第46話 別れるべき

 「話を戻しますけど、花宮さんの言うことが本当なら、もう確定ですよね」


 「ってことは、ちゃんとそっちにも彼女は居るんだね」


 「はい」


 「そっか。それならもう、私たちが探る必要もないか」


 求めていたのは、彼、八尋先輩の浮気しているという確たる証拠。それを言葉だが、ほぼ確定させたのだから、詮索する必要は消える。


 「華の友達は、あいつがうちの生徒と浮気してるの知ってるの?」


 「いいや、知らないよ。私が楓香から聞いて行動してるだけだからね。でも、近々教えると思うよ。流石に知ってて放置するのは可哀想だし」


 「あいつの独断で浮気してるってことね」


 「うん」


 人の恋は様々な種類が存在する。けれど、許されないのは浮気だ。一夫多妻制ではないこの国で、片方の身勝手により多くの人と交際するなんて、承認欲求の塊でしかない。


 リスキーな行動が大好きな人ならば、そういう性格になってしまったことを悔いるばかりだが、どの道の上を歩こうと、互いの合意なしの複数交際は悪だ。


 「風帆くんも、放置するのは好きじゃないでしょ?」


 「はい。戻ったら伝えようかと」


 早乙女さんがどうであれ、真剣に交際を続ける人が浮気をされるというのは気分を害する。人として普通の考えを持つので、それは間違いない。


 家庭環境は多分良くなかったのだろう。その影響で、心の拠り所として八尋先輩を彼氏として隣に置いた。心に空いた穴を埋めるための存在としてでも、少なくとも好意はあったはず。それを踏みにじる行為は、似たような境遇で生きてきた俺には憎いほど共感出来る。


 右手を静かに力を込めて握った。そして思う。早く八尋と別れるべきだと。


 「これで少しは解決に近づけたかな」


 「まさか善人とかイケメンとか、色々と言われてる人気者がそんな性格だなんてね」


 「あいつは人として、関わり方が狂ってるんだよ。私にも肩に手を回したり、お尻触ったりとか普通にするから、どうしようもない変態だよ」


 「でも、姉さん返り討ちにするから、お互い被害者だけどね」


 「失礼な。正当防衛だよ」


 「過剰防衛だよ」


 「それ、実はボコボコにされるために触れてるんじゃないですか?そういう性癖の人も居るらしいですから」


 「あいつならあり得そう。気持ち悪い」


 人の性癖をバカにするつもりはないが、異性同性問わず、人の体に勝手に触れることは良いこととは言えない。お尻に触れるなんて、どんな蛮勇でそんなことが出来るか知りたい。


 「寧はモテるからね。変な人に付きまとわれるのも無理ないよ。っと、そろそろ戻らないと。色々と聞かせてくれてありがとね」


 「いえ、こちらこそ」


 「んじゃ、3人ともまたねー」


 「皮肉言って帰るなよ。気にしてないけど」


 楓香先輩の次にモテるため、皮肉言おうと思ってなくても、皮肉に聞こえるのは、少しばかり気にしている証拠だ。幽先輩らしく、可愛らしさはご健在らしい。


 残された、というか元々揃っていた3人。早速することもなくなってしまうという、嬉しい誤算。


 「はぁぁ。なんか晴れた気分でスッキリした」


 「俺は少しモヤモヤしますけどね」


 「仕方ないよ。澪と1番距離近いんだから。しかも心配性で優しい風帆くんなら、それくらいでモヤモヤするのは当たり前でしょ」


 「そういう時は、パァーッと徘徊でもするんだったっけ?久しぶり寧お姉さんとワイワイ夜の街を歩いてみる?」


 「嬉しい提案ですけど、幽先輩と徘徊すると、翌日学校でも日を跨がされるほど付き合わされるので、遠慮します」


 幽姉妹とは徘徊仲間といっても過言ではない。幽先輩との数は少ないが、二桁は共にした。毎回海岸線付近で歩き回る俺とは違い、街の中へと進まされるので、必然的に帰宅が遅められる。


 ただ歩くだけ。でも幽先輩は会話の終わりを知らないから飽きることはない。静かな夜とは違い、賑やかな夜。それを気分転換で味わえるのも一興ではあるが、日を跨がれるのは難点でもある。


 「そっか。なら、自宅で2人ゆっくり話して解決しなよ。多分今日の夜とかは、明日の登校に支障を来すかもしれないから、明日の夜に言った方がいいよ。金曜日だし」


 登校だけは一緒に過ごす早乙女澪と八尋隼也。金曜日ということも相まって、幽先輩なりの気遣いだろう。


 「そうですね。面倒なのが嫌ですけど」


 今はそれを超える必要がある。面倒を起こした相手が八尋先輩なのが癪に障って障って鬱陶しいが、スッキリするためには一発面倒を乗り越えなければ。


 「私も手伝うから、悩んだら秀才の私に何でも相談して」


 「心強くて助かる」


 学年成績1位であり、運動能力も抜群。そして自分の身と他人の身を守れるほどの武術持ち。非の打ち所がないの権化だ。頼らない手はない。


 「それじゃ、せっかくだし歌う?」


 「隣に歌声聞こえません?彼氏さんがトイレ行こうと出た時に、声聞かれたらバレますよ?」


 「確かに。1時間何か適当に時間潰せないかな」


 「カラオケ嫌いな3人がここに集まるのがダメなんだよ」


 ごもっとも。仕方ないとはいえ、早々に片付いた目的に、無駄に時間を使わされるとは勿体ないとしか言いようがない。


 「まぁ、解決したってことで寝たりしようかな」


 「自由人っていいですね」


 「どこでも寝れるだけだよ。激務の後は睡魔だからね」


 つまり、慣れたということか。

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