第33話 家族という壁
「家族にも言われてる」
「もう一緒に住めない」
ボソボソと急に声が小さくなる。秘密の会話をしているようで、それを楽しむ早乙女さんは幼気があって可愛らしい。元々幼気に溢れた幽よりも、ギャップで見せる方がダメージはあるのだと、今身を以て証明した。
「私の上にも住めないから降りて」
「ホントに重いの?」
「軽いけど邪魔だから。あと、風帆くんとの時間を邪魔された憎しみから」
「もうそれ愛じゃん」
「違う。何でもかんでも色恋に繋げたくなるお年頃かー。子供だね。親友という言葉を知ろうよ」
異性の親友だと、どうしても同性のように接したら、この年だと色恋に持っていかれることが多い。俺も今まで何度も幽と付き合ってるのか聞かれたり噂されたりした。
異性ってだけでそれだけ盛り上がれるって、やはり人の恋愛的思考は凄まじいんだと、その時に何度も思わされた。圧倒的に男子が多かったことを考えると、幽の人気度も考慮して頷ける。こんな人気な女子と仲いいんだから、仕方ないとも受け入れてる。
「風帆くんと家族なら多分次第に分かるだろうけど。いや、澪なら性格合わないから分からないかも」
「今日の霊、嫌な女みたい」
「褒め言葉ありがとう」
「親友マウント大好きだもんな。相変わらず敵対心凄いわ」
徘徊の時もそうだが、どうしても邪魔されるのと、仲を深められるのが嫌いなようで、時々対応に困ることがある。2人は類友と言ったが、早乙女さんも昨日の夜の謎の行動を思い返せば、その通りだと心底思う。
「私はいつでも話せるからいいもんね。こうして学校でも接点出来たし、家に帰ってもある。ありゃー、差がつくね霊」
「私も風帆くんの家に住もうかな。部屋共同で使おうよ」
「えぇー、嫌でーす」
「澪じゃない。風帆くんに言ってるから、勘違いしないでよ」
「親が居るから無理だろ。一人暮らしならありでも」
「なら一人暮らし始めよう。シェアハウスシェアハウス」
暴走だ。早乙女さんは悉く受け流されるし、次から次に何かしらの対策を出してくる。回転し続ける脳は学年1位のそれで、俺では到底太刀打ち出来ない。
「今は早乙女さんと距離詰める期間だから無理だし、一人暮らしも無理だ」
「早乙女澪が隔たりになってるってことね」
「私ボロボロなんだけど。友達にこんな言われるのって、多分この学校だと私くらいだよ」
「ドンマイ」
「あー、仕方ない。家に帰って七夕くんに癒やしてもらおうかなー」
「付け込み方ヤバいな……」
無限に続きそうな2人のやり取り。頭を抱えながらも、両手の指の隙間から幽を見下すように見て言うもんだから、多分幽も自業自得とはいえ、少なくともイライラしているはず。
「私は七夕くんの言うように仲深める期間だから、癒やしてもらえるんだー」
「話すだけだけどな」
「いやー、同じベッドで寝て朝まで共にするんだよ」
この前までは、幽のことについて詳しくなるとかどうこう言ってたのに、今ではそんなことも忘れたかのように目の前が見えない様子。負けず嫌いはどこまで行っても負けず嫌い。
「嫉妬で怒り狂いそうになる。けど、流石にベッドまでは一緒じゃなくていいよ。ベッドまで行ったら恋人同士だし、ベッド行ってまですることないから」
「いきなり普通に戻るなよ」
「家族だから同じベッドで寝ても恋人同士にはならないからいいもん」
「絶対に言うと思った。俺がその家族として思えるまで寝に来るなよ?」
多分一生来ないな。同じベッドで寝るのは、家族だとしても小学生までが限界だ。それ以降は恋人か、仕方ない理由の2択だ。だから、気持ちが変わっても、多分寝ることはない。先のことは分からないし、感化されればあるだろうが。
「そっか、澪はどれだけ行こうと家族で彼氏持ちだから、風帆くんを自分のものに出来ないのか。なら、どんなに時間使っても私のものに出来るじゃん」
「仲いいの最終地点か」
「そうそう。澪には辿り着けない場所。家族として1番近い存在なのに、1番遠い存在。それが風帆くんの彼氏」
間違いない。仲を男女で深め合えば、必然的とも言えるほどに恋愛感情がつきまとう。だけれど、それを遮るのは家族という関係。そもそも家族として仲を深めるために俺たちは、近づき合っているのだから、更に奥を気にする必要はない。なのだが、何故か一瞬、早乙女さんの不満そうな表情を見てしまうと、そうも思えなくなる。
「それはズルだよね」
「いやいや、心の底から大好きな人を作っといて何を言うの」
「勝負するなら最終地点は同じにしないとでしょ」
「正々堂々しないタイプだから。奥まで走り続けるよ」
なんて言ってるが、俺には絶対にないのだと分かってる。これまで長い時間を過ごしてきて、そういう感情を抱かなかった人が、意識して抱けるとは思えないから。
好きになるのは俺も良く分からない。けど、意図して好きになることは難しいと思う。人の恋は様々だが、興味を持ってからその人に好意を抱くのが普通の人間にとって、興味を持ち続けた人に、いきなり意識して好意を抱くのは容易なことではない。
「それを俺の前で言われてもな。俺が幽に好意を抱くこと前提で話進めるなよ」
「そうだそうだ。もしかしたら七夕くんが私のこと好きになるかもしれないでしょ」
「それも何とも言えないな」
可能性は0ではない。でも、この罪悪感と戦う限りは、絶対に無いと言い切れる。
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