第13話 『俺がお前を変えてやる』

目の前に座っているのは間違いない・・・


倉岡だ・・・


「な、何でここに座るのよ!!シッシッ!!」


私は手をヒラヒラと振ってあっち行けという仕草をする。


それを倉岡は冷ややかな目で一瞥すると、私を無視して丁寧にフォークにサラダを刺し始めた。


「ちょっと聞いてんの?!」

「ったくうるせえな。お前が1人で寂しそうにしてるから来てやったんだろーが」


観念したように、倉岡は顔を上げて言い放つ。


「あんたに同情される筋合いなんてないわよ!!!」

「ほら見ろよ」


倉岡がフォークで示した先には、くららやあすか、さやかが楽しそうにテーブルを囲み、ご飯を食べていた。

ガラスから差し込む太陽が、彼女たちをキラキラと輝かせる。


「・・・・・・アイツらが何よ」


倉岡は目を細め、私の顔を覗き込む。


「お前良いのかよ、ずっとボッチで。プライドが許さねえんじゃねえの?」


胸の奥がズキズキと痛む。


「・・・うるっさいわね!私の問題なんだから放っておきなさいよ!」

「あーあーあーあー。デブはよく吠える。わかーった。もう関与しねえよ。

だが、俺が聞いてた限りお・ま・え・が謝ったがいいって忠告はしとくぜ」

「人の会話盗み聞きしてアドバイスなんて大層な神経をお持ちですこと!!!!」

「お前さあ・・・素直にならないとモテないぞ?」


倉岡は残念そうに溜息をつくと、コップに口を付けた。


「結構!!!私、既にモテるんで!!!」


途端に倉岡は吹き出し、私の全身と、なんと!!大切な大切な私のご馳走たちに降り掛かった。


「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっっっっ!!」


*******************


私の目前に、ホカホカ作りたてののロコモコ丼と唐揚げ定食が並ぶ――はずだったが・・・


「く、くらおかぁ〜???なんなのよこれェ〜??」

「んー??」


倉岡は先程まで私が食べていたはずの唐揚げを美味しそうに頬に詰め込んでいる。


私は机を叩いて立ち上がる


「『んー??』じゃないわよ!!!なんで唐揚げやロコモコ丼じゃなくてサラダなのよ!!!!!」


倉岡は唐揚げを飲み込み、立ち上がり肩で息をする私を見上げ、「まあまあ」という仕草をした。


倉岡が吹き出したせいで台無しになったおかずは倉岡が責任を取って食べることになり、私の昼食を弁償するという話だったのだ。


「『まあまあ』じゃないわよ!!サラダ如きがロコモコ丼と唐揚げに成り代われると思わないで!!!!!」

「はぁ・・・・・・お前さあ、ちょっとは俺に好かれる努力してんの???」

「?!?!?!?!?!?」


今朝の出来事が走馬灯のように流れる。


大好きなフレンチトーストを我慢してサラダを食べ、朝から体操服を着てランニングをしに公園まで走った。


その努力は・・・・・・


「し、してるわよ・・・・・・・・・!!」


恥ずかしかった。


コイツに認められようと頑張っていたのに、その努力の一片も倉岡に見せることが出来ずに挫折した。

そこに唐揚げとロコモコ丼を頬張っいる所を見られたのだ。


屈辱的だわ・・・・・・


私は力なくひょろひょろと椅子に腰を下ろした。


「ふぅん。これで努力ねえ」


倉岡がマヨネーズと塩コショウ塗れの唐揚げをつついた。


「・・・・・・・・・・・・」


私の顔が青ざめていく。


何も言い返せない・・・・・・


倉岡はそんな私の顔を見て、ふっと鼻で笑った。


「1人で出来ないなら俺が手伝ってやる」

「――っ!!!そ、それくらい1人でできるわよ!!」

「いーや、出来ないね。俺に任せろよ。それに、サラダを買ったのは痩せてもらう為だけじゃない」


倉岡は片眉を上げ、『向こうを見ろ』という仕草をする。


その先には先程と同じようにさやかやうららたちが居るテーブルがあった。


「だからあの子たちのことは分かっ――」

「食べてるものを見ろよ」


????????


私は倉岡が言っている意味が分からず、言われるがまま、彼女たちが食べているものを見た。


さやかを始めとした女子たちは、サンドイッチやら小さなお弁当やらでアホほど可愛らしいランチを食べている。

『ザ・女子』ってカンジ。


あっ。うららだけサラダだ。


私が馬鹿にしたサラダの弁当。

彼女は今日も1人、サラダを食べていた。


「彼女、頑張り屋さんだろ」


正面に向き直すと、倉岡が肘を付いて顎を乗せ、彼女を見ていた。


ズキッ――


?!


私はぎゅっと胸を抑えた。

また・・・・・・心が痛い・・・


何よ・・・・・・うららなんてそばかすいっぱいで可愛くないじゃない・・・・・・

なんでそんな奴のこと褒めるのよ・・・・・・


倉岡は目を細め、うららを見て続ける。


「うららちゃんとは小学校の時部活動が一緒でね。その時から可愛い後輩だったよ」

「こ、後輩?!ちょ、ちょっと待って!!倉岡、あんた学年いくつなの?!?!」


倉岡が眉をひそめる。


「は?4年だけど」

「!!!!!!!!!!!」


なんと!!!3つも上ではないか!!!!


私の驚く表情に倉岡は落胆する。


「ったく。アホかお前。病院のバイト、1年以上働いてんだから歳上っていうことくらい気付くだろ。」

「!!!!!!!!!」


年齢なんて考えてなかった!!!!


いきなり無礼で屈辱的な扱いを受けたせいで年齢関係なしにドブみたいな人間だと思ってたせいだ!!!!!!!!


「はぁ・・・・・・まぁいいよ。今更お前に敬語使われても気持ち悪いし。とりあえず、お前がサラダ如きにこんだけキレてるのにうららちゃんはずっとサラダ食ってダイエット頑張ってんの。分かる?」

「うっ・・・・・・」

「ちょっとは自分の愚かさを反省しろ。そしてうららちゃんに謝れ」


私は俯き、歯を食いしばった。


そんな・・・・・・私が・・・・・・・・・愚かなんて・・・・・・・・・


「お前はダイエットも大事だけど何より中身を変えろ。人間の美しさっていうのは中身から滲み出てくるんだよ。」


倉岡は唐揚げをつまみ、口に放り投げた。

「こしょうかけすぎじゃね??」などとほざきながらも食べ続ける。


『彼女、頑張り屋さんだろ』


ズキッ――


先程の倉岡の言葉を思い出し、心が痛んだ。


私だって・・・・・・私だって――


「・・・・・・・・・・・・わかったわよ・・・・・・・・・謝ればいいんでしょ、謝れば・・・・・・」


私はいつもの倉岡のような声量で呟く。


「あぁ、そうだ。とりあえずお前はそれでいい」


私は椅子を蹴って席を立った。



向かうのはうららの居る席――


ずんずんと近付いていく私に気付いた彼女たちから、小さな悲鳴が上がる。


テーブルの前まで来た時、唯一うららは動じずに私のことを真っ直ぐな目で見つめていた。



「うらら――――」

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