第12話 友人との関係性
早乙女さんは残った三分の二を、何も気にすることなくパクっと食べ終える。これで完食だが、色々と驚きの連続だった。
男女の境がないというか、俺を家族として括って男としては見ていないような感覚。不快なことはなく、むしろ楽しいことが連続して起きたので良かった。関係も良好で、これからも何不自由なく暮らせるとは思った。
懸念点は俺の罪悪感が働くことだ。彼氏持ちだと、やはりそれだけで何もかもを躊躇する。学校以外の時間を、ほとんど同じ部屋で暮らすということが、彼氏にとってどれだけ嫌なことか。
隠されてることが嫌とは思うかもしれないが、それは俺の体裁を保つという我儘で押し切っている。興味がないと公言しているから、早乙女さんも気にしてはいないだろうし。
大丈夫だとは思うが、もしもが考えられない俺には少し難しい問題でもあるな。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです」
「ふぅー、食べたー美味しかったー満足だー」
背もたれに上半身の全体重を掛けては、満腹でも細いお腹をポンポンと叩く。まるでおじさんのような行動だが、早乙女さんがすると高評価だ。
「良かったな」
「うん。本当に七夕くんの料理じゃなくて良かったりして?」
顔を覗き込むように、いじわるを言う。こういうのも早乙女さんの仲を深める範疇なのだろう。分かるから不快にはならない。
「それは否定しない。けど、いじめすぎると晩ごはん、1人だけ食べものじゃない料理が出されることになるぞ」
「逆に楽しみだけどね」
「かもな」
今までの失敗作をまとめて、過去1美味しくなかった料理を作ろうか。そうなれば食材の無駄で、早乙女さんに怒られそうではある。
それを脳内で正確に想像しながら、そのゴミとなった入れ物を回収する。折りたたんで、捨てやすいように出来るだけ小さく。
早乙女さんには座ってていいと何度も言って聞かせたので、満腹のお腹を触りながらペコペコと感謝するようにスマホを触っている。何を食べるか選んでもらった分、片付けは最低限する。
そんな俺に、スマホを触るのをやめ、手持ち無沙汰となった早乙女さんは聞く。
「そう言えば、霊から聞いたってか、感じだけど、仲良かったんだね。「風帆くんと何かあった?」とか「告白されたとか?」とか聞かれたからさ、そんな仲だったんだって思ってた」
「知らなかったのか?結構学校では話すけどな」
「本当に?見たことないから驚きだよ」
「授業中とか、休み時間にどうでもいいことを話してるだけだけどな」
色んな人から話しかけられて、その結果、俺のような日陰の存在を意識することはないだろう。たとえ幽と仲いい早乙女さんでも、俺のことを聞くこともなければ、幽も早乙女さんに俺のことは言わないだろうし。
初耳にも頷けるか。
「どんな話するの?」
「興味あるのか?」
「だってあの、私にも興味を持たない七夕くんが霊と仲いいって、それは興味ありありでしょ」
似たような目を数分前に見た。知りたいと、求めて輝く瞳。
「早乙女さんにも興味は持ってるけどな」
「それは家族としてでしょ?家族じゃなかったら全く興味なかったってことだから、それで言えば、家族でもない霊に興味あるのは、私からすると興味深い」
「なるほどな」
たった2日だが、こうなっては引かないと分かる。教えてもらうまで逃さないとも、その鋭い眼光は俺を捕らえた。
「どんな話……んー、ゲームがほとんどだな。他は疎らで分からない」
「へぇー、霊からゲームの話とか聞いたことないんだけど。なんか羨ましい」
「唯一自慢出来ることだな。多分早乙女さんよりも、幽のことは知ってる」
「なんか嫉妬するんだけど。実は私って嫉妬深いんだからね?明日幽のこと全部聞き出す。そしてマウント取ってやる」
「それはいいことなのか?」
「多分!」
右手に握り拳を作って元気に返事。この反応は本当にいいことなのかは分かっていない。嫉妬がいいことかも曖昧な俺には、友人への嫉妬がどれほどの愛情表現なのかも分かってない。
「ちなみにだが、霊にはなんて答えたんだ?」
「なんのこと?って全部知らないふりをしてきた。多分演技上手いからバレてない」
「めちゃくちゃ怪しい……」
これは手遅れかもしれない。なんとなくだが、早乙女さんは勢いで押し切るタイプだと思う。そんな人が演技上手いかなんて……。
「大丈夫!バレても霊なら言いふらさないし」
「いや、俺が良くないんだよ」
「と、言いますと?」
「明後日までに早乙女さんとの関係を把握したら、幽とのゲームに満足するまで付き合わされるんだ。だから、それを避けるために朝も全部質問の答えを濁した」
「えぇー、霊となら良くない?」
「良くない」
メリットはある。だけれどそれは、時々やるから思う。毎日してると負けた時に煽られたり、学校でイジられるため、悔しさが滲み出る。授業どころではなくなるのだ。
「だから、早乙女さんにも頑張ってもらいたい。けど、無理は強いない」
「演技上手い私なら頑張る必要ないけどね?」
「その言葉通りなら俺も安心感に両足どころか、全身を浸らせてるけど」
そう上手く行かないのが幽だ。天啓が得られると疑うほどの賢さ。秘密が通用しない怖さは、親友としては少し考えもの。
最悪バレたなら、ゲームの相手は早乙女さんにしてもらうのもありか。
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