岡は首を捻る。
「そうじゃなかったら誰の家だよ」
ガチャガチャと音を立てて開く扉の鍵。
両脇がすりガラスのオシャレな扉を倉岡は少し乱暴に押し開けた。
ついて入っていくと、玄関は広く、とても綺麗にしてあった。
「お母さんが綺麗好きなんだね」と言う言葉を口から出る寸前に飲み込んだ。
そうだった。倉岡の母親は今、病院でいつ目覚めるか分からない眠りについている。
と、いうことは父親か、はたまた倉岡自身の性格なのか、とにかく家の主の几帳面さが出るような玄関だ。
「そのスリッパ好きなの履いて。2階ね」
倉岡の言う通り、幾つか並べてあるスリッパのうち1つを足に引っ掛け、2階に登っていく倉岡の背中を追う。
半螺旋になっている階段の壁にはオシャレな絵やら何やらが飾ってあった。
その中に、子供の写真もあった。
女性に覆いかぶされて、嬉しそうに笑う男の子。
きっと倉岡と母親だ。
その仲睦まじい姿に胸がぎゅっと苦しくなる。
「何見てんの」
気付けば倉岡が、階段の上から私を見下ろしていた。
足が止まった私を怪訝に思ったようだった。
「いや、何も」
私は敢えて写真には触れなかった。
母親と倉岡の仲の良さは知っているつもりだ。
倉岡はふーん、とそっぽを向くと、階段を登ってすぐの部屋に入っていった。
私も続いた。
そこは倉岡の部屋だった。
今まで冷静だった心臓が、バクバクと激しくなる。
そうだった!!
家の豪華さやフェラーリに気を取られて何をしに来たか忘れてた!!!
何をしに来たか・・・・・・・・・・・・
私の後ろでドアがガチャりと閉まる。
倉岡が閉めたのだ。
「・・・・・・・・・・・・倉岡――?」
倉岡は息を吸って、私を見た。
「こっち来て」
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