第20話 友人の差

 「2ヶ月か。結構長くない?」


 「生粋の陰キャだからな。それに、当番の時しか当時は話さなかったから、それだけ必要だった。早乙女さんと毎日会ってから話すとなれば……2週間3週間で友達感覚で話せるかもな」


 実際、彼氏持ちという単語が抜けないため、それ以上必要なのは目に見えている。でも、早乙女さんの性格ならば、それに甘えて俺も深めることが出来るかも、という願いを込めてのこの期間だ。


 「なるほどね。2週間3週間か……それでもまだ長いよね」


 「あくまでも予想で、それは強制感をなくした意図せず築く期間ならの話だから仕方ない。毎日こうして時間を設けて会うなら、多分それだけ早まる。今もだんだんと性格の核を見つけそうだし」


 第一印象から広がる性格の幅。ただの元気な子ではなく、優しさに溢れた、実は男子と家族になることに抵抗はあっても、仲良くなりたいとも思うツンデレ要素の含まれた美少女だと。


 「ほうほう。そういうことか。なら、こうして会うのもありだね」


 「強制的になるけど?」


 「七夕くんは承諾してくれないってこと?」


 「いいや、喜んで承諾するけど、さっき早乙女さんは無理矢理時間を作ってまで深めなくてもいいって言ってたから、それだと強制感の生まれるこの約束は良いのかって思って」


 「あー、それは無し!何だか今度は、霊が七夕くんと2ヶ月で仲良くなったことに悔しさを抱いたから、それを超すために最速で仲を深めたいって思った」


 きっとそうなんだとは思っていたが、本当に根っからの負けず嫌いだとは。しかもそれを隠すつもりもなく、前言撤回してまでも自分の欲に忠実。むしろ清々しくて好感がある。


 「自己中心的だけど、負けず嫌いだから、仲の良い友人として許してね」


 「いや、悪いことじゃないし、本当に自己中心的な人ではないと思うから、そこは大丈夫だけど、考えが子供過ぎる」


 「何ぃ!それでも勝ちたいんだよ!友達ならなおさらね!」


 クーラーはつけていても、熱気が目の前のベッドの上からムンムンと飛んでくるよう。だんだんと興奮していくが、間違いなく今は夜の23時半。これからの睡眠に影響だらけの興奮は心配だ。


 子供と言われて気にするとこも、愛おしくて見ていられる。早乙女さんでなければ無感情で相槌を打つ程度だが、確率が味方したおかげで、いいものを見させてもらった。


 幽は……見た目も言動も愛おしいからギャップもないか。


 「はいはい。そんなにやる気あるなら良いんじゃないか?俺も早めに仲良くなれるなら、それだけ気にすることも減ってデメリットはない」


 「無理に承諾してない?」


 プクッと頬を膨らませて、どうなのかと疑問をぶつける。これもまた、早乙女さんで無ければ可愛いとすら思わないだろう。まったく、こういうのは彼氏さんにだけ見せてもらいたいものだ。


 「してない。そもそも無理ならはっきりと言うしな」


 「あーそっか。そういう人だったね」


 「忘れるほど俺の存在は薄いってことだな。悲しくて涙が溢れる」


 「男子泣かせたの初めて」


 「気にしないのか」


 「気にしてほしかった?」


 「いいや。これくらいで泣く男を気にしてたら、優しすぎて逆に人生が大変そうだ」


 未だにお互いに性格を把握しきれてないんだ。小さなことを忘れるなんて日常茶飯事だろうし、1つ聞いたら忘れないなんて、そんな超人的な記憶力を持つわけでもない。


 「彩り豊かな人生を歩んでると思うから、優しすぎることはないってことかな?」


 「そうかもな。言われてみれば、俺からして羨ましくて嫉妬する人生を歩んでる早乙女さんには、普通に敵対心持つ」


 「えっ、こういうのに憧れてるの?」


 「なわけ。これを冗談って受け止められないなら、出会って2日の幽に負けてるな。ドンマイ」


 「えぇ!ホントに?霊はもう2日目で冗談を見分けられたの?」


 夜だ、と突っ込みたいほど「えぇ!」が大きい。近所には聞こえてないだろうが、反対の部屋に寝る父と可奈美さんには聞こえてるだろう。仲を深めてると思って無視してくれれば幸いだ。


 「はっきりと覚えてるぞ。過去は変えられないから、この敗北は噛みしめることになるな」


 「うわぁぁ……これは本格的に仲良くなる期間を早めないと、負けた時の悔しさが半端ないよ」


 「もう勝ち負けで仲良くなろうとしてるだろ」


 「それでも七夕くんとは仲良くなれる気がするから、私は変わらずこのスタンスで攻めるよ」


 「確かにな。どんな攻め方でも仲良くなれるとは思う」


 多分唯一無二の存在だろう。話していても嫌になることはないし、飽きることもない。だから好きなように話して、終わる時も自由。ってか切り出すタイミングや、終わるタイミングが良すぎて、いつも俺の心を覗いているかのような配慮に、少し引いているくらいだ。


 「必死になり過ぎて、学校でも話し掛けたりとかはやめてくれよ?」


 「んー、霊に出してる問題が終わったら、少しずつ、霊に話し掛けるついでに、仲を深めて行く作戦に出るかも」


 「……その時はもちろん徐々にだよな?」


 「それはそうだよ。私もバレていいことは無いんだから」


 一応家族ということは誰にも言わない約束。バレたらお互いに迷惑をかけることを知っているから、リスクはあっても言わない方を選んだのだ。

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