第27話 実は騒がしい
「お母さん、七夕くんどこに行ったか知らない?」
学校から帰って、食事を済ませたとこまでは見た。だけど、そこから私がお風呂に行って上がると、この家のどこを探しても居なかった。
だからお母さんに聞いた。敦さんに聞くのが正解かもしれないけど、正直まだ慣れない関係性に、少しばかりの抵抗があった。同い年なら、誰にも見せる性格で仲を深めるけど、流石にいきなりお義父さんなんて言えない。
そんな私の意思を知りながらも、お母さんは答える。
「多分1人で夜の街を歩いてるんじゃない?風帆くん、そういうの好きって言ってたし」
「あー」
思い出した。そういえば、1人でよく夜の街を徘徊するとか言っていた。考え事とかをしないで、ただ無心に風に当たりに行く。私からすればしたことがないし、そういう気分にもならないから何とも言えないけど、きっと気分転換には良いのだろう。そんな気がする。
「分かった、ありがと」
お母さんにそう告げ、私は部屋へ戻った。いや、七夕くんの部屋に入った。
本当なら、今日も何かしら話そうと思っていたのに、流石にそれは叶わなかった。元々、霊とゲームをする予定もあるだろうし、ダメ元だったけど。でも、ここに居ないのは少し残念だ。
無感情で無関心、だから逆に興味を持った七夕くんの存在。私がグイグイ押せば、それに狼狽する姿が意外で、今はもうそんなこと気にしないで居るけど、それを見たくて何度も押したくらい。
今日もそんな一面や、新たな一面を見れるかと楽しみにしていたけど……そう上手く事は運ばないらしい。一緒に行こうと言えない、1人が好きだからこその時間。悠々自適な生活を送る七夕くんの邪魔を、私もしたくなかった。多分、邪魔を許されてるのは霊だけだから。
「はぁぁ、家族として早く仲良くなりたいんだけどな」
仲良くなって、学校だけじゃなくて家でも充実した生活を過ごしたい。急ぐことではないけど、せっかちだから、どうしても早く早くと思う。まだまだ子供なのは抜けない。
七夕くんの椅子に座って、ゆっくり回転しながら考える。家族が増えて、暇をしないと思ってたけど、結構暇なことはある。
人間は平等とか言うけど、本当にそうなのかもしれない。私が気を使わないで良さそうな、唯一の男子として七夕くんが選ばれ、同時に、暇を潰せない相手として七夕くんが選ばれた。プラマイゼロの関係になるように、等しいのかもしれない。
何度も溢れるため息は、どうしても今日は消えそうに無かった。が、そう思っていた時。
「ただいま」
「はっ!」
私は息を吹き返すように椅子から背中を剥がした。奥から聞こえた、力のない声。夜遅くの帰宅という、徘徊の楽しさを覚えたその男の子。会いに行くため、少しの距離を走った。
ドンッと力強く扉を開けた。もちろんその異常さと、何故?という疑問から視線は集まる。
「……早乙女さん?何で俺の部屋に?」
帰ってきた七夕くん。汗1つかかず、相変わらずの無感情の声音で、どうでもいいけど聞かないといけないから、という理由で聞いてそうな雰囲気で問う。
「おかえり。待ってたんだよ。暇だったから喋る相手がほしかったの」
「……なるほど」
「ごめんね。澪は暇に耐性がないから、こうして暴れるのよ」
呆れそうな七夕くんに、お母さんが私のフォローをする。暴れるという表現は、どうも心外だけど、間違いだと絶対的に否定は出来ないから悩ましい。
「いえ、俺も似たような性格なので分かります」
若干口角を上げて笑って言う。そう。ここが私の見つけた七夕くんの良いところだ。小さなことは気にしないのだと、相手に全く負い目を感じさせない対応。普段の無からは想像出来ない最高なとこ。
「ははっ、そうだな。風帆は昔から暇には耐性が無かったもんな」
「えっ、そうなんですか?」
思わず聞き返してしまった。七夕くんの嘘で、優しくお母さんに返したと思ったけど、本当だったことに驚きを隠せなかった。実は暴れるということが、受け入れられなかった。
「そうだよ。今はスマホとかゲーム機、パソコンがあるからいいけど、そんなのがない小学校時代は、毎日どこか連れて行けって言われてたからな。だからその名残として、理由は他にもあるだろうが、徘徊もするようになったんだろうし」
「へぇ……意外とやんちゃしてたんですね」
「……まぁ、それなりに」
「驚きね。おとなしいって思ってたけど、案外そうでもないなんて。可愛げあっていいじゃない」
七夕くんに可愛げ。とても似合わない言葉が飛び出た。でも、確かにそんな小学校時代を送っていたなら、今聞けば十分可愛らしい生活だと思える。
色々と知られて、頬を赤くすることはないが、なんとなく恥ずかしがってはいる様子。
「……お風呂行ってくる」
この空気感に耐えられなかったらしい。私の隣をスッと通ると、着替えを持ってお風呂場へ消えて行った。それを見て微笑ましく思うお母さんと敦さん。仲の良さは、きっと私たちよりも上のランクだ。
ニコニコと談笑するのを邪魔するわけにもいかない。だから再び七夕くんの部屋に戻って、お風呂上がりの綺麗な七夕くんを待つとする。無気力故に爽やかさも兼ね備えた、実は人気の七夕くん。そんな彼と話せるのは、ちょっと羨ましがられたりするだろうか。
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