Sec 2 - 第10話

 「ぬぁあぁあン・・っ??」

にらみ合う、あの子を。

「おぁ、なんだ?お?」

見下ろすケイジで。

正対せいたいしてる2人は、おたがゆずらないにらみ顔でもり合っていて、お互いが気に入らないようだ。


―――――ふむ。

と、今はちょっと傍観者ぼうかんしゃなミリアが、小さく鼻をらして、あらためて数歩はなれたところで2人を観察かんさつしていても。

「ぁあぁあんっ?」

「おまえ、そればっかしだなぁ?」

「おマえもナーっ!」

甲高かんだかひびく声で、何度もそう威嚇いかくし合うこの2人には、自己紹介じこしょうかいをするという段階ステップがないようだ。

そしてずっと、こっちに目もくれずににらみ合ってる、むしろ、2人とも言葉をおもに必要としないタイプなんじゃないかとも思えてもきた。


 数歩はなれたおかげで、距離きょり的にも、ミリアはちょっと冷静れいせいになれたかもしれない。

休んだのは、たぶん1分もってないけど。

観察かんさつしてても、この2人からは何もるものが無さそうだ、ともう正直しょうじきに思ってはいる。


「お、そういや持ってきたんだ。飲むか?」

って、そこのガイがジェリポンをこっちにわたそうと持ち上げて見せてきたので。

「いい、」

ミリアが首を振ったら、ガイはそのジェリポンを開けて自分で飲み始めてた。

どうやら、そこのそばのテーブル・・、のそばでリースがソファで目をつむって寝ているんじゃないか、っていう気のけようが、目にあまる気がしないでもないけど。

それより、そのリースの傍のテーブルの上に、いくつかの飲み物や食べ物があって、それらがケータリングからもらってきたガイたちの戦利品せんりひんのようだ。

さっきケイジが食べていたサンドイッチもそうだろう。


まあ、向こうのケータリングがある場所もちょっと、わーわーさわがしいみたいだし、みんな楽しんでなにかやってるみたいだけど。

顔をもどせば、この2人は変わらずで。

お互いを威嚇いかくし合うたびに、徐々じょじょ距離きょりが近づいていってるから、それが体当たりか、ひたいこすり合わせそうないきおいになりかけているようだし。


「んんんだ・・っ?」

「んんっ?ぬぁあーっ?」

たがい、威嚇いかくのような独自どくじ文化ぶんかで会話している、そんな光景こうけいは昔のドキュメンタリー番組で見た事あるかもしれない。


ミリアは、『えっと・・、これどうする?』って、後ろのガイやガーニィをり向いて、目線めせんだけで聞いてみるけど。

気が付いたガイが、ふむ、とあごに左手を当ててちょっと考え始めたみたいで。

隣のガーニィは、『ん?』って顔をしたみたいだった。


そもそも、私たちがずっと最初に求めているあの疑問ぎもん、『私たちは、どうしてこの子に声をかけられたんだろうか?』というものの答えもいまだにわかってないわけで。


すでにもう、宇宙うちゅう彼方かなたへ飛び去ったミステリーのような。


「んぁぁあぁン・・っ・・?・・」

「ァあンんん・・?・・・・?」

ああやって2人がにらみ合っているけど。


今も、見下ろすようなケイジに、その子は見上げるように対抗たいこうしていて、一歩も引かないし。

とってもけんが強く、そして、この子はとても気丈きじょうなのかもしれない。


・・・もしかして――――――

―――――この子はじつは、私たちと話がしたかったんじゃなく・・、迷子まいごとか?

そうか、だから人が多くて不安ふあん錯乱さくらんしていて、突拍子とっぴょうしもないことを私たちに・・・?

いや、そんなわけない。

そんなにおさなくないだろうし。

私と同じくらいの背丈せたけだし。

――――――ふむ。


そんな風に、2人の様子をながめていながら考えていも。

妄想もうそうめいた想像そうぞうが横から飛びついてきて、愉快ゆかいにしようと邪魔じゃましてくるので。

星が綺麗きれい宇宙そらは・・・って、そんなまぶたうらに一瞬見えた景色けしきは、どこかで見た写真のように星々ほしぼしきらめいている――――――


――――――今はあまり意味の無い想像そうぞうは、やめることにして。

それよりも、目の前のこの子が、きっと宇宙うちゅうよりもつかみどころがないことを。

どうにかしようと・・・って、ミリアがちょっと気が付くと、まわりの人たちもこっちを見ていた。


「ぁああっん・・?」

「ぁアぅっぬぁああンっ?」

って、この子たちのお腹からの大きな声やパワーが、人の目を呼ぶみたいだ。

ケイジもたいがい付き合い過ぎだけど。

周りでこっちを見てる彼らは、戸惑とまどってたりきょとんとしてるようで、当然、一緒いっしょにいる自分たちも、同じような目で見られてるだろう。


正直しょうじき、ここで目立ったりさわぎを起こすのは良くない。

だってそれは、単純たんじゅん印象いんしょうが悪いだろうし、EAUの集まりの最中に問題を起こすなんて、ガーニィが言ってたことじゃないけど、みんなに『問題児もんだいじ』と認定にんていされてしまう。

そう、それに、『今朝けさ呼び出された』ばっかりだし。

び出された』、『ばっかり』だし。


「ぉまえ、このままいったら頭突ずつきいくぞ・・っ?おい?」

「ぬぁああんっ?へっ、ぬぁんっっくぁあんっ?」

「ぁあ?なに言ってんだぁあ?」

不穏ふおんな言葉に、すごんでるケイジたちが、何やってんだか・・・。

そう、『び出された』『ばっかり』だし、・・仕方ない。

めよう。


で、どうやって2人を止めるかだけど、ずっと意地いじの張り合いみたいな事をやってるわけで・・首を回してガイを見たら、目が合って、こっちへ肩をちょっとすくめてきた。

「2人とも、ケンカすんなって、」

ガイへ言いたいことが伝わったのか、真っ当まっとうな事を言ってくれた。

2人とも、こっちを見ないでうなり合いながらにらみ合っているままなんだけど。

本当にヘッドバット頭突きしそうなくらい近くなってる。

「おんなじEAUだ、お互い仲良くしような?」

良い事を言ってくれる、さわやかなガイに続いて、ミリアもこほん、と小さく咳払せきばらいをした。

「そうだね。とりあえずはなれよう、2人とも。」

ちゃんとなるべく冷静れいせいに。

2人のあいだに入ろうとしたけど。

「ケンカじゃねぇよ、」

って、ケイジが。

「ぬ?」

「ちゃんと挨拶あいさつしたら仲良くしてやんよ?・・!・・」

「おまエがナぁあー!・・!」

ケイジとその子、おでこをこすり合わせたくなってしまってるような2人とも、こっちの声をまるで聞いてないみたいだった。


まあ、ケイジなら、本当にヘッドバット頭突きくらいしそうだなって思う。

ほうっておけば本当に少しずつ、じりじりとお互いのおでこを少しずつぶつけあいそうだけど。

手を出そうとはしていないのが、2人ともえらいというか・・意地いじなんだろうか、ケンカじゃないって言ってたし。

でも、このままだと最終的さいしゅうてきには頭突きヘッドバットで本気の決着けっちゃくがつくのかもしれない。

・・・。

ちょっと、ケイジがおでこを押さえてうずくまっているところ、想像したら、ふっ・・とちょっと笑いそうだけど。

そうなったら、まずいんだけど。


「じゃあな、俺そろそろ行くよ?」

って、ガーニィがそんな事を言うから、ガイがガーニィの肩をがっしりつかまえてた、がさないみたいだ。

「まあ待てって、」

「オレ、関係ないだろぉー?」

ガーニィは、げたいようだ。

情報通じょうほうつうだろ?」

「今は関係ないだろー・・?」

ガーニィが言うのもまあ、そうなんだけど。

「話のネタになるんじゃないか?」

「ふざけ合ってるだけでおもしろ話になるか?」

まあ、誰も聞きたがらないと思う。

ミリアは、いちおう念のため。

「言いふらさないでね、」

って、さりげなく、しずかにガーニィへ言っておいたけど。

「あー、まぁ、」

ガーニィがこっちへ、こくこくうなずいていたのは確認して。

ミリアがガイと目が合ったら、ガイは困ったような笑顔で肩をすくめたみたいだった。

もうお手上げってことだろうか・・?あきらめが早いとは思うけど・・・。


まあ、おでこをぶつけ合いそうなこの2人・・・どうしようかな・・・?力ずくで止めても面倒めんどうくさそうだし、どっちも簡単かんたんには言う事を聞かなさそうだし。

・・あ、この子がおでこをいたがる姿すがたは、さすがにめないとまずいか。

もし、この子がケンカしたとなったり、EAU隊内たいない暴力行為ぼうりょくこういがあったってなると・・・まためんどくさい・・。

もう『呼び出されない』ためには・・。

ケイジなら

私と同じチームだし、大抵はケイジが悪いし。


まあ、このケンカ自体じたいが子供っぽいので、ばっせられない気もするんだけど―――――


―――――って、ちょっと、はっとするミリアは。

なんか色々考えすぎてて、自分のペースがみだされている気がする、さっきから。


えっと・・―――――

――――――だから、ミリアは息を吸って、むねを少しふくらませて、少し深呼吸しんこきゅうした。


「ケンカは、ほどほどになー、」

って、ガイが暢気のんきそうな声で、ジェリポンに口を付けて飲んでた。

・・・。

「そいや、ジェリポンに新しい味出たの知ってるか?」

「なにあじ?」

「マカダミアナッツ&ココナッツ、」

美味うまいのか・・?・・お、あの子、かわいいな、」

「知らないなぁ、『A』かな?」

って、ガイはガーニィと関係かんけいのない話をしているし・・・。

・・やっぱり、私が自分が止めるしかないようだ――――――


「―――――ケイジ、」

ミリアが声をかけて。

「ガンばしてきたのは、お・ま・えが先だろ・・!」

「ア・タ・シ・じゃナイー・・!お・ま・え・ダァー!」

全然、こっちを見ない2人のやり合いが、さらにどうでもよくなってるけど。

他に2人は話すことがあると思うんだけど。

名前を呼んだのにこっちを見ない2人に、また、ちょっと小さくため息をくミリアだ。


――――――話を聞かないんだから仕方ない・・こういう場合の対処法たいしょほうは決まってる。

なるべくおだやかにめよう、とは思ってる、けど。

こっちを見ていないケイジに歩み寄って―――――ケイジの服の上から、鳩尾みぞおちあたり――――――左手をすっと当てるように―――――にぎこぶしかたく1個分で。

「ぉまえがつっかかってぁ・・、ん?」

おくれて気が付くケイジのわき腹に、ぐっと押し込めたこぶし・・・は、丁寧ていねいちからめ・・こうかと、少し逡巡しゅんじゅんはした―――――

「いででっ・・!?」

ぐりぃゅ・・っ――――と、『やめなさい』のこころめてじったので――――――

「・・っどぅは・・っ・・」

って、ケイジが変な声を出して、よろけるように、それから悶絶もんぜつしてた。


そんなケイジを見てて・・。

・・なんだかむなしさでも感じる。

なんでこんなことをしなきゃいけないのか。


まあ、にぎこぶしは途中で止めたし、痛がるケイジは大袈裟おおげさだとは思う。

私は、ちょっとこぶしをぐっぱぐっぱして、力の入れ具合ぐあいを確かめ直してみてる。

はりきり過ぎたわけじゃないと思うけど。

あっちへ押し出されるようによろけたケイジが、わき腹を押さえていて、こっちをうらみがましく見てきてる。

「いってぇ、ミリア・・」

大袈裟おおげさだとは思うんだけど、ケイジの気分が最下層さいかそうみたいなので良いと思う。

「おまぇ・・――――」

「―――ケ・イ・ジ、」

だから、強めに言い返すようにかぶせたら、ケイジはきゅっと口を閉じてた。

不満ふまんそうな顔が、まだこっちに向いてるけども。

ケイジもどっちがわるいかはわかってると思うし。

まあ、ほんのちょっと、急所きゅうしょに入り過ぎたのかもしれないので、手加減てかげんをもうちょっとすべきだったかもしれない、という反省はんせいは、ちょっとだけ心にとどめておくことにして。


それより。


「ぬっ?」

私と目が合った、対面たいめんにらんでたその子は、まだ不機嫌ふきげんそうなようだ。

でも、何が起こったのかよくわかってないようだから、ケイジを見たりのこの子が口を大きく開ける前に――――そのすきに、私が右腕をまっすぐにばして、ぱっと手の平をき出して見せた。

その子の顔の前へ、牽制けんせいのためのものだ。


私の指の隙間すきまから、その子の爛々らんらんとするひとみはくりっとのぞいて。

引きはがしたケイジを追う事もなく、不機嫌ふきげんそうなままだけど、こっちをきょとんとまたたいてもいた。

だから、聞いてくれる感じがして。

「・・ケイジが、ごめんね、」

もう一度、話しかけてみて・・・。

「俺じゃなくてそっちだろ、んぐぁ、」

文句を言いたそうなケイジは、ガイにつかまったみたいだ。

と、ぴく・・っ、と目の前のその子が何かに気づいたのか、じぃーっと私のその手の平を見てたり、こっちの顔を交互こうごに見てたりで、なにやらいろいろ考えているのか、落ち着きもあまり無い。


――――――・・・そんな様子を見てて、脳裏のうりによぎったシーン場面が―――――『すごい格闘家かくとうかが、今まさに猛獣もうじゅうを相手に!』――――――っていう。

なんか、アナウンス実況付きで、ドキュメンタリー映像えいぞう脳裏のうり不意ふいに、気まぐれにけていった気がする。


緊迫きんぱく・・してるわけじゃないんだけど。

でも、もっと小さくてかわいい動物どうぶつとじゃれ合う・・・いやダメだ、わすれよう。

どんなものでも、この子になんか失礼しつれい想像イメージになりそうだし。


「なにしてんだ?」

こまってるんじゃないか・・?もしくは挨拶あいさつか、」

「なんだそれ、笑える」

・・後ろで好き勝手かって言っているケイジやガイや、ガーニィの声が耳から入って来てた――――――・・・ので、私はちょっとまゆせたけど。

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