第34話 親友の気持ち

 私は心底楽しいことが好きで、楽しくないことが嫌い。だから、今のこの状況は、我ながら性格の悪いとこが全面に出ているようで、密かに楽しんでいる。


 風帆くんと澪、2人が家族と聞いてから、その夜興奮で寝られなかった。そして、いろんなことを試行錯誤して、どうすればその関係を面白く出来て、今後付き合っていく中で楽しく出来るかを思いついた。


 2人を恋愛的に付き合わせればいいんだ、と。


 澪が彼氏持ちだから、そんなことは不可能だし、そうさせたとしても、バレたらそんなことを考える悪辣な人間として周知される。だけど、彼氏さんが本当に浮気をしていたら?それは悪辣な人間として蔑む方向が変わるのでは?


 私はそう思うと、どうもその夜は寝られなかった。恋愛に興味のない風帆くんと、家族と言って隔たりを作りながらも実はそんな関係もまんざらでもない様子の澪。彼氏さんが最低野郎なら、多分成立させれるだろう。


 だから私は掻き立ててやる役目を担う。特に澪の、風帆くんへの思いを強くさせてやるんだ。そのために、私は風帆くんにいつも通りくっつく。親友としてそれは普通だから。何事も変わらない。自分から入って来た私たちのテリトリーで、嫉妬してくれたら最高のシチュエーションだ。


 この話での懸念点は、私が風帆くんを普通に好きになってしまうこと。しかし、そんなことはない。理由は私は風帆くんのことが大好きだったから。中学の時からそうで、何かあればくっついて押して押して押していた。


 けど、風帆くんにそんなのは無意味で、恋愛なんて微塵も興味ないということを察してから、いつの間にかその気持ちは無くなって、完璧な友人としての立場を確立するようになっていた。


 だから、そんな気にすることもない。澪には自分で気づいてもらうまで、私は煽り続ける。もちろん彼氏さんの浮気が本当ならばだけど。


 今はまだ確かではないけど、少しフライングして煽っている。これくらいはいつも通りだ。


 「多分、風帆くんのことだから、どれだけ美少女でも彼氏持ちを好きになることはないと思うよ」


 「正解」


 「ほら。それに、私にも靡かないんだから、美少女とか通用しないだろうし」


 「大正解」


 自分の容姿はよく理解してる。可愛いと言われるマスコット的存在としてでも、澪には劣るけどそれなりに人気はあるのだから。正直見られるのはウザったくて仕方ないけど。


 「まぁ、そんな張り合ってもいいことないだろ?」


 「彼氏持ちじゃなかったとしても、恋愛には興味なさそうだから、どの道意味ないしね」


 「そういうことだな。恋愛してるよりも暇潰ししてる方が楽しいし、相手の気持を汲み取って気を使うなんてこともしたくないから、恋愛はNOだ」


 心底興味なくて、本当にそう思ってるから言うのだろう。しかし、これは面倒だからしたくないってことと、自分にその経験が今までないから思うこと。もし気を使わないでいい相手、それが澪だとしたら、きっと風帆くんの気持ちは大きく変化するはず。


 家族だとしても、未だに頭の中には【血の繋がりのない家族】若しくは【突然出来た異性の家族】として記憶されているはず。だから、決して一線を引いても、意識からは逃れられない。


 ふとした瞬間に、相手はやはり家族として見れないと思う時が来る。その時にどう対応するか。それがこの2人の山場というか、今後を左右する物語の踏み出しになる。


 ふふっ。楽しみだなぁ……。


 「結局、恋愛に興味ない人と、彼氏持ちの美少女は家族にしかなれないってことだよ。澪はどうせ私に負けたくないから、風帆くんから好かれるとか言ってるだけだし、間違いが起きることはないと思うけど」


 「まぁね。私も好かれても困るし、全然家族としてで十分だから」


 「だったら過度なスキンシップはやめてくれ」


 「スキンシップ?」


 「わけの分からない理由で抱きつこうとしてきたりするんだよ」


 「あー……まぁ……澪なら普通かな」


 なーんて誤魔化す。澪は私たちにもスキンシップは多い方だが、男子にまでは手を出さない。彼氏が出来てからそれは一切消えたのだが。


 家族だからといっても風帆くんにはスキンシップを……。


 おそらくは純粋に仲を深めたい一心で、目の前が風帆くんだらけになったのかもしれない。この天然たらしの男子は、どうも無意識に人を惹き付けるという魅力があるから、その効果が澪にも発動したのだろう。


 「私も反省してるから、以後気をつけます」


 「どうせ口だけだから、後から何回も同じことされるよ。気をつけるのは風帆くんの方だね。自衛頑張って」


 「なんとなくそうだとは思ってるから、常に気をつけてる」


 「なっ、私ってそんな反省しない悪い子だと思われてるの?」


 「少なくとも何をするか分からない子だとは思ってるな」


 「嘘ぉ……悲しい」


 こうして項垂れるけど、自覚なしなのが澪の怖いとこ。反省をしない、その天真爛漫で押し切るだけのスタイルで生きてきたからこそ、修整が苦手なのだ。


 だからきっと、今後も澪の暴走に風帆くんは悩まされる。その段階で、風帆くんが1つの恋愛についての一歩を踏み出せたなら、ラッキーだ。


 「とにかく、澪は風帆くんと家族として仲良くしたいなら、風帆くんの苦手なことは避けるべきだよー。親友からの親友との接し方のアドバイス」


 「……うぅ……」


 ちょっとしたいじわるも、こうして続けていくけどね。

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