第14話 『じゃ、付き合う?』

「うらら―――ごめん・・・・・・」


うららの大きな目が見開く。


周りの女子たちもざわざわと騒然としていた。


「ごめんなさい!」


私はもう一度そう言って頭を下げる。


「あ、綾乃ちゃん・・・!!いいから頭上げて・・・・・・ね??」


うららはそう言うと、バッグを置いていた隣の椅子をバババッと片付けると、「ここに座って」と言って手で示した。


私は大人しくそこに座る。


「ちょっと、うらら!!」


周りの女子が怪訝そうな顔でうららを咎める。


「シーーっ!」


うららはそれを黙らせた。


あぁ・・・・・・・・・私・・・・・・みんなに信用されてないのね・・・・・・・・・


私の胸の奥から熱が奪われていく。


・・・・・・・・・気付いていたのかもしれない。


『あーちゃん良く出来たわねえ』

『人の言うことなんて気にしなくていいのよ』

『綾乃が世界で1番かわいいわ』

『え?デブじゃないわよ!女の子はこれくらいぽっちゃりしてるのがモテるの』

『ほら、食べてる時の綾乃はキラキラしてるわよ』

『あなたに悪い所なんてないわ』


今までお母さんに言われてきた言葉が思い浮かぶ。


そう、都合が悪くなれば、いつもお母さんの言葉を思い出した。

痛みが大分和らぐから。いつも私が正しくなるから。


ふっ、倉岡にマザコンなんて言ったのは誰よ。

私が1番マザコンじゃない―――



倉岡の言う通り、うららはいつも全力でひたむきで、性格も良くて・・・・・・本当は可愛い。


・・・・・・もしかして完璧って、こういう子のこと言うんじゃないの・・・・・・・・・・??


「うらら、私、あんたがサラダ食ってるの馬鹿にしたけど・・・・・・努力なのよね、それ・・・・・・」


うららはにこやかに笑う。


「私、新体操やってるの。もうすぐ新人戦なのに体重増えててね。努力って言われればそうかもしれないけど、もうサラダには慣れてるから平気だよ」

「・・・・・・私は無理だった」

「え?」


そう口にした途端、悔しさが溢れてきた。

歯を食いしばって目をつぶる。


「私!ダイエットを初日で挫折したわ!!あなたを馬鹿にしといて、私はそれ以上の馬鹿だったの!!」


うららは私を見てポカンとしている。


「・・・・・・ごめん、もううららのこと、馬鹿にしたりしない・・・」

「ちょっと綾乃さん!」


そこで声を上げたのはうららではない。

あすかだ。


アスカは厳しい目を私に向け、金髪をなびかせながら怒鳴った。


「あなた、許されると思わないで!今回の事だけじゃないし!!

うららだって過去に何度もあなたに誹謗中傷されて、私だって、さやかだって馬鹿にし続けてきたじゃない!!今更『ごめんなさい』で済む訳ないでしょ?!」


アスカの叱責に、周りの女子も同じような表情で頷いている。


・・・・・・ええ、その通りよ。


こういう時、なんと言ったらいいのだろう。


人に許されようとしたことなんて、今まで1度足りともない。


「私は許すよ」


キッパリと、そう言ったのは―――


「うらら・・・・・・」


アスカが困ったような表情でうららを見つめる。


「私、確かに綾乃ちゃんに何度も傷つけられた。でも尊敬するところもあったんだよ。しっかり自分の意見を持ってて自己肯定感高くて。私に無いものいっぱい持ってる。それに今、綾乃ちゃんは反省して謝りに来てくれたじゃない。私はそれで十分だよ」


うららは目を細めて笑った。


「うらら優しすぎ!!私たちどれだけ我慢してきたと思ってんの?!」


あすかは怒りと困惑と悲しみが入り交じったような表情でうららの肩に触れる。


「あすかもごめん」


あすかは顔を伏せると、うららの肩から手を下ろした。


「・・・・・・あんたね!言葉じゃなくて行動で示しなさいよ!綾乃がちゃんと反省してるのか、時間が経てば分かるんだから!!」

「そうね・・・・・・頑張るわ。・・・ランチの邪魔したわね。後はごゆっくり」


私はそう言って席を立った。


「綾乃ちゃん!」


横を見ると、うららも席を立っていた。


「・・・・・・ダイエット、頑張ろうね」


優しい声と、愛らしい顔でうららは笑った。


「・・・・・・ええ。頑張りましょう」


私はそう言って彼女に背を向けた。


敵わないなぁ。


初めて心の底からそう思えたかもしれない。


何だか世界が変わったわ。

全く、私ったら何をそんなに意地張っていたのかしら。うらら、ちゃんと可愛いじゃない。

倉岡の言う通り、人の良さは内側から滲み出てくるものね。


席に戻ると、相変わらず倉岡は唐揚げを頬張っていた。


「おいっ!お前よくこれ全部食えるな!!おかげで授業間に合わねえぞ」


倉岡の目前の皿には唐揚げがあと1つ。そしてロコモコ丼がまだ半分ほど残っていた。


「人のご飯に向かって吹き出すのが悪いんでしょ!」

「あぁ?!ダイエットしてる奴がこんなに頼むのが悪い!!」

「うるっさいわね!!!もうこんなに頼まないっつーの!!!」


私は倉岡の向かいにドンと腰掛けると、ドレッシングが染み込んでしなしなになってしまったサラダをムシャムシャと食べ始めた。


それを見た倉岡の動きが止まる。


「お前、仲直りできたのか?」


私は口についたドレッシングを拭い、答える。


「うららとはね・・・・・・でも・・・・・・他の子には許して貰えなかった」

「お前のことだからどうせ喧嘩売り歩いてると思った」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


私は黙ってサラダを口に運ぶ。


イライラするけど事実なの。いくらムカついても否定出来ないからむず痒い!


「ダイエットのことはうららちゃんに聞け。うーん、お前、センスは悪くないからな。あとは中身とダイエットでどうにか誤魔化せるぞ」

「誤魔化すって失礼ね!!なんであんたにそんなこと言われなきゃ――――」

「俺の彼女になりたいんだろ??」

「――――――っっっ///////」


私の顔は真っ赤に紅潮した。

思わず両手で顔を隠す。


ホント何なのこの男!!!!////


恥ずかし気もなくストレートに口にして!!!


「あ、あんたね!!!人の気持ちを簡単にもてあそばないでちょーだい!!!」

「じゃ、付き合う??」

「―――――えっ?」



顔を上げると、倉岡は既にメガネを外していた。


そして・・・・・・・・・私の顔に、手が添えられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る