Sec 2 第19話

 ――――――――さっき手渡てわたされたバッグを肩にけ、ドアを開いて個室こしつに入る。


そして、ミリアはそのせま簡素かんそな部屋を見回して、スペースは十分な広さで着替きがえのためのたななどがあるのと、壁の表示ひょうじを確認して。

しゃがんで、ゆかろしたバッグの中に用意された中身を少し確認したら、それからシャツに手を掛けて服をぎ始めた。


着替きがえるのは上下の黒い生地きじのセパレート型のスポーツ用下着アンダーウェアらしきもので、バッグの中から取り出して頭からかぶる。

足も通して、うす生地きじやわらかくびて身体からだにフィットする。

少し密着みっちゃくぎてタイトな気がするけれど、素材の表面にれれば指先には、ふと些細ささいな違和感を感じる気はする。

『EAU』が特殊な繊維せんいあつかうのはれているし、運動をするからしっかりとしていて動きやすい繊維せんい生地きじい。

自分が腕を伸ばしたり、体をねじったりすると独特どくとくにぶ光沢こうたくを見せて動く、その繊維せんいの黒い生地を見下ろしつつ。


肩を広げたりしてみて、動きをぜんぜん邪魔じゃましないのを確かめていて。

それから、さらにまたかばんから取り出した服、黒い全身を包むようなウェアを目の前でちょっと回して見てから、気が付いて、壁に表示されているマニュアルをタッチして、次のページを見ながら着込んでみる。

これもまた少し特殊な繊維せんいのようだし、部分的にタイトな感じでめ付けというかめられるのを感じる。

首の後ろまでとどえりかみが少し引っかかった、ポニーテールの尻尾しっぽを手で持ち上げながら、また壁に表示されているマニュアルを横目に見ながらまだ続く説明を追いかけていく。


このウェアは金属きんぞくが使われているらしい、その一部いちぶが表面に見られるデザインらしく。

つまり『ギアウェア』と言っていいのか、なにかの装置ギミック一体いったいになっているものが多いやつ、だと思う。

その黒いスーツを首元まで上げて、ファスナーを閉めて。


これで終わりかと思ったけど、まだ少し残っている。

それを取ってそなえ付けの椅子に腰かけ、専用せんようのブーツにき替えて、しっかりと固定こていする。

それから、首の辺りまでをカバーする防護用ぼうごようパーツっぽいものに、その少ない機械の部位のパーツの装着そうちゃくなど、また壁のマニュアルに目をやりながら固定こていしていった。


仕上しあげに自分の姿すがたを見下ろして、間違ってないか軽く確認しつつ。

そして、まだ鞄には服があって。

その黒いギアウェアの上からさらに、少し特殊な形状のツナギを羽織るように着込んでいく。

その首元のファスナーは閉めた、けど、やっぱり楽なところまで下ろして開けておいた。

手足はすそめればいいようで、マジックテープで簡単だ。

このローブの様だったツナギは身体をおおうようにだけど、ゆとりはあるし着心地も悪くない。


それから、最後の確認をして。

着替えを終えたそのままで、個室用のドアを開いた。


 ドアの外は大部屋おおべやのロッカールームであり、ミリアが出てきた個室のドアが並んでいる。

そのそばに立っていた女性がこちらに気が付いて。

「できました?ロックしておきますね」

気さくに話しかけてくれる彼女は、スタッフの1人だ。

ここまで案内してくれたのも彼女、『アライ』さんで、各チームに1人はついたようだ。

彼女が手に持っている端末たんまつ操作そうさして、登録とうろくなりセキュリティかドアロックをかけるそばで、ミリアは向こうの様子へを目をやってみた。


この広めのロッカールームでは、すでに着替え終わって動いている人たちや、スタッフの人たちもいるので閑散かんさんとはしていない。

彼らは別の個室ドアのそばや、部屋の真ん中にあるベンチに座って準備じゅんびしていたり、何かのやり取りをしているようだった。

「あのー、やっぱやり方がよくわからないんすけど、」

「はいよ、ちょっと待ってて、」

近くのスタッフにそんな声をかける人たちもいて、部品ギア装着そうちゃく結構けっこう手こずっているようだ。


カチャン、とすぐ隣のドアが開くのに気が付いた、ミリアは。

振り返れば、ガイが荷物をかついで出てきたところだった。

「お、早いな」

ガイもすっかり、みんなと同じような恰好かっこうになっている。

ツナギと、その隙間すきまから黒いスーツの色がちょっと見えてる。

「かっこいいな」

って、ガイはこっちへ、ニッと笑って言うけれど。

返事の代わりに、ちょっと口をむいっと閉じたミリアだ。

ガイは、この格好かっこうを気に入ったようだ。

まあ、ガイは体格がいいから、こういうものはけっこう似合っていると思う。

そんなことを考えつつ辺りを見るミリアは、と、傍のベンチにってくるガイが、どっかと座ったのも横目に見ておいた。


このウェアは、タイトなデザインなので多少の体の線は出るけれど。

その上にゆとりを持ったジャケットというか、ツナギを着ている感じになっている。

素材の表面が少し特殊なのはこういう、なんとなく、機械きかい接続せつぞくするような機能を持っているからだと思う。

そういう『ギアウェア』と言うようなものは普通に売ってたりするけど、大体そういうものは高かったりするし、スポーツウェアなどのカタログにもよくってる感じだ。

ガイは、ブーツの固定を今しているみたいで、だからミリアは目をはなして、また周りの様子へ向けた。


ここにいる、こちらのチーム側の人たちで、ただ模擬戦もぎせんをやる、っていうだけじゃないのか。

それだけだったら、わざわざこんな、大がかりなわけ無いんだろうけど。

相手のチームの人たちには、また別の部屋があるらしいし。

分けられても同じようなことを、一緒にスタッフの人たちが付き添ってるなら、本当に大がかりだ。


今も、何かをやろうとしてる、人たちがたくさん動いている。

模擬戦もぎせんに出るメンバー数人と、機器ギア関係のサポートにスタッフの人たちが案内する様子は、あわただしいようで、マイペースのような。

「着替え終わったら向こうの部屋へ行ってくださーい」


みんなの前で手を挙げた彼らはここに集まっていて。

まあ、初めてのことに戸惑とまどいながらも、ちょっと楽しんでいる人もいるようだ。


「――――かえりてぇ・・」

「かんっぜんにやられた・・」


って、そこの横のベンチから聞こえてくる、放心ほうしんしてるガーニィのグループなんかは不貞腐ふてくされたようにぐったりしているし、テンションが低いけど愚痴ぐちってもいるようだ。


よくわからないけど、あのとき、私たちが手を上げたすぐ後、め切られる直前に、アイフェリアさんから強制指名きょうせいしめいされたみたいだった、たしか。


―――――『ああ、君たちには指名が入っているので参加にしてある。』

『・・・えっ?』

『ガーニィ、だったか、あと・・・』

『え、なんでっすか?』

『頼まれたんだ。心当たりはあるだろう?』

『・・・や、やられたー!』

『お、俺、腹がすげぇ痛いんっす・・・!』

『お腹が?』

『はいっ、おぉいててっ・・』

『ふふ、そうか』―――――――


ていうような会話があって。

そこからまた、ゴネたりもちょっとしてたけど、結局、彼らはここにいる。


「・・・やり過ごせたと思ったのに・・・」

「・・計算されていたんか・・」

「やられた・・・っ」

なにかのペナルティなんだろうか?

悪いことでもしてきたとか。

まあ、そういう強制参加きょうせいさんかのようなことは、たまにはあるものだろう。

と、ミリアも心当たりもたまによくあるので、すんなりと納得なっとくできつつ。


とりあえず、彼らを入れて、最終的さいしゅうてきにこちらのチームはたしか合計26名に――――――――


「にしてもおどろいたな。最初っからやる気だったか?」

って、傍のガイが、ベンチでのんびり聞いてきてた。

ミリアは振り返ったから、ちょっとガイと目が合ってた。


ふむ。

さっき、私が参加の手を上げた話だろう。

それは相談そうだんもしていなかったから、ガイの言いたいこともなんとなくわかる。

けれどガイは、そんな大したことのない、言うほどの事でもないなんて、そんな感じに、いつもみたいに笑って見せるガイみたいだし。


そんな風に少し、見合っていたら。

がちゃり、とドアが開いた音に、ぴくっとミリアは振り返った。

「なぁ、あんだこれ?めんどくせぇなぁ・・、」

同時どうじに、文句を言うケイジが出てきたところだった。

まあ、ケイジは当たり前に不満ふまんそうだけど、手に物を多めにぶら下げている。

というか、『身にけるべきもの』を手に持っているようだ。

「それつけてないの?」

思わずミリアが聞いたけど。

「よくわからんから持ってきた」

あきらかに、めんどさくなったから、のようなケイジだ。

いくつかの部品パーツは、まあ、マニュアルを見るのがめんどくさいっていうのもわかるけれど。

「むぅ・・、まったく」

ミリアは嘆息たんそくめいて、ケイジの方へ足を向けかけると。

「私がやりますよ」

って、傍で待っていたスタッフの彼女がケイジの方へ行って、世話をしてくれるようだ。

「みなさんの用意ができたら案内しますね。」

ケイジの後ろに立って、てきぱきとととのえてくれる彼女は、たぶん『EAU』か『リプクマ』のスタッフだと思う。

この場にいる人たちも・・、顔を知っている人もいる、けど、知らない人の方が多いかもしれない。


えっと、とりあえずミリアは。

ガイの隣にぽすんと、ベンチの上に座ってた。

「おー、」

ケイジが彼女の手際てぎわに感心しているようだ。

「はい、OKです」

「うっす、」

「今回のみなさんのサポートは、わたし、『アライ』がしますので、」

彼女はちょっとほがらかな感じがするかもしれない。

見ててちょっと思ったミリアは、一応、彼女に聞いてみる。

「『これ』、つける必要がある・・んですよね?」

自分の首の部品パーツを、ちょっと指差して。

「ええ。あとでまとめて説明しますね」

と。

「みなさんも初めてですよね?おどろきますよ、」

そう、彼女は少し悪戯いたずらっぽく笑っていて。

ミリアもちょっと、またたいたけど。

ケイジもまたたいてた。


そんな話をしているうちに傍のドアが開いて、着替え終わったリースが出てきた。

まだちょっと、ぼうっとした顔をしていた。


―――――『さて、準備をしている全員へ伝える』


急に、どこからか。

スピーカーの大きな声か、ロッカールームに行き渡る女性の声がひびいてきた。


―――――『あと30分以内には始めたいので、参加者は準備を急いでください』


その女性の声はこの部屋じゃないどこで、別のマイクを通して届いているようだった。

「なんか、さっきもあと何分とか言ってなかったか・・?ん、リース、かばんどうした?」

って、ケイジに言われたリースが気が付いて、『あぁ・・』という、ちょっとだけでもはっとしたのか、そんなめずらしい表情が見えて、そのままきびすを返して個室へ取りに戻ってた。


―――――『その間にあらためて今回の模擬戦もぎせんの説明をしよう。聞き流してもらってもかまいません。各自、必要なことをやっていてください』

たぶん、アイフェリアさんの声じゃないとは思う。

「向こうでしゃべってんのか?」

「同じのが聞こえているみたいだな。』

ケイジとガイが、その声をちょっと見上げて話してた。


―――――『今回の訓練の目的は純粋《じゅんすい》なトレーニング、技術の向上などもあるが、交流こうりゅうの機会を得るためでもある。』


「では行きましょうか、待たせるとアレですし」

って、アライさんにうながされて。

気が付けば、リースがその個室からかばんを持って出てきたところのようだ、また大きめのあくびをしてる。

「リース、お前まだあくびしてんのかよ」

って、ケイジがリースにデリカシー無く言ってたけど。

リースも反応をそんなにせずに、まあ、飄々ひょうひょうとしているのはいつものことだ。


そんな様子を見ながら立ち上がるミリアも、みんなが行く方へ足先を向けた。


ガイも立ち上がってこちらを見た。

後ろ頭に両手のケイジは適当な足取りで先へ行ってる。

その前を行くアライさんは、こちらを一度また振り返った。


周りも動き出す、さすがにのんびりとはしていられないようだ。

かす声を掛け合って、この部屋からまた違う場所へつながるドアへ、彼らの向かう様子はさまざまだ。



――――――『交流でも温めていても構わない。

初めて会った人もいるだろう。

初めて来た人間もいるだろう。


このあとも参加者が増える予定だ、と隊長方がおっしゃっていた。

でも、どれだけ手を上げるのか。

私にははわからないな、ふふ。

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