第23話 即バレ
翌日、俺は晩ごはんを済ませて、久しぶりにと夜の街を徘徊することにした。時刻は20時半過ぎ。大都会でもど田舎でもないこの街は、夜は静かであり、海岸線付近を歩くのに適している。
この時間帯、普通なら幽とゲームをしているが、今日は断ってここに涼みに来た。悩みはないが、気分的に、涼しくなりつつあるこの季節を肌で感じたかっただけ。
いや、少し考えることはある。家族として、早乙女さんとどう仲を深めるか。これが唯一の。波の音が耳に響くと、同時に風を肌に受け、その夏らしさを全面に感じる。そんな中で、リラックスしながら考えれるこの場所は大好きだ。
だからその波の音に任せて、俺は脳を回転させる。別にどう考えたって答えが出てくるとは思ってない。期待をしてないから無意味になるだろう。けど、結構重要な話だから、それなりに深く考えてしまう。
彼氏さんは正直に言うと――そこまで壁ではない。
早乙女さんに異性的に好意を抱いてないし、手を出そうなんて微塵も思ってないから、邪魔にもならない。関係を隠す以上は何も気にしない。
なら何をそんなに。それはただ俺が関わり方を知らないことが問題点なだけ。趣味が合う、気が合うなどの合致を得た幽ならばすんなりと友人になれた。けれど、何も合わない真逆の性格の人、それも女子なら俺は全く関わり方を知らないのだ。
右も左も分からないから、どう踏み出せばいいのか分からない。だから今も距離を置いて、グイグイ俺との距離を詰める早乙女さんから、物理的な距離を離した。困るのだ。いつの間にか俺が申し訳ないことをしてないかと。
ネガティブ思考があるため、ちょっとそこらに抵抗がある。今はまだ彼氏さんが居るからと、罪悪感を顕にしてるように見せ、距離を置いているが、それも外れる今後の関係ならどう関わればいいのかが、未だに気になる。
「……距離感……か」
特別仕様のものさしでもあれば、それに従って距離感を掴むんだがな。
「難しいのは苦手だな……」
人間関係はとても難しいものだと思う。両親の離婚を見てから、それは激しく思った。それから時間は経過し今に至るが、どうしても人の心は変化しやすく、捉え難い。無理に関係を築かないのもそうだが、こればかりは流石に無理してでも築かないと。だって、家族なのだから。
やはり考えれば悩んでしまった。だから人間関係は……。
「
「ん?」
不意に、聞き慣れた声音で、座った背後から神出鬼没は現れた。予想外である。
「こんな夜遅くに、何を悩んで考えてるのかな?ちなみに私はついさっき、ゲームをする相手にフラれて徘徊してるところだよ」
「……ストーカーだな」
「心外。風帆くんが徘徊してるとは思ってなかったから、これは偶然だよ」
夏は嫌いらしい。暑さを受けるのが嫌いだから、ショートパンツに半袖の薄着1枚を着て姿を現した幽。ここで会うのは久しぶりだ。
「嘘をつくなよ。俺が断った理由を徘徊だと思ったんだろ?」
「いいや。本当に徘徊してるとは思わなかったよ。だって今頃――澪と2人でゲームをしてる頃だと思ってたし。それも、同じ家でね」
「…………」
心臓の鼓動は何故か落ち着いていた。ドキッともしなかった。ただ、いつも通り、体中に血液を送り込むことに必死で気づいてないように。
振り向いた俺を見つめる目は確信していて、どこからか、それは昨日のゲームの時間だとバカな俺でもよく理解した。確実にバレてないとは俺も思ってなかった。怪しい点はいくつかあったと、反省会は出来る。
「いつ?」
「私が五目並べで負けた時のミュートかな。もちろんいきなり五目並べの手腕が変わったのも違和感だったけど、今まで風帆くんがミュートにしたことは数少なかった。それも飲み物やトイレとかの時間だけ。あれだけの長時間はなかったよ。それで、決め手はやっぱり声かな」
「流石に早乙女さんの声が入ってたか」
「それも少し。確信は風帆くんの声だね。明るく笑い終えた後のような声音は初めてだったから。澪の声は聞き間違いかと思ったけど、違うってそこで思った」
「……はぁぁ。完敗だな」
とはいえ、予想内だ。あの時は楽しさを優先し、幽との勝負には敗北を覚悟したのだから。それほど大切だったから、この敗北にグチグチ言うつもりはない。
「完勝ついでに、その悩みもどうせ、澪が関係してるんでしょ?」
隣に座って、その小さな体躯を寄せてくる。くっつきそうなほど近いが、これが中国では普通なのだと勝手に思うようになってから、もう中学の時に慣れた。
詮索されそうなジト目。マスコットはいつでも可愛いのだと、普段から化粧をしないというその化けない顔は、途轍もなく整っていた。
「まぁな。関わり方が分からないんだ」
「彼氏持ちだから?」
「いいや、普通に性格的に、天真爛漫な人にはどうすればいいのか分からない。幽にはこうして性格が合うから、落ち着いて好きなように話せるけど、逆だとな」
「そういうことね」
うんうんと頷くと、そのたびに若干赤の艶髪が揺れる。目を惹くことはないが、お風呂上がりなのかフワッと甘い香りが鼻腔を擽る。
「ってか、一緒に暮らしてるの?」
「そこからか。誰にも言うなよ?俺と早乙女さんはつい最近家族になったんだ。父さんの再婚相手が早乙女さんのお母さんだったらしくてな」
「マジ?そういうことあるんだね」
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