第18話 何話す?

 その早乙女さんはというと、その間睡魔により、瞼を重くされているのに必死に抵抗していた。ちょっかいはかけられなかったが、チラッと見ると「うわーうわー」っと小さな声を出しては、寝ないように指で遊んでいた。


 幼気はとても感じ、可愛く見えてしまうその姿が不思議で仕方なかった。きっとこれも素の姿なのだろう。睡眠を除く1日を、全て天真爛漫でいられるわけもなく、1日を終える時に見せる片鱗は、何気ない1日を終える俺には癒やしだ。


 『いやー、長々と話してると負けるのは学びだったよ』


 「そうだな。永遠と話に付き合わせれば良かった」


 反省会を始めるのは23時まで残り5分。きっちり23時に終わる決まりはないが、引き伸ばされるのでそれに付き合ってしまう。デメリットは煽られること。満足して終わりたい性悪なとこを全てぶつけてくることが、唯一無二のデメリット。


 そしてその会話を聞いたからか、ベッド付近でザワザワと音が立ち始めた。振り向くと、ベッドに座って寝惚け眼を擦る、朝と勘違いしてそうな美少女がいた。音を出さないように気をつけるほど意識はないようで、眠い中で待たせたのは少し申し訳なく思う。


 『んーはぁぁ!今日はここらで許してあげるよ』


 背伸びをしているのがよく伝わる。


 「声デカイし何かウザいし」


 『そう思わせれるように頑張るんだよ』


 「途轍もない努力をするわ」


 『口だけじゃないようにね』


 「はいはい」


 『それじゃ、また明日学校でね』


 「また明日。おやすみ」


 『おやすみ』


 これで俺の今までの1日は終了だ。ベッドホンを外し、スタンドに掛ける。パソコンも手慣れた手付きで電源を落とす。


 騒がしかった耳元も、今ではすっかり静か。いつもと何も変わらないその状態に、1日が終わったことを教えられる。ルーティンのようなものだ。これで切り替えて、身体は睡眠へと続く。


 しかし、今日は例外の日。すぐそこで待つ、家族になったばかりの美少女と、何かしら他愛もない会話をする約束を果たす。欠伸をしては、力の抜けたようにダラけた雰囲気が醸し出される。なのに、一切丸まらない背中は驚き。


 そんな早乙女さんの方を、椅子を回転させて向く。


 「待たせて悪かった。その、今にも倒れて寝そうなフラフラがあと10秒で抜けなかったら今日は寝てもらうから、無駄にならないように起きてくれると嬉しい」


 俺も話したいとは思うため、この時間は無駄にしたくない。が、強いてもすることではない。眠いのならそれを優先するのもありだ。俺がどれだけ待たされても、早乙女さんが選ぶ方には文句はない。


 「なんとか起きれる……よ」


 「危ないけどな」


 「なら起こせる?」


 「方法を知らない。氷を額につけるとかしてみるか?」


 「うぇ、冷たそうで嫌だ」


 まるで熱を出した時の我儘な子供だ。雰囲気もどことなく似ている。


 「寝てもいいぞ?別に今日話さないと不幸になるわけでもない」


 「でも折角待ったんだし、起きるぅーあーー!」


 頬をペチペチと軽く叩いて無理矢理起こす。テンションを上げてしまっては、ここから寝付きが悪くなるだろうに、そんなことお構いなしとは気合が違う。


 声はそこまで出してない。俺のボイスチャットと同じ。今さっきまで耳元で幽の声を聞いていたのに、それでも少し大きく聞こえるのはこの時間だからか。


 「起きました」


 「原始的だな。おはよう」


 「どーも」


 「寝起き早々、何の話をする?」


 「んー、そうだね……」


 寝起きには考えはまとめられないのか、多分何を話すか決めていたことを、今は忘れてしまっている。睡眠欲に刈り取られたのだろう。


 「ないなら、なんでその話をする気になったか聞いても?」


 出てこない気がしたため、頑張って何を話すか決めている横から聞く。


 「それは、昨日話したことにも関係してるけど、家族になるのが同い年の男の子って聞いて、最初は嫌だって言ってたじゃん?だけど、恥ずかしながら、仲良くなりたいとも思ってたんだよね。家族として1つ屋根の下で暮らす関係として、仲良くなれたら、この歳からの関係だと面白いって思ってたから」


 「なるほど。だからそんな積極的なのか」


 「そうそう」


 実は俺も、第一印象では可愛さを自負するとこから、プライドの高い女子なのかと思っていた。しかし今は、プライドはあっても高すぎず、接しやすい高さに居るため打ち解けやすいと思っている。


 コミュニケーションも取りやすくて、気を使う必要もそんなにない。無駄に意識することが必要ない、稀有な存在として重宝したいと思えるほど良い人だ。


 「言われてみれば面白いかもな。失礼な言い方かもしれないけど、早乙女さんは男子からすれば大当たりだから、その性格と関われるのは面白いって思えるし」


 「それなら七夕くんも大当たりだよ。彼氏持ちの私からすれば、好きでもない男子と同じ家に住むのは抵抗あるけど、そんな色恋に興味なくて、こうして付き合ってあまり気を使わないで関われるから」


 「そうか?一応彼氏持ちとして、罪悪感とか感じないように一線は引いてるつもりなんだけど?」


 「でも押せば頷いてくれるし。膝の上に乗った時は、もう気を使わなくていいと思って承諾したんでしょ?」


 「……異能力者?」


 完璧に当てられる。その時の気持ちを思い返すと、気づかれてることがだんだんと恥ずかしく思えてくる。

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