第25話 親友は善人

 しっかりと、嫉妬深いとこはあるのだと、自分でも言っていた。ゲームをしている時、若しくはする予定の日に、何かしらの理由で断れば、それが何であろうと嫉妬するのだと。


 人はもちろん、徘徊という言葉にも嫌悪感はあるらしい。早乙女さんも嫉妬深いと言っていたが、その比ではないのが十分伝わる。言葉にも嫉妬するなんて、今後一切聞くことはないだろう。


 それらが関係して、きっと今は徘徊と早乙女さんに嫉妬しているのだと予測される。が、これは仕方ないことだ。俺も可能ならゲームをしていたかった。でも、それが不可能なほどに追い込まれていると思って、徘徊していた。


 分かってくれるゲーム廃人なので、今はそこまで問題視していないが。


 「取り敢えず、問題事は解決したみたいだし、これからカフェオレ奢って貰って、家に帰ってゲームしようか。今日から2時までだから、戻っても時間あるね」


 これを言いたかったと、満面の笑みの裏に悪魔の潜む瞳で俺を脅迫した。ちゃっかりカフェオレにしてるのが唯一の可愛げ。まだ21時を回ったとこ。余裕だった。


 「もし早乙女さんに絡まれたら?」


 「私優先で」


 「板挟みか……」


 どちかを断るのは心が痛い。こんな俺を誘ってくれるのに、先約があるからと断るのは正しくても、申し訳無さは生まれる。良心だけはよく働く俺の心の中。ネガティブになるのもこれが原因だ。


 ため息を溢しながら項垂れる。両膝の間に顔を埋めて、悩みが増えたと、1人で徘徊することの幸せを思い出す。こうして奇跡で会うのは何かの縁なのだろうが、タイミングがタイミングだ。今度は1人で徘徊に来よう。そう誓った。が。


 「なーんてね。別に元々2時まで付き合わせるつもりは無かったよ。ゲーム感覚で正解出来れば十分だったからね。今は澪のことで忙しいだろうし、暇が出来た日から、またゲームは再開してくれればいいよ」


 無しにすると言い始めた。それも、嘘をつく様子もなく、本音からそう言っているのだと分かるように。不満は無く、何か考えを隠しているようにも思えない。それほど優しい提案。


 「本当に?どこか頭をぶつけて、考えが変わったとかじゃないよな?」


 前例がないから驚くのも無理はない。今まで付き合わせてきたゲームに、突然不参加で良いのだと、逆に気になって寝れないほどのことだ。それほど早乙女さんとの関係に共感してくれたのだろうか。


 「そんなわけ無いでしょ。普通に、風帆くんと澪の家族として仲良くなろう大作戦の邪魔をするつもりはないってだけだよ」


 「優しいのは知ってるけど、そこまで気を使う人だったか?」


 「失礼な。これは風帆くんにとって大切なことだから一歩引いてあげてるの。風帆くんじゃないなら気を使うことはないよ。そもそもゲームすらしないけどね」


 「そうか。嬉しいことを言われた気がしてニヤけるわ」


 「笑えたんだね」


 「幽と翔の前だけな」


 関わりがないから笑う姿を見ないだけ。並大抵の人ほどには1日笑ってるし、それは幽ならもっと知ってる。その上でイジるのは俺へのゲームしてくれない不満を解消するため。


 何をしても、俺への行動原理は不満の解消だなんて、好かれてる割には嫌いな相手にするようなことばかりで、少々悲しくも疲れる。嫌ではないが、少しは興味で近づいてほしいものだ。


 「っと。そろそろ夜も遅い。カフェオレ買うから帰るぞ」


 重たい腰を上げて、波の音を目の前に背伸びをする。もう少し1人で涼みたかったが、幽も一緒だと流石に1人で帰せる程度の男ではない俺は送らなければと、良心に駆られる。


 「そうだね。私も帰りだったし、いいタイミングかな。送ってくれるの?」


 「優男だから」


 「そう。ありがと」


 いつものこと。ここはちょうど俺と幽の家の真ん中に位置する場所。お互いの家は150mほど離れたとこ。近所なのかは分からないとこだが、よく会うという点に於いては近所かもしれない。


 その途中というか、すぐそこに自販機は設置されているのでそこに売られてる140円の缶カフェオレを買いに向かう。


 「風帆くんってビビリだっけ?」


 「突然何?ビビリだけど」


 隣に並んで立つ、身長差20cmはある俺から見下される幽の再確認。おっとりした雰囲気が、オーラとして可視化されるようなその声音に、答えながらも不思議に思う。


 「いやー、夜って幽霊わたしの出番じゃん?だから脅かしてやろうかと思ってさ。でも叫び驚く人だと困るから、一応確認程度に今度会った時、なんとか驚かしてみたいからその参考にね」


 「趣味悪いぞ。それに名前が幽霊なだけで、可愛げに溢れる幽から驚かされても、正直怖いとは思わないんだけど」


 「いいや、可愛いとか関係なく、人って不意に驚かされると冷や汗かくものだよ」


 「気配感じるからどうだろうな。今までバレずに俺の背後に来たことあるか?」


 「記憶にはないね。でも今後あるかもだから可能性は捨ててないよ」


 「懲りない負けず嫌いだな」


 誰から見ても存在感なんて皆無に等しいのに、何故か俺はその気配を感じ取れる。親友として長い時間を過ごしてきたからだとは思うが、そのおかげで不意の驚きで恥をかくことはないので、相性抜群、類友は最高だと心底思う。


 ってか丑三つ時が幽霊の出番じゃないのか?早朝出勤幽霊か?

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