第45話 助っ人
一瞬眉を寄せて、その人を確認する。様子からして知り合いかとも思えたが、制服が違った。他校の生徒と交流をする八尋先輩なのだから、同じ学校の生徒ではないのは確かだが。幽先輩はハッとしたように言う。
「あれ?華?」
「……ん?あっ、寧じゃん」
「やっぱり華だ。こんなとこで奇遇だね」
お互いに手を振り合い、珍しくも知人に会えたことを喜んでいる。少し開いたドアの奥からは、八尋先輩と思わしき人の声が聞こえてきた。すぐに閉じたが、今すぐ外に出てくることはないと確信はした。
「寧こそ。カラオケ嫌いじゃなかったの?」
「大嫌いだけど、今日は用事があって。ちょうど華が出てきた部屋に居る男にね」
「八尋くんに?」
「うん。取り敢えず、私たちは八尋にバレると良くない立場にいるから、借りた部屋に入らせてもらうよ。華も少し付き合って。トイレとか言ってきたんだろうから、少しは大丈夫でしょ?」
「えぇ?いきなりだね。いいけど」
いかにも、フッ軽そうに見えるこの女性。他校の生徒でも、幽先輩とは親しい仲らしい。副生徒会長というだけあって、他校ともそれなりに交流はしているのだろう。それにしても美人だ。特に目。透き通るほど曇りのない双眸に、くりっとした丸い目ではなく、キリッとお姉さん感のある目。スタイルなんて隣立つ幽先輩よりも良い。
長話で時間をとらせるわけにもいかない。そう判断したからこそ、幽先輩は華という友人の手を引いて、借りた部屋の中へと姿を消した。それに倣うように、俺と幽もササッと入る。
「いやー、焦ったね。それにしても、まさか華が出てくるなんて。そうだ、2人に紹介するね。この人は私の友達で、隣の
「どうも、花宮華です」
風蘭高校の生徒会長。一応共学だが、男女比3:7の女子生徒が多い高校。全校生徒は700弱と聞いているため、
しかし花宮……どこかで……。
「それでこの2人は、こっちの男子が七夕風帆くんで、こっちの女子は私の妹の幽霊」
「「どうも」」
ペコッと同じタイミングで同じ単語を同じイントネーションで。相性抜群関係なく、それ以外に思いつかなかっただけのコミュ障あるあるだ。
「七夕くんに霊ちゃん。私のことは華でも花宮でもハナハナでも好きに呼んでいいからね」
「はい。ありがとうございます」
多分、ハナハナって呼ぶ人は親しい人たちにしか許されない領域だろう。下の名前を呼ぶわけにもいかないし、ここは無難に名字だ。
「それで?私をここに入れた理由は?」
「質問するためだよ。早速、単刀直入に聞くけど、八尋と何する予定だったの?」
少しでも怪しまれたくない。なら、少しでも早く帰すことが求められる。幽先輩は若干早口になりながら聞いた。
「んー……」
聞かれてまずそうに、言っていいのか悩むように唸る。
「言えないこと?」
「言えないっていうか、言いにくいって感じ。説明がね」
「それって、八尋の女癖が悪いってことに関係してる?」
「え?何でそれを……」
「大正解みたいだね。大丈夫、私たちもそれが理由でここに来てるから」
「そうなの?」
ということは、他校でも知られてるということ。もしかしたら、うちの高校以外では大胆に行動してるのだろうか。最近いい噂を聞かなくなったのも、それが原因だったりしてな。
「八尋先輩が浮気してるって話です。花宮さんが、その浮気相手だとしたら悪いんですけど、八尋先輩には彼女が居るんです。でも、最近その彼女と別の女性と一緒に居るとこを見て、それ以降怪しむようになりました」
記憶を辿れば、花宮さんは浮気相手ではないと思う。身長も横顔も、その1度見たら覚えるほどの美しさが、あの時にはなかった。失礼だが、これほどの美人ではなかった。
「それ本当に?私も全く同じ理由なんだけど」
「……面白い展開になってきたね。詳しく聞かせてください」
幽の悪いとこだ。自分にデメリットがないからと、好奇心から深くまで潜ろうとする。楽しさと幸せを求めて、止まることを知らない猛獣だ。
「うん。私がここに来てるのは、私の友達が八尋くんの彼女で、少し前に楓香、いや、私の妹から八尋くんとうちの学校の人気女子が、朝頻繁に登校してるって聞いたからなの」
楓香。妹だと言い直したが、それで先程の謎は解けた。
「妹は恋愛に疎いから、朝頻繁に登校することを何とも思わない。だからもしかしたらって思って今日、その子ともう1人の友達連れて聞き出そうかなって来たんだよ」
「なるほど。少し話が逸れるんですけど、花宮さんって花宮楓香先輩のお姉さんなんですか?」
「あぁ、うん。そうだよ」
花宮楓香。うちの生徒会長だ。寡黙で何を考えてるか分からない、けれどそれが、大人の女性として完璧な花宮先輩には似合うと、これまた人気の生徒。恋愛に疎いなんて、プラスにしか聞こえないほど、完璧な人だ。
「私と楓香は双子で、学校は単に楓香の記入ミス。別にここに行かないとって決めてはなかったし、問題はなかったけどね」
「すっごいよね。2人とも2年生で生徒会長なんて。私の上を行かれてるよ」
「大差ないけどね」
幽先輩だけでも頼もしかったのだが、もう1人、追加で強力な助っ人を引き込めそうだ。いや、もうこの段階では、助っ人なんて必要ないほど追い込めたかもしれない。
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