Sec 2 - 第14話

 ロアジュとフィジーが振り返ったそのとき、2人だけじゃなく、周りの誰かも顔を同じ方へ向けていた――――――

気が付く複数ふくすうの人たちが目にめるのは、そこで相対あいたいめている男女の様子だった。


 ――――――オレは話してただけなんですけどー?」

「はい、はい。ウソ。ずっと私がクロと一緒にいたのは見えてなかったのー?」

軽い調子の青年が、かる態度たいどでからかうように挑発ちょうはつしているようで。

それにたいして邪険じゃけんにあしらおうとするそのの、言い合う声が大きくなってきている。

少し険悪けんあくな、そしてお互いが強くなって周りの目をまた少し集めるのだが。

「あのさー、邪魔じゃますんなよ、俺は『こいつ』にしか用が無いっての、」

「私がいたらダメなの?なんで?」

その彼女の返答へんとうに彼はまたちょっとイラっとしたらしい。

まゆをピクっと動かした彼を、邪魔じゃまするように立っている彼女も表情ひょうじょうから明らかにイラついていて、その胸の前で両腕りょううでを組み直す。

そんなめる2人のそばで、間近まぢかでその様子を見ていたもう1人、クロがいる。


彼女は、クロは口を開かずに・・冷静れいせいな目づかいで2人の様子や顔の変化を交互こうご観察かんさつし、注視ちゅうししていたぐらいだが・・・。

青年が軽い苛立いらだちをかくすようにしていた、その状況じょうきょうも少し変わってきているのを見かねて、クロは友達へとうとう口を開いた。

「アーチャ、話だけなら・・」

「クロ、こいついい加減かげんにしないと、」

「『コイツ』もそう言ってんじゃんか。こっちは何にもしてねぇのになー?つっかかってくんなよなー、『1研いっけん』はこえぇーなぁー・・!」

「ぬぐぅ・・・っ」

2人ともに、少なくともんだアーチャが冷静れいせいじゃないし、相手の青年は笑みを見せて挑発ちょうはつしている。

そんな剣呑けんのんな2人をクロはまた交互こうごに、静かに目をくばるが、冷静れいせいに見えてもクロにもやれることにまよいが少し見えていた。


彼とアーチャ、そしてクロも同じくらいの年のころだ。

クロの背丈せたけは彼ら2人と同じくらいか、もうちょっとだけ高く見える。

短くしてある髪ショートヘアに、容姿ようしなどからもどことなく中性的ちゅうせいてき雰囲気ふんいきもある。

3人とも普段ふだんから運動うんどうトレーニングをんでいて、それなりなその体格に似合にあう『EAU』支給しきゅう運動着トレーニングウェアを着ている。

そのトレーニングウェアは白を基調きちょうとしたスポーティーなデザインに、明るい青色や黄色などがポイントに入っていて、全体的ぜんたいてきには3人共に統一感とういつかんを感じさせるものだ。

ただそれが、周りの人たちとはことなるデザインのトレーニングウェアだったり、他にも私服にラフな格好の人たちもいる中で、クロたちの統一感とういつかんのあるその服装ふくそうは、周りから少しいているのかもしれない。


「なんでそんなムキになってんの?」

「・・あんたこそね。」

それでも、2人がみ合わない言葉をぶつけてり合うのは、彼が明らかに嫌味いやみひびきをふくませているから、そして友達のアーチャはクロを気にかけてくれるからだ。


「おい、なにやってんだ、ミモ、」

べつ青年せいねんの声がかけられた。

気が付けば向こうに立つ・・・3人、こっちを見つけたらしい。

アーチャは彼らを見て、さらに口を閉じてむいっと嫌そうな顔をしたが、クロもちょっと顔を引きめたのも無意識むいしきだ。

「は?・・あぁ、なんでもないよ、」

顔も知っているその3人の青年は、この軽薄けいはくそうにからんでくるウザい彼、ミモの仲間なかまだ。


「君らも来てたのか・・、」

その仲間なかまの1人、オルビ、ふちの細い眼鏡めがねなのか、いつもアイウェアをかけている彼は。

感情かんじょうも特に見せないすずしい目線を、こちらにおくるなり、ジロジロと観察かんさつしてくる。

クロはあまり話したことは無いが、見るからにかたそうな性格をしていそうな態度たいどだ。

「・・他の奴らは来てないのか。ああ、そうか、戦闘せんとう向きじゃないもんな?」

オルビがこちらに向かって話す言葉も、どことなく引っかかる言いように、またちょっとアーチャのまゆが少し動いていたが。

「だろ?だろ?」

・・少しうれしそうにミモがニヤニヤっと笑っていたが、本当に何を考えてるのか、それを見てアーチャはまたまゆが動くのだった。

「どうでもいい・・」

しぼりだしたような声だ、かろうじて聞こえた、もう1人、ルガリはこちらを一瞥いちべつしただけだ。

彼らの中では一番小さい方だが、猫背ねこぜだからかもしれない、ルガリはこっちにあまり興味きょうみがなさそうだ。

いつもそんな感じで、あと、目の下にクマがある。

理由はゲームの寝不足ねぶそくらしい、うわさだけど。

「・・・・」

そして、もう1人、彼らの中でも少し異質いしつ雰囲気ふんいきを、クロは彼を見るたびに感じる。

切れ長の黒い目、黒髪くろかみのディー。

彼、ディーの横顔からはするどい目が動き、じろりとこっちをとらえる。

今も、そのすくめるような黒いディーの視線しせんが、じっとクロを見つめて来ていた―――――――


「おいおい、めてんのか?」

・・って、急に横から声を掛けられた。

全員が顔を向けたが、知らない男だ・・・ミモやクロたちに歩いて近づいてきていたようで、3人よりも大きく体格が良い、それに見た目からしてけっこう年上のようで。

「・・あ?誰だ?」

ミモがみじかく、クロたちに聞いたのかもしれないが。

「俺?名前なんか聞いてどうすんだ?」

彼がそう答えた。

「はぁ?そんなん聞いてねぇっての、」

ミモの口が悪いが。

そしてクロは気が付いた、自分たちが周囲から数人の目を引いていたことにも。


「うわ、ひどい言いようだな。」

少し大げさにも見える反応リアクションが、茶化ちゃかすようなそいつの動きが、なんだかミモをイラっとさせたようだ。

「ほぉぅ・・、からんでたのか、・・女と男・・・」

彼は少しこっちをじっと見て、しばし考慮こうりょしたようだ。

「・・痴話ちわゲンカか?って感じか?だろ?当たりか?」

って、そいつがおどけたようにヘラヘラすれば、周りの人たちも低い声で笑ったようだった。

「他でやれよ、へっへ、」

「いや、もっとやれ、」

「うらやましいな、おい」

「お前ら『C』か?見ない顔だもんな?」

って・・、急にそう言われて。

ミモもその男へ、それにアーチャも、クロも、微かにまゆを一瞬だけ動かした―――――――

「ほぉ、『C』か・・・」

「マジかよ、初めて見るかもなぁ、」

周りから聞こえてくる声、さっきまでとは少し違う反応はんのうえた気がする、ジロジロとかこ好奇心こうきしんか他の意味の視線に変わった気がする。


「っち・・っ」

小さく舌打したうちをしたミモが、横顔の表情が変わったのにもクロも気が付いたが。

「俺らも新人ルーキーには負けられないからよ、」

それは低い声・・、だったのか、クロが振り返ると、声を掛けてきたその男が見せていた、重く強そうにニヤリと笑った・・・本音ほんね、なのか・・・。

「・・・」

―――――クロは、わずかに口を閉じて、彼らをまた少し正面から見据みすえた。

「お?ちょぉっと、待てよ、」

って、彼が急に大きな口を開けたのは、話していたミモが、ふいっと歩き出していたからだ、ここからはなれて行くつもりみたいだ。

「なんだあいつ?」

「さあ?知るか」

ミモたちは言葉をわして・・・。


「・・・ちょ・・ちょっと何してるのっ・・?」

ってまた、誰かが来た、あわてて現れた私服しふくの女性は。

「あ、うわ、カキルトさん・・」

アーチャがちょっと、ばつの悪い顔をしたけれど、それはめ事を起こしたから、彼女に何か言われると思ったからだ。

「あ、貴方あなたたちは・・?」

でも、事情があまり分かっていないカキルトさんは、強面こわもての彼らにビクビク、オロオロしてたけれど。

「おっと、俺は話しかけてみただけだ。交流こうりゅうだよ、交流こうりゅう。・・あんたはリプクマの人研究者か?」

カキルトさんの、オフィスシャツとスウェットパンツ姿の格好を、あとくびからげていたIDカードホルダー身分証明にも、彼は目をめてくれたようだ。

「あ、はい。えぇと、関係者かんけいしゃで・・、この子たちの、今日は、責任者せきにんしゃ・・などでして・・」

しどろもどろな彼女も、それなりになにかをさっしたようだ。

「変に注目させちまったなぁ?」

彼がそう、頭をきながら、少し口端こうたんを上げて見せてた。

それは強面こわもてな笑顔だった、けどどこか少し愛嬌あいきょうが、ちょっと見えた気がした、クロは。


「大丈夫ですか?」

と、数人、おくれて来た2人ほどの、体格の良い職員しょくいんなのか、カキルトさんの後ろを追ってきたようだ。

「あ、だ、大丈夫です。」

「何がありました?」

「大したことは無いみたいで・・・」

「俺たちはめてないぜ?―――――


―――――おい、ミモ」

静かな低い声がかかる、・・そこでずっと見ていた彼らの、ディーの声だ。

「行くぞ、」

「んぁ、おう」

「一体、何をやったんだ?」

「なんもしてない、ってのに」

気が付いたクロたちが、とぼけるような態度たいどの彼、ミモが・・目があって、ニヤっと笑うのを見た。

こっちへわざわざ近づいてきたミモの。

「もうからんでくんなよなぁー?」

「だれが・・、」

のぞき込むようなミモの、こっそりと言ってくる台詞ぜりふに、アーチャがまたイラっとしていたが。

ミモが、仲間たちを軽い足取りで追っていく。

「わーりぃ、わりぃ、なに?俺がいなくてさがしてたの?」

「うっぜぇ・・・」

明るい声で、さっきとはまるで態度たいどが違うミモを、クロたちは少し怪訝けげんそうに見ていたが。


仲間のその3人はこちらを見ていたまま、きびすを返し、肩越かたごしに一瞥いちべつするディーの横顔の目つきはするどくクロにれた―――――――


「はっ、生意気な奴らだな」

「・・・」

その声に気が付いたクロは、にやっと笑った年上の彼に振り返った・・。

・・・知らないこの人はたぶん、自分たちの間に入ってくれたらしい。

ただ・・、彼がこちらに気が付いて、こっちを一瞥いちべつして目が合った。

クロもアーチャも、ちょっとまたたくように口元をきゅっとむすんでた・・のは、自然しぜんとだ。

それでも、何かを言おうとする前に彼は・・きびすを返して、何も言わずに仲間の彼らともはなれて行った。

「・・・」


 ・・それを見ていたカキルトさんが、少しいてけぼりな、ようやく一息いたのだった。

「はあぁ・・なんだったの。・・大丈夫だった?でも、いい人たちなんだろうけど、やっぱり・・・はぁ、・・何かあったらウェチェスさんたちにすごい言われるわ・・・ふう。合同ごうどうでやるっていつも勝手がちがってて・・・で、何かあったの?」

まだ少しパニックの様だけど。

「こっちは何も、です。あいつら、ミモが勝手かってにきて、」

「あーまったく・・。あとで報告ほうこくするから。あー、はいはい、大丈夫。なんでもなかったみたい。」

って、カキルトさんは耳に着けた機械デバイス通信つうしんもしているようだ。

そんな彼女を横に、アーチャとクロは目線めせん自然しぜんと合って。


・・・・ちょっと何とも言えない顔で固まっているまま、おたがいがまたたいたので。

・・・ぷっ、とかすかに、どちらからか笑っていた。


「『交流こうりゅう』って言ってた。ええ、・・・向こうの室長しつちょうたちには相応そうおうペナルティを受けるよう、できれば・・お願いします・・・うふ、ふふ、」

って、カキルトさんがなにかを思い出したのか、怒ってるみたいだけど、笑っているのかもしれない。

「・・・、」

アーチャやクロがだまっているまま、またたいたら、その目にカキルトさんも気が付いたようだ。

「あっ、と。失礼、おほほほ、」

つくろっているみたいだ。

「じゃあ、私は行くからね。ちゃんと見守みまもってるから。なにかあったらまたすぐ来るからね。」

彼女はそう言ってくれた。


「この貴重きちょうな時間を楽しんで、」

って、そうも言ってくれた。


「はい。」

「ありがと、です。」

「・・んー、やっぱり、そろそろ準備が終わるから、もう少しでここで待ちましょうかね」

やっぱり、いっしょに待っててくれるようだ。

「俺らは戻りますが、大丈夫ですか?1人でも残して・・・」

「あ、大丈夫です~」


護衛ごえいらしい人と彼らが話している間も、静かにしてはいるけれど、・・・クロが・・隣のアーチャの顔を少し横目にぬすみ見れば、まだ眉を少し寄せてぶすっとしている顔が、複雑ふくざつなものが、ちょっとのこっているようだった。

「・・アーチャ?」

クロが、静かに名前を呼んだのに気が付き、アーチャはり返った。

その目と目が合うアーチャは別に、いつもの彼女だ。

「・・まあ、・・あいつら『機動系きどうけい』だからって、調子に乗り過ぎてんだよ。・・ミニーたちが来なくて正解せいかいだったわ、」

って、清々せいせいしようとしてるアーチャが、まだまっていたような不満ふまんらしていても。

雰囲気ふんいきわる・・っ・・」

少し、舌打したうちみたいな言い方だったけども。

ちょっとほおふくらませる様な彼女は、ちょっとわざとらしかった。

だから、クロも口元を少しゆるめていた――――――――


―――――でも、・・楽しみたい」

って、クロが、前方のステージを見ていたのにアーチャも気が付いて。

「はぁ・・っ、だよね、」

ため息のように、ちからいて、そして、ぐぐっとむねばし始める。

かたまってた肩回かたまわりもぐぐっとらし始めた――――――――



 ―――――そんなちょっとした小さなさわぎを。

遠目から見ていた中に、その青年たちの姿がある。

彼らは少し退屈たいくつになってきた時間に、少しだけあれをながめていただけだ―――――――


「―――――あいつら元気有りあまってんのかな、」

「知り合いだって?マシュテッド、」

「いや、あいつらとは話したことはないよ。トレーニングで見かけるぐらいかな」


―――――飄々ひょうひょうと話す彼らも、顔を知らない『EAU』のメンバーたちには興味きょうみがあるようだった。


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