第24話 似た者同士
流石にどこまで行こうと家族になったとは予想が出来なかったらしい。普段何事にも興味のない幽が、顔を覗いて本当かを確かめる姿が何よりもその証拠だ。
「だから、逃げるついでに考えようかと」
「なるほど。それで、今ここで徘徊途中に1人で考えてた、と。何か役に立てることある?」
「幽も同じだろ?答えを聞いても解決するとは思わないんだけど」
「失礼な。間違いないけど」
似た者同士、どうしても思考が寄ってしまう。同じクラスの人が家族になったと時、その相手が異性で彼氏持ちだという説明を、絶対に欲する。そうしないと失礼をするのだと、自分でよく知っているから。
「でも、澪とは仲が良いから、その視点からだと何かしらのアドバイスは送れるかもよ?」
「あー確かにな」
そうは言うが、実はクラスでも有名な2人、というわけではない。人気は2人ともにあるのだが、2人セットでの行動はそこまで見ないのだ。理由としては単に早乙女さんの人気が爆発的過ぎて、彼氏持ちだとしても無関係な女子たちが囲むから。
スクールカーストってか、女子の中での立ち位置を確立させたいとかそんなもんだろうけど。
そういうことも相まって、幽とは2人で1人みたいな親友系の間柄ではない。どちらかといえば幽は俺と居る時が多い。早乙女さんも言っていたが、移動教室やら昼休みやら、少ない友人同士で、心の傷を舐め合うように一緒にいる。思えば結構な時間を共にしている。
「なら、どうするのがいいと思う?教えてくれたら自販機で飲み物買う」
「おー、それは良いね」
どうせカフェオレだ。夜だとか関係なく、炭酸飲料やフルーツジュースも飲まない幽。ジュースはカフェオレしか飲まないのだと熟知している。
賛成した後から、すぐに考え始める。柔らかく細い両腕を後ろへ、体重もかけるように支えて座る。視線も体も斜めに空を見ていて、薄い上着の生地からだとはっきりとその、見た目に合った小さな膨らみのラインが見える。
俺も男だ。見てすぐに視線を逸らす。バレたバレてないの動揺に頬を赤らめるが、今居るのは街灯も離れた夜の街。視力が良くても顔の色彩までは見抜けない。
しばらくして、その答えが出たのか、足を組み直して口を開く。
「多分だけど、澪相手なら、何もしないで素でいるのが1番だと思うよ。無理に近づかないで、必要な時に話し掛ける。それ以外は澪から話し掛けられるのを待つってする」
「やっぱりそうだよな。それが最善なんだろうな」
この3日で、早乙女さんから話し掛けられた回数は二桁に余裕で届く。マイペースに話を振っては、距離を縮めようとするのだから、俺にプライベートがないかのように。
「でも、その対応が難しいんだ。はいかいいえで答えられることなら流石に俺も造作ないんだけど、特定の物を答えろって質問にはなんだかな……」
「普通の風帆くんだねー。本題については、それで良いと思うけど」
「そのままで?」
「うん。だって澪はそれで不快になるわけでもないし、聞かれたことに、時間を使っても正直に答えれば自然と深まるもんでしょ。私は思い出せる限り、そうして澪と友達になったつもりだよ」
実体験から、似たような性格の俺にもそれは通用すると思ってのアドバイス。俺にだから言えたアドバイス。そういう使い道もあるのだと、幽の臨機応変さに改めて感服する。
そう。早乙女さんと幽は友達なのだ。つまり、深く考えなくても、俺も自然体で仲良くなれるはずなのだ。ネガティブ思考が邪魔をして、無理だ無理だと思い込んだ果てにアドバイスを貰ったが、そんな必要は更々無かった。
「深く考えて悩むことが間違いだってことか」
「簡単に言うとそうだね」
「今脳内でピシッと理解した気がする」
「気がするだけなんだ」
「これでも成長したんだぞ?」
「それもそうか」
よく知るから共感も早い。興味がないことには理解すらしない男。自負しているから分かる。気がするだけでも十分進歩している。物理的な小骨の喉への引っ掛かりではなく、精神的な小骨の心臓への引っ掛かりを、今しっかりと身に感じた。
「待つか」
「どうせ自分から行っても何を話せばいいか今は分からないでしょ。なら、触れやすい距離までは、澪に引っ張ってもらいなよ」
「男として情けない気もするけどな」
「それは恋愛云々じゃない?友人関係に情けないことなんてないよ」
「その考えなら、恋愛について興味もなくて知識もない俺って、その時点で情けない論外男じゃないか」
「どの道を歩いても、風帆くんは情けない論外男だよ」
「否定してくれないんだな」
求めるのは慰めでも優しさでもない。唯一無二の幽らしさだ。だから否定してくれなくたっていい。むしろ、否定されない方がこの関係に似合う。
「私からの否定を望むより考えることはあるでしょ」
「今はいい。さっきまでは考え事のためにここに来てたど、今はもう解決したんだし、何も考えないいつも通りの徘徊の時間だからな」
「切り替えは早いもんね」
「他をダメだと言われてる気分だわ」
「ふふっ。そうかもね」
「絶対にゲームを断ったこと、今この場で恨み晴らしみたいにしてるだろ」
「さぁーねー。しーらない」
久しぶりだが、何度経験したと思っているのか。体は忘れず、なんなら記憶すらも忘れてない。ゲームを断る日には、わざと徘徊ルートに現れて、奇遇を装って何故かを聞いてきた。今日のように、本当に徘徊をする時もあるのだが、断った日は残念ながら百発百中で意図的なものだった。
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