第29話 遠い約束
「早乙女さん……大丈夫?」
「少しも大丈夫じゃないかも」
哀れみの目だった。助けたいけど、もう手遅れだと思った時のように、私に手を差し伸べることはなかった。一応助けたと言えるように声だけはかけたようだけど、大丈夫だと返ってくるとは思っていないだろう。
「そう。何か気になることあるなら口で解決してほしいから、その、いきなり物理的な何々をするのはやめてくれ」
「金輪際しません」
気持ちに駆られて解決しようとすると、どうも失敗続きになる。これがいい例だ。見切り発車のように、後先考えずに行動するのは避けないと。私には彼氏が居るんだから。家族でも流石にやり過ぎかもしれないし。
落ち着いたと判断したか、今度は椅子に座って私との場所を変更する。絶対に隣は嫌だと言われてるようで、自業自得を味わっていた。
「まぁ、絶対するなとは言えないから、節度守ってくれたら、少しの接触はいいと思う。抱きつくとかは無理だけど、腕相撲とかなら全然」
「ホント?!」
めちゃくちゃ優しい。希望の光をまた出してくれるような。私を絶対に嫌わないと聞こえて、都合のいい女として脳内もそれに倣って変わってきているらしい。
「そんな喜ぶか?」
「距離縮まるなら喜ぶよ」
それだけではない。私を嫌わないところが喜ぶべき大きな点だった。自分のされたくないことや、苦手なこと、初めて関わりを持つ人から不満の募るようなことをされても、許してくれる関係。そこに立ってると思えたのが嬉しかった。
誰にでもそういう人なのかもしれない。けど、以前私の前で「特別な人。家族として」と言ったのを思い出す限り、私は特別な人として受け入れられてるからだと、そう思った。
それを考える七夕くんではないけど、今は都合よくそう思う。
「そういえば、幽に俺たちのことバレたぞ」
「えっ、マジ?なんで?」
「早乙女さんの声が入ってたことと、何よりも俺の声音でバレたってさ」
「なるほど。長い間友人なだけあるね」
声音で分かるのかと、そんな領域の話をされては追いつけない。カップルでも難しいだろうし、現に私たちでもそんなのは分からない。これが多分、友人の最高到達点だと思う。
いや、本当に友人関係として言えるのかな?
「ってことは、明日からもう学校でも距離縮めて良いってこと?」
「それは自由だな。縛るのは俺じゃないし、普通に幽と話してる時に混ざられたら、俺も話さないといけないしな」
「うぇーい。なら、しれっと話しかけようかな」
「いつでも待ってる」
決して自分からは行かないのだと、その意思表示。なんの接点もないとこから芽が生えたら、誰もが怪しむだろうから、そこは慎重に。嫌ではなく、むしろ待ってると要求しているようで、なんだか嬉しい。友人として認められることが確実のように、不安感もなにもない。
「今日はゲームするの?」
「いいや。しないけど」
「そっか。でも、今日からバレたなら2時までなんじゃないの?」
「それは無くなった。幽の優しさで、早乙女さんとのことで、慣れないこともあって疲れるだろうからって。だから遅くても23時までの、今までと変わらない時間帯になった」
「そうなんだ。良かったじゃん」
霊にまで気を使われると、勝負してないのに、七夕くんの友人として強者感だされてるようで悔しい。
「なら、代わりに私と2時まで喋り続ける?」
「そんなに話題ないだろ。朝弱いんだから、早乙女さんは早く寝た方がいいぞ」
同じ屋根の下で朝を2回迎えたのだが、どっちも眠そうに七夕くんの前に座ってしまい、3日目にして朝弱いのがバレてしまった。共感はしてくれたけど「そこまで眠いなんて」と言われてから、寝惚けないように気をつけている。
「途中で眠たくなったら、ベッドもあるから寝れるでしょ?」
「その時は俺が隣の部屋に寝に行かないといけない。面倒だから無理」
「一緒に寝ればいいじゃん」
「罪悪感で寝られない。夢で彼氏さんに殴られるから、そんな苦労はしたくない」
どんな道を行こうとも、七夕くんとは物理的に近づくことは出来ないらしい。私に彼氏が居るという壁があるのは分かってる。けど、私の思い描く家族にはその壁なんて無関係。
だから、こうしてスキンシップをすることも、別にいいことだと思ってる。確かに血の繋がりはないけど、家族だし、私の思いとしては、血の繋がりのない男女の家族として、仲良く楽しく過ごしたい欲が強い。下心なんて全く無い。それは七夕くんだってそう。
七夕くんだから、この欲が生まれて強まってるのかもしれない。
だから、悉く拒否されるのは少し悲しい。それでも、我儘だから七夕くんには伝えない。家族としての温もりを知りたい一心で、迷惑をかけるのもよくない。元々性格が真逆なのに、こうして話してくれる事自体に感謝しないといけないのだから。
「出来るだけ早乙女さんの希望ってか、家族としての思いを叶えたいから頷きたいけど、俺がそれを気にするから頷けないんだよな。気にしないようになるまで待ってくれれば、その……願いには応えられるかもしれない」
若干言葉を詰まらせて、そんな私の思いを汲み取ったかのように、自分の思いを伝えてくれた。察したのだろう。私が家族としてしたいことなのだと。
あぁ。今日何回七夕くんを優しいと思うんだろう。
「ホント!なら幾らでも待つよ!」
「幾らでもって……我慢出来ないでしょ」
「失礼な。ちゃんと得するなら待てるよ」
「そうか。なら、長々と待っててくれ」
「任せて!」
優しく微笑むその相好。今日の霊との徘徊の話での嫉妬は、どこかへ消え去ったようだった。
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