第21話 これからの関係は
バレるとは思ってない。演技もそこまで上手くないと思っていたが、まだ幽にはバレてないし、今もゲームをしながらでもバレる気配はなかったから、中々冴えた人なのだと個人的に考えを改めている。
メリハリがついているというか、限度を知っているから区別も出来る。それだけのスペックが、早乙女さんには備わっているらしい。これも才色兼備の強みか。
「でもさ、折角家族として仲良くなれるのに、学校で仲良く出来ないのは寂しいよね」
「そうか?」
「あー、七夕くんは元々そういう人じゃないから気にしないのか。私は、仲良くなったらなった分だけ良いって思う人だから、その人たちとは楽しく過ごしたいんだよね」
価値観の違いを、ここで初めて口に出して教えられた。でも受け入れやすい。早乙女さんのイメージとは相違はないし、俺も同じだろう。ただ、家族として仲良くなれる機会が訪れただけで、家族にならなければ仲良くすることもなかった関係。無理に作ることもない。
「我儘なんだけどね。私は彼氏持ちで接しにくくさせてる張本人だから。でも、家族だから良いんじゃないかっても思うんだよ」
つぶらな瞳を下げて、実はこんなんだと思いを語る。どうしても先へ歩みたいのだと、俺との一歩目を踏み出したいのだと。俺にはそれがよく伝わらなくても。
「葛藤してるってことか」
「そういうことだね」
仲を深めたいけど、俺に罪悪感を植え付けてまではしたくない。難しい問題だ。俺のことを考えないのならば、即決出来るが、優しさがあるからこそ、葛藤として生まれる。
「2人だけならダメなのか?家の中とか、2人だけで居られて誰にも見られない空間で、そこで仲を深めて楽しむのは。俺は真逆の性格だから、何を言われても今後大勢の前で口を開くことはしない。だけど、それを分かってくれるなら、罪悪感を消して、仲を深めれはする」
絶対に、断固拒否するのは陽キャの立ち位置へ配属されること。誰からも人気のある早乙女さんと家族となれば、勝手に周りへ人は集まる。俺はそれが苦手で、翔と幽との時間を妨げ、最悪侵食してしまうようになればもっと嫌だ。
だから、それを避けるために、罪悪感を背負うことは別にいい事にする。彼氏持ちだからという区切りを消して、家族だからという区切りを持つ。そうすることで、姉弟としての関係を刻み、罪悪感を感じることをなくす。
確かにイケないことをしているとは思う。だが、家族ならば当たり前のことだろう。それに、俺は早乙女さんを彼氏さんから奪おうなんて微塵も思わないし、恋愛なんて分からないから興味もない。今は幽と翔と遊ぶのに満足しているから、それが今後変わらない限りは変わらない。
「幽と翔だけが友人関係にある。だから、2人は加えてもいいかもしれない。口は堅いし、そういうのに面倒だと思う思考の持ち主だから。早乙女さんも口が堅い友人が居たらいいと思うけど」
「ふむふむ。なるほどね」
「大勢が好みなら、悪いが俺は頷けない。流石に高校生活を睨まれながら過ごしたくはないから」
嫉妬の目を向けられるのは心底嫌な気分になるだろう。ただでさえ男子の会話で無数に話題になるほどの早乙女さんと、家族でしたなんて聞けば、それはもう毎日のように精神攻撃だ。
「分かった。私、友達は多いけど、口が堅い友達は少ないんだよね。信頼ってか、そもそも平等に関わるから深くは知れないし。だから霊と風野くんしか、私も思いつかないよ」
幽と翔はどちらも早乙女さんとは仲がいい。翔は男子の陽キャとして、クラスのカーストでは上位に君臨するため、自然と話す関係なのだ。
「だったらバレるとしてもその2人が限界だ。彼氏さんには流石に家族だとしても言えない」
「それ、バレたら私なんて言われるかな」
「その時は俺の名前を出して盾にしてくれればいい。確かに早乙女さんの我儘で仲良くすることはあるかもしれないけど、言わないことは完全に俺の我儘だから。背負うのは俺だけでいい」
結局は、俺だけの我儘だ。家族になった以上は、仲を深めるのは必然的になるのだから、それを隠す必要は皆無。でも、俺が嫌だからと俺だけの我儘で隠してもらってる。これで同じ量を背負えなんて、口が滑っても言えるものか。
「ふふっ。大丈夫。分かってくれる人だから」
「だと良いんだけど」
不安はいつでもつきまとう。相手がどれだけ優しく良い人だと有名でも、罪悪感を少しでも背負えば、それは消えない。何よりも、本当に優しくて良い人と思うならば、隠すことに同意はしないはずだから。
「それで、仲を深めるためにするって2人だとしたらどうするの?」
「どうもしない。さっきも言ったけど、俺も無理に深める仲は好きじゃない。だから、運が味方した時とか、成り行きで仲を深めれる時に深めればいい。早乙女さんは幽と競うとか言ってたけど、多分、家族ならいつの間にか深めるのが1番早いと思うから」
「それいいね。言われてみればそうっぽいし」
「でも、部屋に訪問して仲を深めるとかは、俺もするかもしれない。真逆だからこそ興味があるから」
どうして付き合うのかも、天真爛漫でいられるのかも、仲良く出来るのかも、俺には考えられないことを当たり前のようにする人は、どうしても輝いて映ってしまう。同時に、分かり合えないとも。
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