第15話 『まさかの交際開始?!?!』
倉岡はテーブル越しに身を乗り出し、私の頬に手を添えた。
メガネのない倉岡の目は・・・・・・綺麗で、うるうるしてて・・・・・・まつ毛が長くて二重が綺麗で・・・・・・・・・
そんな倉岡の顔が、少しずつ近くなる。
胸が高鳴る。
「―――ヘッ?!・・・・・・エッ――?!」
倉岡の薄いくちびる。
潤っていて、ツヤを帯びた唇が、微かに開かれ――――絶対アレするつもりでしょ?!ねぇ?!?!
お願い!!!止まって!!!
それ以上近付かないで!!!!!
そう叫ぶ心の声とは裏腹に、倉岡の顔に自分も顔を近づけていった。
あぁ・・・・・・・・・・・・キス、するんだわ・・・・・・
そう観念し、私は目を閉じた―――
キスが・・・・・・唇が・・・・・・・・・もうすぐ・・・・・・
・・・・・・あら?・・・・・・来ない・・・・・・??
パシャッ
何の音?!
目を開けると倉岡がスマホのカメラをこちらに向けていた。
スマホを下ろすと、倉岡は腹を抱えて笑い出した。
「アッハッハッハッハッ!!!か、顔!!!!情ねぇぇぇぇ!!!!」
半泣きで笑い転げる倉岡を見て、私の中の何かがブチ切れた。
「・・・・・・・・・おか・・・・・・」
「え??」
「死ねぇぇえ!!倉岡ァァァァァァッッ!!!!!!!」
私はテーブルを周り、倉岡の席まで走る。
「ちょっ!!!ちょっ―――ああっっ!!!」
仰け反った倉岡は椅子ごとひっくり返った。
逃げ場を失った倉岡の上に跨る。
「あんたねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!やっていい事と悪いことがあるでしょおおおぉぉぉ?!?!?!?!」
私は目を見開き、指の骨をボキボキ鳴らす。
倉岡の顔は血の気が引き、顔の筋肉がひくついている。
「あっ・・・・・・すみま・・・・・・せんでした・・・・・・」
「1発じゃあ済ませないわよ」
私は拳にハーっと温かい息を吹きかける。
その拳を大きく振り上げる。
倉岡はヒィッと叫び、必死に腕を振り回す。
「倉岡ぁぁぁぁっ!!!!覚悟ぉぉぉっ――」
「分かった!!付き合おう!!!」
「はっ?!?!?!」
私の拳は倉岡を殴る直前でピタリと静止した。
「ち、ちゃんと付き合うから!!許せ!!!」
倉岡は防御の姿勢の腕の隙間から私を覗き見る。
「だァァァれがあんたと付き合うと――」
「ほら!!ほら見ろ!!」
倉岡が上半身を持ち上げ、自分の顔をグッと私に近付ける。
「ほら!!イケメンだろ??な??」
自分の顔を指さし、にこっと笑ってみせる。
「だから殴るのはやめよう!!俺の顔がボコボコになっちまう!!!」
「あんたどんだけ自分大好きなのよ!!」
「頼む!!!殴るのだけはやめてくれ!!」
倉岡は両手をこれでもかとすりあわせ、頭をペコペコと下げる。
なんでそんなに必死なのよ・・・・・・
まぁ、確かにコイツの言う通り顔はいいのよね。
後は髪をワックスでセットさせて、メガネもコンタクトにさせなきゃね。服ももっとパリッとしたものを着させて・・・・・・
うん!コイツと付き合ってイメチェンさせれば私の株は爆発的に上がるわ!!!!
あすかやさやか、うららが私を羨ましそうに見上げる姿が想像できる。
「ごめん、綾乃、私が悪かったわ」
「綾乃ちゃん、やっぱり見る目があるわ!!」
「私にもモテる秘訣教えて!!」
ふふふふふふふ///////
私は1つ咳払いをし、倉岡を見下ろした。
「わかった。彼氏にしてあげてもいいわ」
倉岡は目を見開き、「おっ?!」と驚いた。
「じゃあ殴られなくて済むのか?!」
「ええ。その代わり!!」
私は倉岡の髪の毛を鷲掴みにする。
「イテテテテテテ!!!」
「あんたのこの陰キャ風ファッションをどうにかさせてよね」
私は倉岡の髪から手を離し、解放する。
「これにはちゃんと理由が―――」
私は拳を振りかぶる。
「わかーった!!!わかった、わかった、言う通りにする」
「理解してくれたなら結構。じゃ、よろしくね、倉岡―――彼氏を苗字呼びってなんか変ね。あんた、下の名前なんて言うの?」
「あ??別に苗字でも――――」
拳を振りかぶる。
「
拳を振りかぶる。
「すみません」
倉岡は小さく縮こまってしまった。
私はその様子を鼻で笑う。
倉岡は武力に弱いみたいね。
口ばかりデカいのも殴り合いの喧嘩なんてした事ないからでしょうね。
筋肉も付いてない骨と皮みたいな体してるもの。
「殴られたくなければ言うこと聞くのね、翔太」
「くっ・・・・・・」
倉岡は歯を食いしばり、心底悔しそうだ。
良かった。これでようやく平等な立場になれそうね。
その時――――
「あんたたちーっ!!」
突然の怒鳴り声に、私と倉岡はびくっと体を震わせた。
はっと周りを見ると、いつの間にか私たちの周りには人だかりが出来ていた。
しまった・・・・・・騒ぎすぎた・・・・・・・・・・・・
怒号のした方を見ると、白いエプロンを付けた中年の女性、食堂の長である
背筋を嫌な汗が伝う。
このオバサンはこの食堂で学生に料理を振る舞い続けること25年のベテラン。
そして学生に対する愛のムチなのか、校則や態度、風紀に厳しい事でも有名なのだ。
その恐ろしさは1年生の私よりも、4年生の倉岡の方がよく知っている様だった。
牧さんが近付くにつれ、倉岡の顔からは血の気がなくなっていった。
「ま、牧さん!!!あっ、これは違うくて・・・・・・」
倉岡はメガネをかけ直し、牧さんにペコペコと頭を下げながら弁明をしに行く。
「黙らっしゃい!!!」
しかし牧さんはそれを一喝。
ふんっ。なんて頼りない。
ここは優等生の私の出番ね。
私は倉岡を押し退け、牧さんに対峙する。
「すみませぇん。テーブルの下にゴキブリが出たもので。もう退治したのでご心配なく」
「へぇ。それは本当かい??」
「ええ、本当です。あっ、もう授業が始まる時間なので行ってもいいですか??」
牧さんは納得した様子ではなかったが、「授業」となると強く出れないらしい。
少し考える仕草をし、肩をすくめた。
「分かったよさっさとおいき。ほら!!あんたらも見世物じゃないんだよ!!お散り!!!」
牧さんは取り巻き達をシッシッと手で払い調理場へ帰って行った。
群衆もざわめきながらも去っていく。
「さすが口達者なだけあるな」
倉岡が冷や汗を拭いなが言う。
「あんたそれ嫌味??」
「いやちゃんと褒めてるよ?」
「信じられないわ」
「あっそ。じゃあどうしたら信じるんだよ」
「さあね!!あんたの不信感は今に始まったものじゃないの!!時間が経たないと信用できないわ」
「ったく・・・・・・しょうがないな―――」
倉岡は頭を振って前髪を取り繕うと、私の目を見た。
「・・・・・・・・・何よ」
倉岡は何も言わず、手のひらを私の顔に伸ばしてくる。
「あんたっ!!さっきと同じ手は喰らわないわよ!!」
倉岡は反応することなく、片手で私の頬を包み込むと、ぐいっと引っ張った。
「だからやめ――――」
!?!?!?!?!?!?
唇が、ぷにぷにとした柔らかい感触に包み込まれた――――――
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