Sec 2 - 第9話

 「フォーぉーん?おまえがミリアかー・・・!」

ジロジロとその少年のような子がまだまだにらんでくるような、ミリアの目の前でなにかをあやしんでいるように見てくるから・・・。


ミリアは、ちょっと息がきかかるくらいには近くて、それがちょっとくすぐったくもあって、その子がさっきと同じことをり返しているだけなようなのが、ちょっと顔をそむけたくなる感じもしているけれど。


でも、この子が手を出してくる気配けはいは無いようだし、なんだかこっちから直接ちょくせつに手で押し返したり突っぱねるのも違う気がするので。

だから、ちょっと警戒けいかいはしつつも、変な重圧プレッシャーを感じつつも見返みかえして観察かんさつはしている。

でもそうしている内に、もう自分でも、顔が勝手にむにむに動き始めてるのもわかってた。


この子は急に最初に大声出したり、いきおいが『すごい』けど、悪意あくいを持っている、という感じが不思議とあまり感じられない、気がする。

それより、さっきからジロジロ見てくるのは興味津々きょうみしんしんなだけかもしれない・・・とさえ思えてきた、わからないけど。

まあ、変な顔をして因縁いんねんをつけてきてる様な感じもあって、結局は何を考えているのかはよくわからない。


今もこっちをあやしんでいたり不機嫌ふきげんそう、ふうな顔をしたりは、なんていうか、表情が動きぎで読みづらいのだ。

ちなみに、この子が、小さく口元をむにむにさせているのもなんとなく見つけた。


「近すぎじゃねぇか?」

ってそう、ケイジがそばで言ってた。

『そうだよね』、と心の中で私も素直すなおに思ったくらいだ。


距離きょりの近いその子が顔を上げれば、私との鼻先はなさきがだいぶ近かった。

ので、私はちょっとけるように、顔をそむけたけれど。


そもそも、急になんで話しかけてきたのかも、まだわかっていないのだ。

それに、これ以上付き合う必要も無いし、相手にしないという選択肢せんたくしもあるにはある。

けど、このまま立ち去るのもなんか、良くないと思うし、気が引けるというか、しつこそうな気もするといえばするけど、そもそも、この子はなにか用があるから近づいてきたんじゃないだろうか。

何を考えているのかが、何も言わないのでよくわからないけど。


とりあえず、待っている間もこの子の距離感きょりかんがまったく変わらないので。

「・・あの、」

「ぬ?」

ミリアが声をかけてみると、ケイジをじっと見てたこの子はまたこっちへ顔を向けた、・・また近い・・鼻先をかすめそうにになる近さだと逆に口を開きにくくなる・・・。

むしろ、その子が距離きょりを全然気にしていない、みたいなのでどう伝えるべきかを考えて、ミリアは口をちょっと開きそこなった。


たして、『距離きょりが近すぎです。』って、初対面しょたいめんの人にはっきり言って良いものか・・・いや、マナーとしても、悪い事は無いとは思うんだけど、物理的におたがいが邪魔じゃまなわけだし。

わざとやってきているわけじゃない、と思うし、でもなぜか言うタイミングが取りづらい・・。


それで、そう・・あらためて、なんとか頭を動かして、よくよくその子を見てると。

さっきから顔を近づけてくるこの子は、ショートヘア短い髪が、おでこが出るくらいの長さで。

だから最初は男の子かな、と思ったけど。

少し褐色肌かっしょくはだは日焼けのあとなのか、みんなと同じトレーニングウェアの格好の、少年・・・いや、声の感じとかふとした雰囲気ふんいきは、女の子、かもしれないって思った。


その活発かっぱつに動く表情に一番に目が行く、印象的いんしょうてきによく動くひとみ溌溂はつらつとしてるからで。

一瞬でもずっとでも、爛々らんらんかがやく感じも、そういう所のどこかに女の子っぽい雰囲気ふんいきがある気はするし。

それに鼻先と私の鼻の距離きょりが、近過ぎるけど、決して危険きけんだとかとは、あまりかんじなくなってきてる。

最初は、まあびっくりしたんだけど。

とりあえず、とても悪い子には、というか、とてつもなく悪い子にはあまり見えない、という感じだ。

すごい強引ごういんというのは間違いなさそう・・・というか、すごい目の前に入ってくるけど。


今だって、睫毛まつげの感じまでよく見えるくらい、目と目も近過ちかすぎるんだけれども、この子、彼女が、目つき悪いふうなのを、・・ぷる、・・ぷる・・・と頑張っている様にも見えてきたわけで・・それが、何故なぜそんな事しているのかがわからないんだけど。


「おい、おい、無視すんな、」

ケイジが横で言ってるのを、その子は聞いてないみたいだけど。


ふむ。

つまり整理すると、私が・・見ず知らずの子に声をかけられて。

そして、ジロジロ見られている。

そして、この子が、こんなに元気で活発な子で。

・・以上だ。


結局けっきょく、『この子は何なんだろう?』と。

『前に会ったことあったかな?』って思ってみても、全然覚えてないし。

こんなに特徴とくちょうがある子を忘れるわけない、とは思う。

でも、どこかで見た事がある気もしなくもない?どこでだっけ・・・?


そんな事を考えいている間も、同じくずっとこっちを、全身をジロりジロりと、遠慮えんりょなく見てきているこの子は、まだ私を見飽みありないらしい。

もう理由は本人に聞いた方が早そうだし、そういえばちゃんとした会話をまだしていないのにも今気づいた。


「フォーん?・・ミリアかぁ~?」


って、また何度目かの同じことを言った、その子だから。

くちびるをむにっとしたミリアは、またたきつつ。


まあ・・口を開こうにも、変なプレッシャーがあって・・・長い、ジロジロ見てくる時間がずっと・・・―――――

ねめつけてくる視線が、相変あいかわらず近かったりで、気になるけど、仕方ないので、私はちょっと言葉をえらんで聞いてみる。


「どこかで、会った?」

って、そしたらその子は、ぴくっと、そしてその大きな目でジロリとこっちを見た、今度はちゃんと聞いてくれたらしく、そして、口を大きく開いて―――――


「ない!」


って―――大っきな声で――――・・ミリアがちょっと目をつむ気味ぎみに、びくっとしてたのは、至近距離しきんきょりだからで、とても元気な返事だったからだ。


そう、この子は声の調整ちょうせいを全然してくれないんだな・・・というか、はっきりとその子が答えた、『会った事ない』と。

やっぱり、初対面しょたいめんだ・・・・え、じゃあなんで声をかけてきた・・?


「―――――あんあ?こいふ?」

って、後ろからケイジと。

友達ともだちになりたいんじゃないか?」

「はぁ?ほうか?」

って、ケイジとガイの会話は聞こえてて、ケイジが無遠慮ぶえんりょなのとモユモユ、口になにか入れながらなのか、ガイはなんだか適当てきとうなことを思いつきで言ってるみたいだ。

友達ともだちに・・・』って、そんな風には全然見えないから。

「からまれてんのか?」

ガーニィがそう聞いたみたいで、そしたら・・みんなが無言むごんになったみたいだった。

たぶん、みんなは顔を見合わせているんだろうけど、私の後ろで、誰もその答えがわからないんだと思う。

私もわからないのだから。


その答えを知っているべきなこの子は、まだまだ、こっちを気遣きづかって話をする、という気が無いみたいだ。


そんな事を考えながら、ミリアがちょっと微妙びみょうな顔になってるまま、目をちょっとったついでに見えた―――――。


――――その子の右手にあった『ジェリポン』、よく見る栄養補給えいようほきゅう用のスポーツドリンクをにぎっていて。

その逆の左手には、お菓子の箱のような、いや、これもよく見るブロックバー『モッキュー・メイト』という、かじりかけのクッキーバーの頭も見えた。

栄養満点えいようまんてん美味おいしいそれらは健康補助けんこうほじょ食品や行動食こうどうしょくなどとしても、お店で売られているようなメーカー品だ。


そこにあるケータリングコーナーに置いてるものか、用意された軽食けいしょくたちはこのイベントに集まるEAU隊員たちにとって、えられてうれしい小腹こばらのおとものようだ。

いくつかの味や種類があっても基本的には甘かったりするし、パクパク食べ放題ほうだいなのは子供などにとってはうれしいはずだ、この子みたいに。

・・あと、ケイジとかもふくめられる、と思う―――――。


『――――っぷぅ、うはははははははっ・・!』

って、ミリアがビくんっ・・ってふるえた、のは目の前で急に笑ったその子の声が大きぎて甲高かんだかかったからだ。

耳の奥から裏まで声がひびいたような気がするくらい、声のいきおいがほんとにすごい―――――え、なんで今笑ったんだろう・・?


ミリアはちょっと体を強張こわばらせて警戒けいかいしつつだけど、目の前のその子は、笑顔だ。

・・とても笑顔に歯を見せて、ニッカリした素直すなおな、とてつもない満面まんめんの笑顔で。

「お前、なんなんだ・・・?」

って、ケイジがあきれるようにはいぶかしげな、不思議ふしぎさもあらわれてるその気持ちを、代わりに率直そっちょくにその子に言ってくれた・・。

ただ可笑おかしかっただけで、笑っただけみたいなんだけども。


「ナアっあってンっ!?」

急に、その子が奇声を発した。

いや、何か言葉を言って、伝えようとしてるんだろうけど・・・えっと、なんて言ったのかがちょっと考えてみても、よくわからない。


顔の表情は、おこってるようなその子で、ケイジに言っているようでいて、そのケイジの動きが止まっているようだ。


もしかして、っぱらってるような、呂律ろれつが回っていないのかも、とも思ったけど。

「・・あん?」

ケイジのいぶかしげな反応がけっこうおくれてて。

『ジェリポン』はノンアルコール飲料いんりょうのはずだからうはずが無いと思う、いや、そうじゃなくって。


「さいんパっからって、クォ?くお、するんってぇわけないく、けれどネ?そレるんるってぇっ、そいぃタイどきぃオっ!スきぬんじゃナいぃっするぅ、らカんラ!?・・ネらーー!」


―――――その子は、長い言葉を、あやしい呂律ろれつうちに言い切った。


・・言い切ったんだと思う、たぶん。

・・・何を?

言い切ったのはわかった。

なぜなら、この子がそうと言わんばかりに、とてもほこらしげに堂々と胸をっているのだから。

少なくとも、この子は満足していて。

・・・そうそれは、私が今、疑問ぎもんを口にしたらこの子の機嫌きげんがすぐくずれてしまいそうな、それほどあやうい均衡きんこう・・・。

あと、『ともだちになりましょう』というような単語たんごは聞こえなかったし、ガイの予想よそうはずれだと思う。


そして、ついにはこの子が胸の前で腕組うでぐみをして、ケイジへ勝ちほこる、ピークの笑い顔にたっしてたみたいだった。


「ぬぁっ、はっはっはぁ!」


・・何が起きてるのか、よくわからないんだけど。

えっと・・・?


ちょっと頭をフル回転させているのが、さっきからな・・ミリアが、隣に来てたケイジにふと気が付いて、見ればケイジがまゆを寄せている横顔が、不可解ふかかいそうな微妙びみょうな表情であの子を見下ろしていた。

ミリアは横目に見つけてたけども。

たぶん、自分も同じような顔をしていたとしてもおかしくはない、ともちょっと思った。


「お前なぁ、まずえらそうにすんな、」

って。

「・・ぬガ?」

その子はきょとんとしてたけど。


なので、だから、ミリアは、あんまり考えがまとまってないまま、仕方ないので口を開いた。


「いったい私たちに・・・―――――」

「『お前』だよ、おまえがなんだってんだよ、」

って、私とケイジの声がかぶった。

って、ケイジはまさか、この子と『会話』できている・・・?

「ぬぁあー??」

まさか・・・、ケイジが前へ出て、いぶかしげにその子の顔をのぞき込むように、・・威嚇いかくし返している・・・。

「っンぬ、なんだオまえ?」

「お前がなんだ?ああ?」

ていうか?2人の会話が成立せいりつし始めて来ている、気がする。

「ぬ!アタシが聞いてンダロ!」

「俺が先に聞いてんだろ・・っ、」

けれど、なんか余計よけいにめんどくさいことになりそうなのは、ミリアにももうわかってた。

「タシんがっ、っらァ!」

「俺だっつってんだろ、るぁ・・っ!」

ケイジも、やり過ぎな気はするけれど。

正直、どっちが先かはどうでも良くて、『この子が誰なのか』っていう話を早く進めてほしい。


でも、そんなねがいとは裏腹うらはらに、ケイジがその子と正面からにらみ合っているわけで。

・・・。

この子がこっちを見てないので。

とりあえず、・・すっと、ようやく、一歩はなれられたミリアだ。


・・ようやく、はなれられた・・・。

この子がケイジしか見てないおかげで・・・。

・・・離れられたのだ・・・・―――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る