第8話 ゲーム約束

 よくも、我ながらこんな演技が出来るのだと、変なところで才能を感じた。咄嗟の事にも驚かず、平然とその場を切り抜ける。奇跡が起きて良かった。


 「でも、何かを隠してるのはそうだよね」


 「詮索する気はない、とは?」


 「過去のことは5秒で忘れるから、覚えてない架空の話はやめてほしい」


 「これが俗に言う都合のいい女ってやつか。初めて出会うな」


 「詮索は楽しいんだよ?だから都合のいい女でもやめない」


 ジト目のせいか、ニヤッと悪巧みをする相好が、全く悪辣感なくてむしろ可愛い。落ち着いた雰囲気と相まって、策略バレバレなのに全力で取り組む妹感がある。


 「さっきは建前ってことか」


 「んー、風帆くんの前だけでは建前。他の皆の前では建前じゃないよ」


 「俺だけ詮索するなよ。なんのメリットも無い」


 「怒られないし、そんな秘密を抱えない人の秘密は知りたくなるでしょ?」


 「確かに」


 基本何があっても、俺は秘密を抱えない。そんな関係を結ぶ相手は今のところ1人で、それも昨日出来たばかり。何か隠すのは後々いい事には運ばないことが多いから、俺は悩みも不安も全て打ち明ける。


 それが誰にも広まらない相手である幽だからこそ言うのだろうが、それでも秘密は隠し続けない。翔は口が軽く、人気者であるため、いつかボロっと言いそうなので隠すが。でも信じていることには変わりはない。


 「特別感に浸って、詮索は許してね」


 「浸らないけど許してる。だから、俺からその秘密は言わない。答えが合ってたら正解ってだけ言うから、頑張ってその才能を活かして答えまで辿り着いてくれ」


 「ゲーム感覚だね」


 「面白みを加えた。幽の好きそうなアレンジだ」


 「 谢谢シエシエ


 本場の訛りなんて分からないけれど、確かな発音とともに聞く中国語の感謝。耳に残るそのゆったりとした声音からの響きは、朝方から眠気を増加させてくれる。


 そんな睡眠効果のある幽だが、実はミニゲーム好き。派手に1人でプレイするようなゲームではなく、ゆったりまったり、マイペースに楽しめるのに限るが。


 最近では夜、PCと接続したモニター越しに五目並べやミニゲームの詰まったソフトを開いて一緒に楽しんでいる。不思議と五目並べには魅力を感じてしまい、気づけば2時間とかよくある話。


 「当てたら何か貰える?」


 「俺の秘密を貰えるだろ?」


 「それはそうだけど、何かしら頑張ったで賞とか無いの?」


 「無いから逆に同じ質問をする。何が欲しい?」


 「夜遅くまで私とのゲームに付き合わせる券かな」


 「考えたな」


 健康優良児ではないが、ゲームは長くて23時で終わる。それを超えるとハマって抜け出せなくなるので、強制的に離脱する時間を脳内にセットすることで拘束を解く。


 だが、幽はそれを解けと言っている。つまりは寝不足になってでも私をゲームで楽しませろ。そう言っているのと同義だった。


 「それ、俺にはメリット無さそうなんだけど」


 「可愛い人気のマスコットとゲーム出来るだけでメリットじゃない?」


 「……腑に落ちるんだよな」


 俺も夜は暇人なため、その時間を潰してくれる幽には感謝している。どうしてもゲームとなれば共通の趣味として、流行りのFPSなどが主流で、俺らとは少し軸がズレる。だが、幽は俺と趣味の一致した唯一無二の存在なため、翔よりも重宝している存在だ。


 それが1番のメリットだが、これも言われてみれば、おとなしいにも関わらず、存在からマスコットとして人気者な幽とゲーム出来るのもメリットだ。


 「まぁ、いいか。寝不足くらい普通だもんな。それで、何時まで付き合わせるんだ?」


 「んー、2時とか?」


 「長いな。もう寝てる時間だ」


 1時半には遅くても眠りにつくため、2時というのは未知の時間帯。噂では幽霊がよく出ると噂される時間帯だが、名前との因果関係があったりするのか。


 「じゃ、記録更新しよう」


 「我儘だな」


 生きてきて、今まで何も用事がない日に、自分の欲で2時以降に起きていたことなんて記憶に無い。一線を越えるか。未知にワクワクするが、健康面が心配だったりする。


 「当てれたらだから、確実ではないよ」


 「それならこっちは期間を設ける。明後日水曜日までにする」


 「了解。それまでに当てたら券は貰うよ?」


 「1日で期限切れか?それとも毎日?」


 「今日はとことん珍しいね。そこ気づかないと思ったのに。まぁ、毎日って言うんだけど」


 俺からすれば毎日のように夜ふかししている女子が、こうしてきめ細やかな吹き出物のない、透き通る肌をしている方が、よっぽど珍しいと思うが。


 体型も無駄に脂肪はないし、40は無いと思えそうな細身。どことなく早乙女さんに似た体型をしている。


 「別にいいけど、限界来たら言うからな?学校で寝ても、教員には気づかれない影薄仲間として見過ごしてくれよ?」


 「それはその時の面白さで決める」


 「悪魔だな」


 幽ほどではないが、俺も気づかれない体質。それは翔だけが注意されたのを見るに分かることだが、隣にいる俺にもバフが掛けられるのか、幽の隣に居るといつも注意はされない。


 「はい、ホームルーム終わるぞ」


 担任の言葉でホームルームが終了する。ガサゴソと騒がしくなるのは月曜日らしくない。特に早乙女さんの席付近は。


 「さっ、私も頑張るかー」


 「そうだな」


 気の抜けたやる気の伝わらない声音は、朝から大きな欠伸を誘発してくれた。

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