第6話 男女の友人
少しの距離だが、近くはなった気のする関係。だが、それでも未だ遠い関係からの接近は完璧ではない。何日も使って、その距離を埋めれるために尽力するのは意外と面白そうだと思っていた。
そんな俺は朝食なんてとっくに終え、通う
クラスメイト40人のど真ん中に座る早乙女さんとは少し離れた場所。関わりを持つことはそんなに無いという、俺からすれば完璧な配置だ。
早乙女さんには学校では俺たちの関係は言わないと約束した。言えばそれだけで騒がしくなるし、俺が1人が好きということの配慮と、早乙女さんの彼氏さんに迷惑のないようにとの配慮。お互いに気をつけることがあったが故に成立した。
なんだか秘密の関係といえば青春っぽいが、全く彩りはない。彼氏持ちの美少女と家族なんて、その欠片すら見せない。どこか面白さはあるが。
そんなこんなで同時登校なんてするわけもなく、少し遅れてチャイムギリギリでやって来た俺は整理整頓を続けていた。そんな俺にだって、実は友人は居る。それも2人も。
「おはよう。今日も背中を付いて来たよ」
「……月曜日の朝からその体質は苦労するな。全く気づかなかった」
ゆっくりと音を立てないかのように、いや実際体重が軽すぎて立たないのだが、その気配を消して隣に座る1人の友人。珍しくも女子だ。
姓を幽名を霊。合わせて読めば
若干赤色の髪の毛を後頭部でまとめたポニーテール。ジト目の中には髪色からか、躑躅色の双眸を輝かせている。不思議感も漂わせている。
「今日も1人に驚かれたよ」
「大収穫だな。神出鬼没の幽霊さんは」
「普通に歩いてるだけなんだけどね。見失うほど影薄いのか、身長が低いからか」
「影の薄さは誰よりもずば抜けてるな。夏休み前はクラスメイトからも色々と言われてたみたいだし」
「誰だっけ?って言われるのに慣れたよ。多分影の薄さ一強」
「だな」
カバンからガサゴソと物を取り出しては引き出しに入れ込む。チャイムが鳴って、ホームルームが始まっているが、そのマイペースは変えない。
担任すらそれを注意しないほどには影が薄い。気づいても「あっ、幽霊か」と、どこか傷つける言い方に聞こえるように言って放置する。それほど担任にもマスコットは適応されているらしい。
でも、実は学力は学年1位という、存在感ある実績を残している。それでもこの薄さは、もう才能でもある。
そんな幽との関係は、俺と似た性格だからこそ仲良くなったのも1つの理由なのだが、中学校時代からの縁が1番大きい。
図書委員に選ばれて、偶然担当が幽と同じだったのだが、それが3年間ずっとだった。1学期2学期3学期と、1年に3回も委員会は変わるが、3年間全て同じで同じ担当日だったという奇跡を起こしてからは、当たり前のように仲は深まった。
今は委員に所属する必要はないため、お互いに所属してないが、机は隣という奇跡を勝ち取っていた。気軽に話せる女子では唯一の仲。重宝している。
そして。
「お2人さん。今日は何の日か知ってますか?」
担任の話なんて全く聞かず、後ろを見て小声で話し掛ける男子。名前は
「知らないけど」
「私も」
「おいおい、しっかりしてくれよ」
本当に知らない、更には力のない声音の俺たちにも屈せず、その元気で乗り切る男。今でも何故翔と友人になれたのか不思議で仕方ない。
「今日は俺の誕生日だぞ?9月18日。覚えててくれよな」
翔とは高校で出会った。馴れ初めは今のこの席だ。幽と話している時に割り込んで無理に仲を深めたのが思い出される。翔とは話していても何故か不快感はない、1人が好きで他人に興味のない俺にも理解のある友人。
「そうなの?来年は覚えとく」
「幽、そんな冷たいこと言うなよ。折角祝えるように朝に教えてやったんだぞ?何かしらプレゼントは用意してくれるだろ?」
「無理だよ。学校だし、帰りは面倒だから無理」
「じゃ、七夕」
「じゃ、って言われたから無理」
「うわっ、やらかした」
右手を額の上に、オーバーリアクションしているが、担任からの注意は飛んでこない。翔が自由人であり、そもそも朝のホームルームにて話すことなんて無いため注意すらも必要ないという判断だろう。
周りに目を向ければヒソヒソと近くの友人と会話する人が見られる。早乙女さんだってそれは例外ではなかった。
「誕生日なら金曜日にでも言ってくれればよかったのに」
「俺も昨日思ってたわ」
「来年は気をつければ良いだろ。そんな誕生日1つで盛り上がれる人が、俺ら2人のことで騒ぐなよ」
人気者はそれだけ人脈がある。誰からも好かれる幽はともかく、俺のような友人の1人からは騒ぐほど喜ぶことでもない。
ちなみに幽は早乙女さんとも仲がいい。そのため、よく一緒にいるとこを見かける。秀才は秀才を引きつける。まさに類友だ。
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