第22話 仲を深めるには

 今までがそうだった。だから今後も変わらない。そう思っていた。だけど、目の前で人のベッドでも構わず寝てしまうほどの無防備で華奢な女の子は、それに当てハマっても関係なく、興味を抱かせてくれた。


 分かり合えるかなんて、まだ2日の期間じゃ把握しきれないが、きっと分かり合えると思った。可能性ならなんとでも言えるが、話してみてその結果での可能性を、確実とも感じた。


 だから、興味を持った。不思議と、魅力へ引き込むように澄んだ目を合わせて、一切の曇りなく透き通った気持ちで伝えられてると、俺はそう感じた。陰キャの勘違いならば別にそれでもいい。変に思われても、俺たちは家族なのだから。


 「私もこうして訪問したんだし、ウェルカムだよ。多分、七夕くんに興味を持たれることは、珍しいんだろうし、いいことだと思うから」


 「どうだろうな。俺は普通の男子高校生だから、珍しいっていう気持ちを抱かれるのは、少し不思議だ」


 「普通の男子高校生でも、誰にも興味を持たないで、数少ない友達と一緒にいる人なら、持たれても不思議じゃないでしょ。今も結構の人が興味持ってるよ」


 「まるで有名人みたいな言い方だな」


 「えっ?中々に有名人じゃない?霊と七夕くんのセットで」


 「……え?」


 冗談で言ったつもりが、マジトーンで返されるので、まず先にそこに驚く。冗談には幽と翔の前では日常茶飯事なため慣れているが、早乙女さんの前では慣れてない。だから少し混乱した。その直後、その返された言葉の意味を理解した。


 「その反応……ホントに知らなそうだね」


 「なんのことだ?」


 「霊が人気なのは知ってるでしょ?神出鬼没でおっとりとしたマスコットだって。それと同じように、男版の神出鬼没で無気力の男子として七夕くんは有名人だよ。よく移動教室の時は一緒だし、2人とも無気力で興味なさそうだから、お似合いカップルとまで言われてるけど」


 「……なるほど?……よく分からないな」


 初耳だ。他人の会話なんてもちろん、耳を澄まそうとも思わないから聞いたこともない。噂なんてものは俺らの間では届かないし、翔が何か言おうとも聞き流す間柄なので、知り得なかった。いや、知る由はあったが、覚える必要はないと思って記憶から消したかもしれない。


 とにかく初耳で驚きだ。


 「でも常に一緒なのはそうかもしれない。他人と喋るより何倍もマシだからな」


 「やっぱり類友なんだね。羨ましい!」


 どこか拗ねたように見えたから、俺は更に押す。


 「早乙女さんは幽とは類友じゃないもんな」


 「なんかヒドイことを言われてる気がするけど、本当のことだから否定は出来ない」


 「種類は様々だからな。別に類友が最上ってわけでもない」


 幽と真逆だからこそ、凸凹を埋めるように仲を深めれるのかもしれない。その点では、若干羨ましいとは思う。たった今、真逆の人と仲を深めることに興味を惹かれた俺は余計に強くそう思う。


 「いいなー。私も類友みたいに、お互いを理解し合える友達が欲しいよ」


 「それが彼氏さん何じゃないのか?」


 「そうなんだけど、同性でさ、楽しく女子高生らしいことしたいじゃん?」


 らしいこと。世間一般の当たり前すらも知らない俺には、それすらも未知の当たり前だ。共感には程遠いが、してみたいことを、したことにしたくないのはよく分かる。


 「それこそ稀有な存在だからな。早乙女さんの天真爛漫さは、多分日本中探し回っても簡単には見つからないだろ」


 「かな?でもワイワイ騒ぎたいって女子は多いと思うよ。女子高とか多分そうだろうし」


 そう考えれば、男女でその域に達した俺と幽は結構な稀有な存在なのか。


 「私も誰かと、七夕くんと霊みたいな関係が築きたいな」


 「難しいだろうな」


 学校生活が始まって呼び方も固定され始めた頃、性格なんてみんなに知れてるも同然。同じ性格が居ないことも把握済みで言われると、何だか寂しい気持ちを共有しているようで悲しくなる。


 「俺とは逆に、真逆の性格だから築ける仲の良さを築けばいい。対抗するって言えば変だが、それはそれで面白そうだけどな」


 「それだと、私に引っ張られて慌てふためく七夕くんって絵面が見れるよ?」


 「それでも冗談を言い合って笑えるなら良いんじゃないか?」


 「ホントに?」


 「早乙女さんはそういう人だろ?人を笑顔にさせるのが得意な」


 俺の目だけに見えてるんじゃない。確かに早乙女さんを囲む全員が笑顔になるのを、俺はこの目で何度も見て、クラスメートも何度も目にしてきた。関われば笑顔にしてもらえて、楽しく会話が出来る。だから人を集めては人気になる。幸福感を満たせる、唯一無二の美少女。それが早乙女澪だ。


 「俺を見るのは早乙女さんだけだ。だから、その分たくさん笑うし喋る。だから気にせず誘ってくれ。承諾するから」


 「そう言われると、照れると同時にプレッシャーが。でもそれなら任せてほしい。何とかしてみるから」


 「助かる。俺も何かあれば誘うから、暇な時なら承諾してくれ」


 「もちろん」


 仲の深め方は人それぞれ。だからこんな約束をして、仲を深めようと未来を決定するかのような不思議な契約も、面白く深める1つの道だ。


 どうせ家族としての柵は超えないのだから、今までと変わらない生活で何ら問題はないはずだ。きっと。

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