第28話 嫉妬暴走
待つこと15分。シャワー大好き七夕くんらしく、湯船に浸かったかのような遅さは昨日と変わりなかった。さっぱりと、気持ちよかったと表情で伝えるのは、やはり可愛らしい一面を覗かせる。
「おかえり」
「2回目のただいま。クーラーありがとう、助かる」
「いえいえ、私が暑さに負けただけだから」
夏の夜でも暑さは残る。お風呂上がりなら、服も着たくない気分になるほどなので、どれだけクーラーが助け舟として出されるか身に沁みて分かっている。先読みだ。
「それで、今日は何用で?」
私が椅子に座ってるので、ベッドに座ってそのまま体を倒す。リラックスタイムというわけだ。足も疲れてるだろうし、フラフラと揺らしては疲れを全面に出している。
「今日もお喋りしに来た。ゲーム始める前に無理矢理阻止してやろうと思ってたけど、居なかったから失敗に終わったんだけどね」
「そうか。悪かった。今日は徘徊の気分だったから、何も言わずに飛び出した。次からは伝えるから、その時用事あるなら21時半に部屋に来てくれ」
「うん、分かった」
やっぱり優しい。目を合わせず、悪いと伝えるには気持ちの伝わらない言い方だけれど、七夕くんの声音には気持ちが籠もってる。反省してすぐに改善点を出してくれるのも、悪いと思うからで、なんだか申し訳なくなる。
でも決して悪いことではない。好きなことを縛るつもりはないから。だから改善とまでは要求するつもりはなかったが、七夕くんは別にいいと言うから、それに甘える。
グダッと、今にも寝そうな雰囲気で、私もそれに惑わされて眠気に襲われそう。でも、それではせっかくの時間が無駄になる。夜だけど、脳を覚醒させていく。
「徘徊って今日はどこ行ったの?」
「すぐそこの、砂浜付近の防波堤に行った。夏の夜はあそこが1番落ち着くから、よく行くんだ」
「それで、どうだった?落ち着いた?」
「んー、幽と会ったから、落ち着けはしなかったな」
「え?……偶然?」
「いつもゲームをしない日は、俺が徘徊って察して意図的に来るらしいけど、今日は本当に偶然会ったらしい」
「へぇ……」
ムッとした自分が居た。私は家という絶対に会える場所で待ってたのに、幽は偶然会ったというのだから、そこに嫉妬したというか、あり得ない!と思った。
仲良くしたくて待ってるのに、既に仲のいい人同士で、偶然で会って夜を徘徊する。しかも、七夕くんは1人で徘徊するのが好きって言ったのに、霊と一緒だったことに不満は全く無さそう。
それもなんだか悔しい。私となら絶対「悪い。1人で徘徊したいんだ」って言うのに、霊となら……。
くぅ!悔しいぞ!
まだ仲を深めてる段階だから、と言い訳は出来るが、それでも家族というハンデを貰ってると思う私は、そんな言い訳は無駄だと思う。
しかも今日は本当に偶然だって……とことん私に悔しさを味合わせるつもりらしい。神様は私のことが嫌いなのかもしれない。ってか、意図的に来るって、それを許してるのも悔しい。1人が好きって私に言ったのは、牽制するためだったり?
まだまだ距離は埋まりそうになかった。
「楽しかった?」
はっ!となったがもう遅い。何故これを聞いたのか、自分では嫉妬の見苦しさを感じてしまい前言撤回したかった。だが、それを知らない七夕くんは素直に答える。
「楽しかった。いつも通りだったけどな」
聞いても悔しさが滲む。いつも通りでも楽しい。まるで永遠に味のするガムを噛んでるようなことを言う。私には絶対言わないのに。
私には数多くの友人が居る。だからそれだけプライドもある。誰よりも好かれてるという。しっかり悪女だが、そんな私にダイレクトに響く言葉だ。いつも通り楽しい。霊が羨ましい。
私はその時限界が来た。実はプライドが高いだけで、耐性は低いので、すぐに暴走する。彼氏が居るとかそんなの忘れて。
椅子からサッと立ち上がると、ベッドに仰向けで寝る七夕くんの隣に寝ようとする。体をうつ伏せになるよう倒して、右腕を伸ばして、寝る七夕くんを包もうとするように。
だが、そう簡単に、運動能力の高い七夕くんを捕らえることは出来なかった。
「うわっ、何々?!」
少し大きく声を出し、狼狽しながら体を捻ってベッドから起き上がる。私と交代するように、そこに眉を寄せて立っていた。
「……え?……はっ……何?……どうした?」
「いやー、悔しさのあまり、物理的に距離を縮めるしか無いと思って」
「……どういうこと?どの話の流れでこうなったんだよ」
「さっきの話の流れで、です」
「よく分からない。びっくりした……」
ベッドに倒れる私を見下すように見て、何が起きたか理解不能なのは一切変わらない様子。説明してもきっと頭の中に入らないだろう。
我ながら、恥ずかしいことをしているのだと思っては、顔をどこかに埋めたくてたまらなかった。
「何か嫌なことを言ったなら謝るけど、謝る意味を理解しないで謝るのも悪いから、教えてほしいんだけど」
「別に何もないよ。ただ私が暴走しただけだから」
「えぇ……」
混乱して次から次にわけのわからないことを言われて、流石に呆れ果てたか。私を黙って見ては、何とかしないといけないという気すらも感じなくなっていた。
自分でも思うよ。何してるの?って。
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