第75話 友人たち
「それはそうだな。突然、幽との時間を減らすなんてことはない」
それは決まっている。誰から誘われようとも、幽ほど気の合う友人は存在しないから。誰だって1人くらいは親友と呼べるような関係を築く人は居るはず。本物の1人ボッチなんて、そう居ない。
こんな俺でも言い合える友人が居て、ゲームなんて、最近は男女関係なく趣味として知れ渡った今、こんなにも楽しめる異性は珍しく、重宝するべきだ。
「ならいいけど。今はそれどころじゃないだろうし、私は私なりに楽しんでるから、色々と後回しで良いよ」
「ゲームの話か?」
「うん。澪のことだったり、分からないことがたくさんあるでしょ?だから、その時間を確保するために、私は1人でゲームしてるから」
「……見透かされてる気分だな」
自分の定かではない気持ちは、誰にも言っていない。けれど、幽には言っているようなものなのだろう。早乙女さんの親友でもあり、俺の親友でもある。そんな関係上、違和感は覚えやすいのだろう。
「私はなんでも分かるからね」
「そうかよ」
じゃ、恋について、なんて聞いても、返ってくる言葉に意味はない。幽だって、俺と遊ぶということは、それだけ経験が浅いということ。昔から隣に立つのはいつも俺だったから、恋愛感情すら知らない人っぽいし。
「とにかく、風帆くんは自分の気持ちに答えを出さないとだめだよ」
「……なんのことだ?」
「それは、自分が知ってるんじゃないの?浅い浅い、知識の中でも」
ここで学業の話をするわけでもないし、ゲームの知識は浅くない。だったら何を意味するかは、自然と1つしかない。
「その答えが出るのに、まだ時間がかかりそうだからな」
「それは違うよ。答えは出てるけど、本当かどうか疑うために、知らないふりをしてるんだよ」
心の中を読まれたような、図星をついてくる。鷹揚とした声で、真剣な表情で、でも内心では楽しんでるようで。
「私自身、何を言ってるのか分からないけど、多分今の風帆くんはそういうことだから」
「そういうこと……ね」
これが俺と早乙女さんとの関係に、一言アドバイスというか、まどろっこしいからさっさと知れ、という思いが込められてるのをひしひしと感じる。
「まぁ、私にはほぼ無関係だし、楽しければそれでいいから。いつか、いい報告を聞けたらそれで十分」
「ずっと聞けなかったら?」
「それはそれで、意気地なしとゲーム出来るし、好きなことで風帆くんを連れ回せる」
「それは良いかもな」
きっとそれでも、俺は幸せなんだろう。埋められなかった、幽とはそんな関係には至らなかった結果、親友としての確固たる地位を築いてしまった。
本当なら、俺の埋まらない、寂寞な気持ちの中を、幽が時間の経過とともに埋めてくれるはずだった。けれど、中学生からの付き合いだと、流石に高校で突然好きになることなんて不可能でしかなかった。
だから、と言えば失礼だけど、早乙女さんの距離感に敗北し、この気持ちを芽生えさせられたのだろう。
「どうせ2人の間に入れる猛者は誰も居ないし、長く続けても、取られる心配もないから、ゆっくりやりなよ」
俺の腹を軽く握り拳をつくって叩く。すると、タイミングよくクラスメートに呼ばれ、「はーい」と答えた。
「応援してるよ」
「ありがとさん」
言って、呼ばれた先へと走って向かう。
「ヴァァ!」
「……なんだよ」
視線を戻すと、すぐそこに、今度は翔が居た。親友であっても、翔には俺の他に友人が多数存在するため、俺との交流は少なめ。そんな翔がわざわざ何用かと、珍しくて聞いてしまう。
「つまんな。驚けよ」
「つまらない驚かし方に、つまらない反応以外出来るかよ」
「冷てぇな」
幽よりも少し強めの、毒舌気味になる俺は、最近だと珍しい。ずっと幽と早乙女さんと一緒だったので、邪悪というか邪念のない綺麗な俺が今まで普通になっていた。本当は、口悪いただの男子高校生なのに。
「それで何?わざわざ驚かすために来たんじゃないだろ?」
「いいや?驚かすために来たぞ。周り見ても、お前くらいしか驚かせ役を担うやついねーし、暇だったからな」
「つまんな」
「おいおい、それはひどくね?これでもボッチになったお前を助けに来たんだぞ?」
「幽居たから、ボッチでもなかったけどな」
「どっか行ったけどな」
指差して、仲のいい友人と会話しているのか、ニコニコしている表情に嘘はない。いつも俺とばかり話しているが、しっかりとクラスメートに友人は1人2人は居るらしい。誰なのかは、俺も知らないけれど。
「もう少しで始まるからな。忙しいんだろ、それぞれの役割で」
驚かせ役には、固定の場所で動くことしか出来ないため、そんなに役に困ることはない。タイミングと出る構えをミスしないのならば、問題もないし。
「それにしても、お前も俺も、驚かせ役に似合わねーよな」
「そうか?お前は似合ってると思うけど?」
「逆じゃね?どっちかって言うと、いつも騒いでる俺よりも、影薄いお前の方が、絶対に似合ってるけどな」
「ここに、おばけが居ると思ってくる人なんて誰も居ないだろ。だから、どれだけ大きな声で、タイミングよく驚かせるかが鍵になる。その点に於いては、お前に軍配が上がるだろ」
本場アトラクションのお化け屋敷でもあるまいし、ここの短い通路で、驚かせる意味は少し違う。
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