Sec 2 - 第13話

 ミリアが歩く白色の広いゆかですれちがう人達、『EAU』の面々めんめんが立ち歩いて集まろうとする中で端々はしばしの会話は耳に入る。


「――――にしても随分ずいぶん時間がかかるな?」

「軍部の施設しせつって・・」

手間取てまどってるのか・・?」

「軍部だからか・・・」

ミリアが行きついて、足を止める時にも聞こえたが。

ミリアが立ち止まって見据みすえた前方には、1段、2段ほど高くなった小さなステージのようになった場所があり、軽いスピーチでもできそうなつくりだった。

そのステージ上では関係者の数人が会話していて、また集合の呼びかけが他の人から聞こえたりしていた。

人が集まるこの辺りで待てば良さそうだ、とミリアは少し見回しながら。

そして、手に持っていたタマゴサンドイッチを思い出したように、口へ運んで、はむっとした。


やわらかく美味しいそれを咀嚼そしゃくしつつのミリアが、目にちょっとめるのは、よく見ればステージ上の彼らが小型こがたのヘッドセットマイクを使っているようなのと、その背後はいごに大きなモニタが白い背景はいけいを映していることで、それらは白い部屋にけ込むデザインになっているようだ。

たしか、この白い大部屋に入った時には何も映っていなかったはずだけど、いつの間にかモニタのパワーがONオンになっていたようだ。

その白い画面の中で、青白い幾何学きかがく的な光のラインがなめらかに動いている。

スマートに変化する幾何学きかがく的な模様もようが作られて、画面の真ん中を中心に光のラインが動く。

そんなのを、じっと見てたら目が回りそうなタイプのようだ。

不思議ふしぎな形にまた複雑ふくざつにラインがかさなり合い変化し続けていた。

それらの光が接触せっしょくするたびに、まとわりつくような、わずかなあわい光の粒子りゅうしが現れて―――――――


・・ミリアがなんとなく目をめていた、洗練せんれんされた綺麗きれいなループ映像から、またたけば、ふと、その端に『STRA-DAC』という文字があるのにも気が付いた。

目立ちはしないが、表記ひょうきしてあるということは、たぶん、企業名きぎょうめい商標しょうひょうとか、ブランドロゴのたぐいだろうか・・?

「―――――・・ぇ、あいつ?・・女だったのか?」

って、後ろからの声、ちょっとおどろいたような、怪訝けげんそうな声はケイジのようで。


すぐそばに立ち止まったガイたちが、追いついてきて一緒に続けてたおしゃべりの話題は、たぶん、あの『ロヌマ』のことだ。

ミリアは手に持ってた、食べかけのサンドイッチの最後を口に運んで、はむっとした。

「あれは女の子だろう。」

って、ガイが『当然とうぜんだろ?』とでも言いたげに、確信かくしんを持っているみたいだ。

「・・なのか?」

「たぶんな?」

って、ケイジに聞かれた、付いてきてたガーニィもそう答えてる。

ケイジの後ろに付いて来ていたリースも会話を聞いて・・・ないのか、寝ぼけまなこに、前のケイジにぶつかりそうになって、ちょっとびくっと、少ない動きでおどろいて立ち止まってた。

のを見てたミリアは、普段からリースの表情がとぼしいので、そんな様子が見れたのはちょっと新鮮しんせんかもしれない。

「それ失礼しつれいな話だろ?」

って言うガイに目線めせんで聞かれたミリアは、気がついて。

「まぁ・・。」

とだけ、ミリアもうなずいておいた。

ガイは、肩を軽くすくめてたけど。


ロヌマの・・・。

確かに、彼女、ロヌマからしたら失礼な会話をしてると思う。

ロヌマはかみも短いし、とても、なんというか・・『元気』だけれど。

男の子か、とも『一瞬思ったこともある』ミリアには、そんなロヌマを思い出すと、ちょっと目が自然とななめ上へいったり、つむり気味になったりもする。

「へぇ・・、」

って、ケイジが。

「んなのどうでもいいわ、」

興味きょうみなさげだ。

「デリカシーない奴はきらわれるぞ」

って、ガイがからかうように言うので。

みつきそうな奴だったろ、」

って、ケイジは。

「元気だったな、はっは」

面白かったのか、ガイが笑ってる。

ふむ。


なんとなく、ミリアもケイジの態度は良くないとは思うけど、なんだか強く言えない。

仲良なかよくしなよ、」

ので、とだけ、言っておいた。

「『あっちが』だろ、」

そう言われたら、やっぱり、ミリアはちょっと口をむいっと閉じてた。

まあ、なにかが気にわない同士の、馬が合わないタイプってヤツなのだろうか。

というか、ケイジは『ロヌマが女の子』だと気づいてなかった、ってことで。

それならやっぱり、なんとなく『納得なっとく』だ。

ロヌマと初対面しょたいめんなのにケンカごしで、ワーワーやり合っていたのも、ケイジは生意気なまいきな男の子相手にり合ってただけなのかも。


・・・うーむ。

いや、相手が誰だろうとケンカはダメだろう。


「そういや、ロヌマってさ。」

って、ガーニィが。

「ん?」

「『A』の知り合いが、言ってたんだよ。」

ガーニィの声が、ちょっと低く、わざとらしく雰囲気ふんいきを出して。

「『ロヌマとバークっていうヤツには、かかわるな・・・』ってよ。」

「ホラーが始まるのか?」

ガイもなにかを期待きたいして、ニヤっとしてるけど。

「先に言えよ、」

ケイジが、不満ふまんを正直に言ってた。

「ああいう意味だったんだな・・?」

ガーニィが1人で納得なっとくしてるような、胸の前で腕を組んで首をひねってるみたいだけど。

言いたいことはちょっとわかる気がしたミリアでもある。

ロヌマとかかわったことで、実際じっさいにどっとつかれた、のは事実じじつなのだから・・・。

「そのバークって人も気になるな?」

って、ガイがちょっと興味きょうみを持ったらしい、たぶん。

「そうか?」

ケイジも、そこは別に乗り気じゃないようだ。

「変なヤツは遠くから見てるぐらいがちょうどいいと思うぞ」

ガーニィは、その一言ひとことむらしい。

ガイもなんだか、うなずくような、納得してた。


『――――準備が整い次第で始める。もう少し待っていてくれ、』

室内のスピーカーからも声が出て、ミリアもちょっとぴくっとした。

「早くしろよー」

「何を手間取ってんだ、」

大きめの声で文句もんくを言う人達もいるみたいだ。


「ひっへ、まあ、俺から言わせたら、『A』にいるのは変な奴らばっかりだけどな、」

って、ガーニィがくるりときびすを返して。

「おい、」

ケイジがなにか言い返したそうだけど。

「いい意味だよ、だろ?」

って、ガーニィの冗談じょうだんらしい、ミリアにはよくわからなかったけど。

「じゃあな、」

ガーニィがさっさと向こうへ歩いてく。

「おう?」

そういえば、ガーニィの仲間もこの辺にいると思う。

「おう、」

「リースに今日は挨拶あいさつしたっけ?」

って、ガーニィがちょっと気にしたのは、あっちに顔を向けているリースのことみたいで。

「おいリース、」

「寝起きに声かけると不機嫌ふきげんだぞ、」

ってケイジが言ってる。

いつもケイジはそんなの気にせずに、リースによくちょっかいをかけてるのを見るミリアだけど。

「もう訓練始まるってのに余裕よゆうだな?」

リースの横顔はいつものように無表情むひょうじょうだし。

「いつもあんな感じだぞ、」

「だからお前らって目をつけられるんじゃねぇの?」

って、ガーニィが。

「あん?なんで?」

太々ふてぶてしいんだってさ」

「・・・」

って、言われたけど、そう言われても、特に、ミリアも、誰も、何も言わなかったわけで。

たぶん、みんなすぐには反応できなかったからだと思う。


眠気ねむけに目をしぱしぱさせていたようなそばのリースが、みんなのその変な間に気が付いたのか、はっとして、ちょっときょろきょろしてた。

「はは、んじゃな。頑張れよ、」

って、なにか可笑おかしかったらしいガーニィがはなれていく。


逆に、こんな大人しいリースが目立つんだろうか?って、ミリアはちょっと不思議ふしぎに思って見てしまったわけで。

「・・あいつも結構そうだよな?」

って、ガイは。

「あいつの方が太々ふてぶてしいだろ。」

ケイジもそう言うから、ガイがちょっと笑ってたけど。


「おい、目ぇめてんのか?リース、」

「だいじょうぶ・・」

「・・怪我けがしても知らねぇからな?」

まあ、目はすぐ覚めるだろうし、ストレッチでも始めればリースなら大丈夫だろう。

いつもの調子にすぐ戻るはずだ。


「――――――なんで準備だけでこんな時間がかかってんだ?」

便所べんじょに行くヤツが多すぎるんじゃねぇの?」

「人が多すぎるんだろうな・・・」


不満そうな周りの声も聞こえた。

相変あいかわらずステージの上では手を上げて、マイクのテストやら誰かを呼んだりしている。


・・ミリアはそれから、手に持ってる2個入り半分の残り、そのタマゴサンドイッチをもう1つ、はむっと、口にしてた。


確かに人は多くて、まとまりも無いような気がする。

私たちも、ここにいてもいなくても、ロヌマたちのことでずっと話していたし、ってミリアはちょっと思ったけど。

「さって、・・ここからはリセットだ。な?」

って、ガイが言ってきたから。

ミリアはもぐもぐしながら、肩をすくめてみせるくらいの。


休憩きゅうけいが、つかれた。」

ミリアがそう言って辺りに目をやるから、ガイはちょっと笑ったようだ。


ガイがうなずいて、周囲に集まり動く彼らの様子へ、ミリアと同じように顔を上げた。

思い思いに過ごす彼らが待つ時間の中を、ガイも、ケイジもリースも、そしてミリアも待ち続ける――――――



 ―――――――よぉー、ラッドぉー、ニールぅー、調子どうよー、どうよどうよ?」


そう、軽い調子で声を掛けてきたのはガーニィだ、暢気のんきに手を振って横切る彼は、こっちを通りかかったついでのようだ。

振り返った2人は、『EAU』のトレーニングウェアを、各自のオレンジ色と黄色をベースにしたそれらをまとっているラッドとニールで、同時にまゆも上げた。

「よおー。ガーニィ、お前も来てんのな、ビックリした、」

「オレは朝はオラーってたのに、今はめちゃくちゃ心臓がバクバクしてきてる、」

「それわかる、」

「そうか?余裕よゆうそうだな、ガーニィ?」

―――――小気味こきみよいラッドとニールは、やんちゃっぽい気が合う笑顔を、にっと合わせた。

「俺だってもう帰りたい。」

って、ガーニィが言うので、また笑う彼らだ。

緊張きんちょうして緊張きんちょうして、トイレも行ってきたけどすげぇキレイなトイレだったな?よお、ロアジュ、フィジーも来てたの意外いがいだな?」

少し離れた所に立っていた彼らに声を掛けるガーニィに、振り返る短い金髪の青年がいた。


彼は中肉中背の、一見普通なヤツに見えるロアジュだが、よく見ればさわやかなイケメンの部類だな、とガーニィは前から思っている。

『おどけたりする』ようなキャラでもないマジメで、鼻にかけるような奴でもない、すなわち『良いヤツ』だ。

そして、その隣に立っていた女のフィジーはロアジュより少し小柄こがらだが、見るからに運動神経の良さそうなスポーティーな印象の体格をしている。

運動能力うんどうのうりょくが高い、と誰でもすぐにわかる引きまった印象ということだ。

ロアジュと近い金色の髪を後ろでゴムで短くまとめているフィジーも、トレーニングの時と同じ、みんなと同じ動きやすいウェアの格好で、ガーニィを振り返って見つけた。

実際に、ガーニィがトレーニングの時間で見かけるロアジュとフィジーは、アスレチックなどの機動力きどうりょくやら、テストでトップクラスの成績せいせきしみ無く出すし、『Class - B』を知っているヤツならこのチームの人選じんせんは正直ビビるレベルでもある。


「フィジーが意外って?」

ラッドが、きょとんとしていた。

「ん?」

「だってさ、肉体労働にくたいろうどうが・・ってさ?バッキバキの肉体労働にくたいろうどうの好きな女ってめずらしいって俺は思ってるんだけど、そもそもお前ってしぶってたんじゃないっけ?」

って、ガーニィもきょとんとしてるみたいだ。

「え?そんなことないけど?」

でも、フィジーもきょとんと答えてた。

「あれ?そうなのか?」

「ガーニィは歩き回ってたのか?」

「おう。他の奴らは?」

「俺が聞いてるのはこのチームだけだよ、」

ロアジュがそう。

「来なかったのか?あいつら、づいたんかな?」

「ぁー?」

「ガーニィ、お前今、調子乗ってんな?」

「あとで密告チクっちゃるよ、」

「やめてくれぇえ。あ、でも俺は来たからな。あいつらに自慢じまんできるな。へっへ、んじゃな、お前らならやれるって、俺は見学けんがくしてるからな、」

見学けんがくなんてあんのか?」

「お前らはみんなのイイ『土産話みやげばなし』にぜひ、なってくだサイ」

「お前も頑張がんばれよ。」

「ちゃんとかっこよく伝えてやるから、応援してるから。あと俺もけっこういそがしいから、」

「んなわけないだろ、見学が、」

「やれることあるだろ。初対面の奴らに声掛けたり、『A』の奴らとフレンドリーしたり。」

「お前のコミュりょくの方がヤバいだろって」

「あ、忠告ちゅうこくだ。ロヌマに会ったら気を付けろ、案外面白いヤツだった、かもな?人によるか、」

「だれだ?」

「なにを気を付けるんだよ?」

「はっはっは、んじゃな、」

って、ガーニィの歩きがおそまっていても、言いたい事を言い終えたらさっさと手を上げて行ってしまう。

「おい、ロヌマって誰だー?」

「また面白い話聞かせろよー、」

ラッドとニールがそのガーニィの背中に声を掛けたが、その背中は振り向きもしなかったので、聞こえたのかどうか。

「あいつも変わってるよな、」

「変なヤツ、」

「生き生きしてるな」

訓練くんれんの時はすぐ逃げ回るのにな、」

ラッドとニールがお互いの顔を見合わせて、悪戯いたずらが上手くいったときのように、にっと笑ったが。

「ロヌマって誰だ?」

「それもういいだろ、」

「『A』のヤツかな?なんかヤバイヤツもいるって聞くし、」

「マジか」

「訓練でも平気で半殺しにするようなヤベェヤツらが『A』には充満じゅうまんしてるってよ」

「マジか、こえぇえ、」

じゅうたれる覚悟かくごはしとけってよ、」

「ぅえ?それどんな状況じょうきょう?」

「それ、さすがにうそだろ」

ロアジュもさすがに言ってた。

「わかんね、」

「でもさ、ガーニィって、あんなに堂々どうどうとしてるんだね?」

って、フィジーは感心かんしんしていたようだ。


堂々どうどうって言うか、」

好奇心こうきしんだな、」

「だよな。」

ラッドとニールが、わかってるようにそう言ってたけど。


ちょっとまたたくフィジーが隣を見ると、ロアジュもガーニィの背中を少し目で追っていたが、それから顔を前に向ける先にあるのは小さな低いステージで。


・・打ち合わせをしている彼らの様子とかを、さっきから待っている間もけっこうじっと見つめていたりする。

右手には、さっきフィジーが渡した飲み物のジェリポンがにぎられていて、たまに口を付けるけれど。


『EAU』のメンバーを、見つめるロアジュのあおい目には少しだけ、光できらめくかがやきがある気がする。


そんな横顔を、フィジーが横目に少しのぞくように見ていたのは・・・。

ふと、なにかに気が付いたロアジュが、横を、フィジーを少し見た。


ちょっと驚いたように、少し口元を微笑ほほえみを固めるフィジーの、でも・・ちょっと可笑しかったのか、そんなやわらかい表情になるフィジーは、肩を軽くすくめて見せてた。


「―――――・・にぃしてもさぁー、なんっつうかさぁあ・・・?」

ニールが辺りを見て、集まってきた人たちの密度みつどあらためて思ったようだ。

「プロの中に放り込まれるって感じ?」

「おほぉ、おりの中にいる猛獣もうじゅうって?」

「実際そんな感じ?オレら、場違いだよな?」

「俺ら、まだ『B』なのにな、」

ラッドとニールの、小気味よくなってくる掛け合いを。

「そうでも無いだろ?」

って、ロアジュが振り返らずに。

「俺たちみたいなのも少しざってるよ、」

「そうかぁあ?」

「まあ、見かけた事あるヤツらもいるっちゃいるけどな、」

「そのレベルで、みとめられたんだ、俺らも」

ロアジュが、そう言った。

2人の会話が少し、息を吸うくらいの間ができた。


むねっていこうぜ、ラッド」

「言うわりに顔が引きつってるぜ、ニール、」

「マジか?」

「へっへ、」


そんな2人に目を細めるロアジュの。

同年代どうねんだいのさ、・・同年代もほぼいない」

「ぅん・・?」

ロアジュがつぶやいたようなのを、そばのフィジーは気が付いた。

「ほぼいない・・、」


彼が、ロアジュが、少しだけ遠くを見つめているのを、気が付いていた。


「・・フィジーは、ワクワクしてる?」

そう、ロアジュを。

「うん、」

うなずくフィジーは。


2人が一瞥いちべつし合った一瞬いっしゅんは、わした視線しせんは、またたきだったのかもしれない。

ならび立つ2人が前へ向ける顔が、それでも、きっと同じものをその先に見ている――――――――



―――――・・はっ・・ははっ・・?・・んだよ・・」


―――――・・?・・声か?・・向こうで・・・・離れた向こうで、誰か、声をあらげたようなのを、気が付いて振り返っていた――――――


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