第5話 これから

 他人からの自分の評価なんかは別に気にしない。けれど家族は違う。日々を共にする仲として、それも最近家族になったばかりという血の繋がりのない家族なら尚更に。


 「大丈夫だよ。別に見られてるわけでもないし。何より家族だから、誰がなんと言おうとそれは変わらないでしょ?気にしない気にしない」


 「軽いな……」


 心底気にしてない。なんなら俺の動揺を不思議だと首を傾げるほどには気にしてない。俺が手を出さないと確信しているのか、それとも元々早乙女さんの性格がそうなのか。


 「まぁ、早乙女さんがそう言うなら、俺はもう気にしないけど」


 いつまでも嫌だ嫌だと子供のように駄々はこねない。無駄に廃棄するよりも、胃の中で栄養とする方が断然メリット。お腹も空いているし、デメリットは多少の罪悪感だけ。


 「いぇーい。ありがとう」


 席を立ってどうぞこちらへと両手で案内される。が、流石に同じ箸を使えるほど家族として染み込んでないし、家族としてでも抵抗はあるので自分専用の箸を取りに向かうとする。


 「それにしても、早乙女さんってイメージ通りで俺の中で驚いてる」


 箸を取り、席に座るが、その目の前には早乙女さんが座る。配慮なんてなく、俺の食べる姿を見るためだけに。


 「まぁ、偽りなく生きるのが私だからね。疲れない自分らしい性格で楽しく人生を謳歌してるんだよ。私からしたら七夕くんはイメージとは違ったかな」


 「どこが?」


 「意外と喋るとことか」


 「それか。家族として仲を深めるのは当然だしな。寡黙なままだと早乙女さんも関わりづらいだろうし、出来るだけ早乙女さんについて知る必要があると思って」


 近いものでいえば入学時の友人関係を築く時と同じ。自分と性格が合うのか、それを知るために話し掛けては、良し悪しを把握する。


 苦手なことを把握すれば、それを避けた行動を取ることが出来るからこそ、相手をよく知ることは避けられない。


 「ってことは無理してるってこと?」


 「そうだな。でも、嫌だと思ってはしてない。家族として大切なことだからな」


 「ふーん」


 頬杖をついて、食事を続ける俺の顔を観察するように見る。見られるのは嫌いだが、それを言ってもきっと変わらない。どうせ雰囲気が悪くなっても、家族としてはいつかは仲は戻る。


 「不思議だなー」


 「何が?」


 「その何にも興味を示さないとこ。正直、お母さんの再婚相手に同い年の男の子がいるって聞いた時「あー、色々と大変だな」って思ったけど、奇跡的に唯一そうならなさそうな男の子だったし」


 早乙女さんも運命と言いたいのか、俺という存在をまるで当たりのように言ってくれる。その眼差しは嘘ではないと言っていて、それが伝わるから余計に嬉しい。


 ならばと、俺もその答えを隠さずに伝える。


 「少し暗い話だが、父さんと母さんの日々の喧嘩を幼い頃から見せられたら、いつの間にかそれを避けるように夜1人で外を徘徊し始めたんだ。それから1人が好きになって、誰にも興味を持つことはなくなったんだ」


 仕事の残業が多く、帰りの遅かった元母は、しっかりと定時で帰ってはご飯の支度をする父に対してそのストレスをぶつけていた。誰がどう見ても父が悪いとは思わないが、それを宥めようと罵詈雑言を飛ばされても、何か小さなことを指摘されても父は怒らなかった。


 でも、それが長い間続き、元母が父の顔を叩いた時、流石に父も限界だった。バンッ!と机の上に離婚届を叩いて名前を書いてくれと頼んだ。その時にもう1度顔を叩かれたら、父も「男女平等!」と言ってパチンと少し優しく頬を叩いたのは懐かしい。


 「だから今でも夜にはここには居ない時もある」


 「そうだったんだね。何か悪いことを聞いた気がしてごめんね」


 「いや、謝らないでくれ。別に今は幸せだし、夜散歩するのは何も考えなくていいから楽しいしな」


 何も考えなくていい。不安に思うことも気にすることも何もない。それを味わえるのは、人生に不満がないからこそ。だから俺は1人が好きだ。もちろん常にというわけではないが。


 「そう。やっぱり七夕くんとなら気兼ねなく家族になれそう。意識することはないし、むしろ楽しめそう」


 ニコッと出会って1番の笑顔。月曜日の朝なのにこの元気とは、見る側は癒やされるがやる側は得しないだろう。でも、満足気なのは何かしら嬉しさが込み上がったのだと思う。


 「それは良かったな。家族だし、何も気にしない関係になれたらいいな」


 「もう七夕くんは気にしてなさそうだけど?」


 「それもそうだな」


 美少女の一挙手一投足に気にしていたら色々と耐えられない。今はまだ興味を持って接しては、どういう人なのかを知る期間のため積極的に行くが、後々それも減るだろう。


 「私は幸せに暮らせればそれでいい。七夕くんとも楽しく家族になれるなら、それに越したことはないし」


 「一応言っておくが、俺は優しくもないし気も使えない。だから不快にさせることは多くあるかもしれないから、そこは先に謝っておく。悪いな」


 「ううん。私もそこまで理想郷に居る女の子じゃないし、ダメなとこ多いから、そこは知っててね。元々ハイスペックとも思ってないとは思うけど」


 「何しても完璧だって思ってる」


 「ありゃ」


 謙遜だと受け取るのが普通だ。実際学校行事に於いては、何もかも上位に立つのを知るからこそ、それは当たり前に。

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