第7話 洞察力
そんな類友は、文字を見たまんま、他人ではない。そのため、2人には興味があるし、どんなことが好きかなんてのはもちろん知りたい。だから積極的に関わりに行くことはある。
誕生日を忘れていたのは最近色々とあったからで、1週間前は覚えていた。幽は覚えるとか言う前に、知っても忘れるほどに、天然というかのほほんとしているので結局祝う未来は無かった。
「大切な友達なんだぞ?1人でも10人でも嬉しさは変わらないだろ」
「だとしても、大勢忘れてたとして、毎回そんな騒がれたら、騒がれる側はたまったもんじゃないぞ」
「同意」
「許してくれよ、それくらい」
言われることは嬉しいが、騒がしいのは好きではないため、そこらへんの共感はし難い。
眉を寄せてその不満を見せつける。未だ、小学生でも拗ねないような誕生日関連の話に眉を寄せるとは、まだまだ高校生として生きるには難しいとこがあるかもしれない。
「はい風野、前向いて話聞けよー」
「……はい」
流石にバレたか。声量は問題なかったが、後ろを向き続けたのが担任の目に捕まったらしい。見つかったか、と、誕生日云々で軽度の傷を負った後に更に注意をされたことにより、気持ちはダウンし続けていた。
周りからはクスッと笑い声が聞こえたり、普通に笑ったりと様々な笑い方。その中、早乙女さんもあははっと声を出してクラスを盛り上げるかのように笑っていた。
昨日増えた、他人ではない存在。家族という、友達の仲を超えた珍しくも特別な関係。そう思うと、その笑顔もどこまで至高になるのか興味が湧いてくる。
今まで全く興味なく、どうでも良かったことに興味を。
人生って何があるか分からないな……おもしろ。
「そんなに面白かった?」
その言葉にハッとする。こちらを見て首を傾げて聞いてきた幽。無意識に上がった口角をたまたま捉えていたらしい。見られてしまうとは、これは恥ずかしい。
「思い出し笑いだ」
「ふーん。いつも笑わないのにね」
「そんな観察してたのか?そっちの方が何も面白くないぞ」
「地蔵が笑うとこを見るのは面白い」
「誰が地蔵だよ。いつも幽と翔の前では笑ってるだろ?珍しいもんじゃない」
「そうかな?」
何かを含んだ、いや、知ってるんだけど?というような目に見えてしまうのは考えすぎか。早乙女さんとは友人関係でもあるからこそ、今の幽は俺を試しているようにも思える。
こんなにも隠し事は怖いものなのだと、人の秘密を守る約束をする人、そしてそれを完璧に守り抜く人は俺からすれば超人の領域だと思う。
俺の笑った意味を理解したら、もう天才でしかない。視線を早乙女さんに向けた時、同時に幽からも向けられたならば俺の敗北。
賢く察しのいい、勘の鋭い幽ならば視線の前に何かしら気づくだろうが。
「まぁ、珍しいものを見れたんだし、満足だけど」
「なんだかホッとさせてくれる言い方だな」
「隠し事を詮索する気はないからね」
「何かを隠してるっては確定してるんだな」
「一応は。誰かを好きになったとか、告白されたとか可能性は様々だから一概にこれとは言えないけど」
「俺に好きな人なんて出来ると思うか?それに、好かれるなんて、より無い」
日陰で生きてきた者として、興味は持たれたことはあっても好意を伝えられたことは皆無。日陰に住む以上、必然的にそういう人なんだと注目は集める。だが、それに好意や好感を持つ者は稀有だ。今までの経験上では。
「私は思うけどね。好かれることだって、珍しいとも思わないよ」
「なら可能性は消えないってことか」
「まぁ、こうは言っても、今は絶対にないって分かるけど。誰から好かれてるとかは知らないとして」
「何もかも隠し事が意味無さそうで、賢いって天敵なんだって教えられてる気分だ」
「長年の付き合いだと、それはよく分かるよ」
自慢気に語られるが、全く自慢されて嬉しいものではない。胸を張られても全てを見透かされてしまっては、プライベートとはなんぞや、ってなる。
悪気は無い。それに深く嫌だと思うとこへ足を踏み込むことはない。だから注意はしない。何よりも、秘密を守るバラさないと確信出来る唯一の存在のため、別に気にしても広まることもないので放置だ。
「澪のこと好きになったって言われても驚かないよ?」
「澪……あー、早乙女さんか。なんで早乙女さんを?」
「あれ、その反応は本当に不思議な時のやつだ。ってことは澪には何の興味もないってことか……」
なんて言っているが、心臓は一瞬跳ねた。ドキッと冷や汗も出そうなほどに。だけれど、何故か表情にも出すことはなく、いつもの知らない俺で居られた。
やはり視線を見ていたらしい。早乙女さんを見ていたことに、俺の性格をよく知るからこそ違和感を覚えたのだろう。それでカマをかけたが、無意味だった、と。
危ないな……。
心底良かったと思った。早々にバレては、いくらバラさない性格とはいえ、ここらで聞き耳を立ててる人もいるかもしれないのだから、人の居る場では避けたい。
「確かに澪を見てた気がするんだけど」
「言われてみれば方向はそうだったかもな。思い出し笑いをしたタイミングがダメだったんだろ」
「考えすぎってことね」
「そういうことだ」
いいや、そんなことは全く無い。完璧な人間観察に称賛したいほどだ。正確無比な答えに、内心ではバレてるんじゃないかとバクバクしているのだから。
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