第36話 興味
八尋先輩と幽先輩は同族嫌悪のようなもの。俺からすれば、副生徒会長を務めて親友の姉で、会えば気さくに話しかけてくれる幽先輩の方が圧倒的に良い人に見える。だから、然程知らない八尋先輩のことをどうこう言えないが、噂や見たもので判断するなら嫌悪されるのは当たり前だと思う。
「結構ノリ気だな」
「私なりに楽しそうなことに首を突っ込んでるだけだからね。自分の恋愛とかよりも、人の恋愛って面白いじゃん?」
「見てる分には面白いかもしれないけど、実際その他人の恋愛に入ろうとしたことがないから分からない」
誰々が恋愛してる。なんて聞いても興味はない。どうせ学生の青春って言葉に酔わされた一時の時間潰しなんだから。昔からそうだった。中学生の頃は、こんな未熟な歳から恋愛なんてありえない、と思っていたから、どうも恋愛感情を持つ人に近寄りづらかった。
だから今も友人が少ないのかもしれない。けど、友人なんて多ければ良いってもんじゃない。よく一緒に居られる親友が2人も居れば俺は十分だ。
「それが風帆くんだからね。似合わないよ?人の恋愛に興味あるの」
「失礼な。一応男なんだけどな」
「それでも興味ないのはどうしようもないでしょ」
「まぁな」
言われると、思う。何事にも最初から興味を持たないのは良い事なのか悪いことなのか、と。多分その時その時の場面によって変わるのだろうが、俺は一概に悪いことだと思っている。
コミュニケーションを鍛えたり、意欲を持って取り組む必要のある学校生活。それらを人生で1番担う大切な時期に、何事にも興味を示さなければ、損を大きくするのだと自分でも分かっている。
それでも、いつか失うことを先に考えるから、心底どうでもよく思う。悪い癖と言えばそうかもしれない。元母の影響で、俺はここまでおとなしく内気な性格にもなったのだから。
変えられるなら変えたいと、まぁ、そう思わないことはない。
「そうそう。そんな八尋先輩と澪との馴れ初めって知ってる?どうやって付き合ったのか」
寄り掛かった体を離したと思うと、小さな頭を俺の膝に置いて寝る。横に1mズレれば落ちるのに、全くそんなことを気にしていない様子で。
「制服汚れるぞ」
「大丈夫だよ。それより、私の質問の答えは?」
「答えは、知らない、だ」
知るはずがない。知っていて聞いたのだろう。幽はクスッと笑って目を閉じた。
「知りたい?」
「知りたい」
「珍しく他人の恋愛に興味持ったね」
「他人じゃないし、今は聞くべきことだからな。もう片足は踏み込む準備は整ってるし」
「それもそっか」
なんだか新鮮だ。今まで幽を膝の上に寝かせたことはなかったから、下から見上げられるのは。恥ずかしさもあるが、動物に愛されてる感があって心地良い。
「って言っても、私もそんなに知らないんだけどね。知ってる範囲で言うと、付き合ってと言われた日から気になりだして好きになったらしい。最初は全く意識してなかったけど、八尋先輩からグイグイ来られて、いつの間にかって言ってた。それが馴れ初めっていうか、好きになった理由だね」
「なるほどな。つまり、早乙女さんが負けたってことか」
「そうなるね」
「んー、でもそれなら変だよな。彼氏さんから寄って来たのに、実は早乙女さん以外の人が好きですって」
「性格悪い人のすることは分からないからね。キープしてるとかもよくある話だし」
その世界の話はよく分からないな。
美少女を何人も捕まえたとして、何が良いのだろう。ステータスにしてはダサいし、バレれば威張れるなくもなるし、自意識過剰で承認欲求の塊とも思われるかもしれない。そんなリスク背負ってまで浮気とか……。
「ここまで来ると、本当に浮気してるのか分からないくらい情報が酷いな。俺なら絶対に出来ない」
「それを平然とやる人も、この世界にはたくさん居るんだよ。その1人が八尋先輩かもしれないんだから」
「マジか……十人十色とか言うけど、マジでそうだな」
勝手に、浮気してる前提で話を進めて悪いが、本当なら、よくそんな性格の人が人気者として君臨出来ているなと、猫をかぶることの凄さを痛感する。
冗談とか、人を楽しませるために猫をかぶる人は好きだし、誰もが好感を持つだろう。でも、自分のことだけ考えて、誰かに迷惑をかける猫かぶりならば、共感も出来ない。
「可能性の話だからね。どうなのかは確定する証拠がないと分からないし」
「結構可能性の話じゃなくなってる気がするけどな」
「それは仕方ないよ。八尋先輩の良い噂を聞かないんだから。2年生の中でも裏では広まってるとか」
実は生徒会長が表を牛耳るのに対し、副生徒会長は裏を牛耳っている。つまり、抜け穴は全て幽先輩が網羅しているということ。だから自然と幽もその影響で様々な情報を知っているらしい。そんな中でも広がる悪い人だという噂。きっと嘘ではないのだと思う。
「なんにせよ、尻尾を捕まえないと確かなことは分からないってことだね。姉さんでも証拠までは掴んでないし、多分風帆くんが頼まないと動かないから」
「先輩には頼まない。変に怪しまれたら先輩が迷惑するだろうしな」
「そういうとこが姉さんに好かれたのかもねー」
「どうだろうな」
解決策は見つからない。けど、情報を整理すれば思いつくかもしれない。
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