第61話 寄り添い方
「それで、風帆くんの方は解決したのかな?」
「たった今したから、残念だけど、助言は必要なくなった」
我ながら自己解決するとは思えなかったが、思うこと感じることが、似た境遇だからこそ理解出来たことが幸いし、解決に至った。とはいえ、自分の中での話だ。早乙女さんがどうなのかは分からない。
「そっちもそっちで、珍しく解決してるなんてね」
「せっかくお姉さんが解決してあげようと思ったのに」
「先輩も、ただ徘徊を趣味にした人になりましたね」
「悪くないけどね。日々疲れること多いし」
リラックス出来る場所は、心身ともに癒やされる。基本を生徒に一任した学校なので、何もかも運営に時間を使わされる生徒会には重宝されるのではないだろうか。
どこの学校と比べても、生徒の要望が通りやすい学校。それが明日歌だ。隣の風蘭よりも、圧倒的に自由で融通の利く高校。だからこそ、絶対的な力を持ち、生徒たちの不満は良くも悪くも多く出回る。
「明日も登校だし、ここ最近はずっと疲れてるよ」
「何曜日が憂鬱じゃないのか知りたいくらいですよ」
今日は土曜日。日曜日すらも休みではない学校は、どれだけ大変かを知らない。
「ほとんど生徒会室だからね。もう休日とはなんなんだって思ってる」
「それを知って生徒会に入った姉さんが悪い」
「確かに。けど、人数増やすとかしても良いと思うけどね」
「それを生徒会長に進言すれば?」
「誰が入りたいと思う?霊、あんたが来る?」
「面倒だから嫌。それこそ、澪だったり風帆くんを選びなよ」
「巻き込むな」
「風帆くんは難しいだろうけど、早乙女ちゃんなら承諾してくれるかもね。けど、これから八尋の退学の噂が広がれば、気分的には有名人の集まりである生徒会には入りたくないだろうね」
1度何かを抱えた人は、慣れることはあっても思い返すのは嫌いだ。負いやすい傷は、広がりやすい。また八尋先輩によって、過去の嫌なことを思い出すのは早乙女さんも、幽先輩も望んではいない。
「そうですね。ところで、その八尋先輩はどうなるんですか?」
「表では一応退学ってことにしてるよ。けど、本当は八尋の両親に事細かに伝えてるし、その後に警察へレッツゴーしてもらうから、今頃泣き出してると思うよ」
「そうですか。それは良かったです。
人としてあり得ない行為をする人は何人も存在する。それは高校生だろうと関係ない。学習を経ている段階ですら、気に障ることがあれば犯罪に手を染める。そんな根っからの我儘を言う社会不適合者は、この世には必要ない。もう人の前に現れないでほしいものだ。
「やるだけやったって感じだね。あの時私を呼んだのも大正解だし、それで姉さんも来たんだしね」
「俺が止められなくても、幽なら止めれると思ったからな」
鍛えられた護身のための武術。場所が悪くても関係なく、身長差20を超える相手ですら臆さず気絶させてみせた。反抗したらこうなるのだと、改めて見せられた。
「それでも無理なら私も居たし、スムーズに解決だったね」
「はい。2人には本当に感謝してます」
無力だったが、暴行されたという点に於いては、八尋先輩の罪を重くすることは出来た。貢献とは思わないが、同じ土俵に立つことに嫌悪感があって良かったと、心底思う。
「また何かあれば呼んでね。お姉さんが生徒会と武の力で解決してあげるから」
「心強いです」
幽ですら敵わない相手、それが幽先輩。あの場にいたならば、どんな方法で解決してたか気になるのは俺だけじゃないはずだ。
「それじゃ、私は戻るよ。姉さんと風帆くんは?」
「霊が戻るなら私も戻るよ」
「俺はもう少し風に当たるから、ここでさようならだな」
「そう。ならまた今度」
残るのは、解決の余韻と、これからどう寄り添うかを考える時間。自分でもかつてないほど考えることが多いことに、恥ずかしさと違和感を抱くが、それでも悩みがあることは少し嬉しかったりする。
「またな」
「またねー、風帆くん」
「はい」
横に並んだ2人は、幽霊が右幽寧が左の腕を挙げて、双子のように息ぴったり横に振った。それに応えて俺も手を振り、ゆっくりと腰を下ろした。
別れ際、スッキリとした気持ちで手を振れる良さを感じた。心の中に何引っかかるものがなくて、これから自分の幸せのために何をすることが正解なのかを、考えることが楽しみだった。
受ける風はどれも微風。しかし、秋が近づく今だとそれも涼しい。雑念を取り払うそれらに身を任せて、俺は空を仰ぐように背を地につけた。
「距離感……一緒に寝るとか、か?」
どうすれば穴埋めの対象になれるか、俺は模索する。最上位に何があるのか、その答えは知っている。単純明快な恋人だ。寄り添えるほど、お互いを好きになり、幸せを得る。
しかし、それが分かっていても容易ではない。現に、俺は好意を持ってないし、早乙女さんもそう。だから求めるのは、まずは早乙女さんの要望に首を縦に振ること。嫌なことは嫌だというが、これまでを思い返すと、そんなことはなかった。だから出来る最善の策はやはり、それだけだった。
今日はなんだか答えが天啓のように思いつくな。そのための試練だったりしたら、面白いんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます