第13話 お風呂は?
時刻は19時前。まだ父と可奈美さんは帰宅しない。残業と外食ならば、予想では20時半に帰宅だろう。再婚したばかりで、積もる話もありそうだ。もしかしたらより遅くの帰宅になる可能性もある。
なんら問題はないが、体調の心配は微かながらある。そんな、どこを見ても元気な父と可奈美さんには杞憂をして、俺はテーブルを拭いている。止まらない質問を耳に。
「霊とはいつからの仲?」
目の前でテーブルを拭く俺を見ながら、スマホを触ることなく興味津々なのは変わらず聞く。珍しいことには惹かれるようで、一層強まったその瞳は絶景を覗くよう。
「中学だな。委員で一緒になってから、気づいたらって感じ。何か特別なことがあったとは思わないから、ホント、いつの間にかだな」
「なるほど。運命ってやつか」
「そうか?」
「なんとなくだけど、高校も一緒だとそうかなって」
早乙女さんとは高校から同じ学校で、中学は全く違う学校。他校から集まる中で、たまたま幽と同じ進学先だっただけ。それなら小さな運命とは呼べるかもしれない。
「まぁ、相性も良いとは思うし、珍しく仲良くなれると思ったタイプだから運命かもな」
「確かに。七夕くんと霊って雰囲気似てるし、ゆっくりマイペースだもんね」
「他人からしたらそうでも、俺たちの仲だとそんなことないぞ。しっかりうるさいし、落ち着きなんてほとんどないしな」
「ホントに?めっちゃ気になってきた」
実際隣の席で話す時は騒がしい。影が薄いが故に気づかれないが、声が聞こえる点では翔はよくうるさいと言うし、周りの人も思っているのだろう。
頻繁に迷惑をかけているわけではないが、寡黙でゆったりした性格でも話し方でもない。お互い平均的な男女の高校生だと思っている。
「気にしても何も面白くないぞ」
「いや、イメージがガラッと変わるなら面白いよ。2人の仲の良さをこの目で見るのも面白そうだし」
「……なんだか恥ずかしいな。見て得するとは思わないけど」
普段からおとなしいと思われてるからこそ、仲がいい人と話す時はよく喋るんだと、そう思われるのがなんだかむず痒い。きっと悪い印象は抱かないだろうが、関係を知られることにそういった気になる点は生まれる。
「誰かに勘付かれない程度になら良いんじゃないか?俺も見られてると違和感を覚えるから、しれっと見るのをオススメする。明後日までは避けてもらいたいけど」
この期間にバレたら自律神経が乱れてしまうことになる。朝毎回顔を覗かれて起こされるのは避けたいので、そこは懸念点だ。まずは、バレないことが最優先。
「そうだね。でも逆に私と霊の仲の良さを見せつけてやってもいいけどね」
「それはご自由に。早乙女さんと同じように嫉妬はしないから、好きなだけ見せつけてもらって」
「強者の余裕ってやつだね。羨ましいよ」
「なんだかハイスペックな人に勝てた気がして嬉しいな」
「私は悔しい」
頬を小さく膨らませて、その若干不機嫌を顕にする。それほど仲の良さは自慢出来るものだったのだろうと、いい関係を築けていることが微笑ましい。
そしてちょうどテーブルを拭き終わり、晩ごはんの片付けも完了。残すは悠々自適な睡眠までの時間。若しくは質問攻め。取り敢えず先に終わらせるのは風呂だ。
「悔しがる途中悪いが、湯張りしてるから、先に風呂行っていいぞ」
いつの間にかソファに移動して、細身の体躯を横に倒して、抱き枕を体の前に抱えている。足音もしないほどに軽いのか、気配なく移動したのは驚きだ。
「いいの?私長いし、なんだか気を使っちゃうよ」
「珍しいな。気にしないと思ってたけど」
「いやー、お風呂だよ?それに出来たてホヤホヤの家族で歳も同じだし、ね?気にしちゃうっていうかなんていうか……」
明らかに狼狽する。朝に男の部屋に無断で入っては気にしない女子でも、流石に風呂となれば気にすることはあったらしい。思えば俺も段々と何気なく言ったことを恥ずかしく思う。
「そうだな、悪い。俺は春夏秋冬シャワーだけだから、湯張りしても浸からないんだ。だから気にせず言ったけど、浸かったお湯を使われるとかいう心配事があるなら、先にササッとシャワーで済ませる」
シャワーだけといっても、お湯に浸かる人と然程時間の差はない。体は最低でも2回は洗うし、性格上満遍なく平均的に洗いたいため、そんなに?というほど丁寧に洗う。夏は風呂から上がれば暑さが気持ち悪いし、冬はポカポカとして早寝してしまうので、いつもシャワーだけの体を温めないタイプである。
「あっ、そうなんだ。でも、お湯を使われるとか心配はないよ。なんか話聞いてたら気にする方が変だって思ってきたし。普通に先に入らせてもらおうかな」
「分かった。忘れ物はしないでくれると助かる」
「あはは。大丈夫だよ。もし忘れたら取ってきてって言うけど」
「その時は部屋に籠もるから、自分で取りに行ってくれ」
「素直じゃないなー」
流石に美少女で彼氏持ちの裸や下着姿を見てはいけない。そう。見てはいけないのであって見たいとは思う。素直じゃないのは承知で、俺も男子高校生として性欲はある。だが、しっかりとそこらの区別はつけている。
「それじゃ行ってくるー」
「いってらっしゃい」
同じクラスの彼氏持ち有名美少女と暮らして、風呂であたふたするとは、こんな展開はいつまで続くかな。
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