Sec 2 - 第8話

 「だってお前、すげぇ顔してるぞ、」

って、ケイジに言われた。


・・・・。


えっと、ちょっと意味が分からないんだけども。


とりあえず、ケイジが言う『め事を起こすなよ』っていうのも、どういう意味なのかわからないけども。


『ケンカするな』と言ってるのか、別にケンカする気なんて全然無いし。

むしろケイジ達の方が面倒事めんどうごとを起こしそうだし、ケンカとかじゃないにしても、それをケイジから言われるのはなんか変だし―――――。


―――――とか、考えながら、軽くだけど、本当に軽くだけど、指と両手の平ではさむように、ミリアはほおをほぐしている。


―――――というか、ちょっと顔が固いかもしれないけど、すごい顔してるとか、別にそんなわけ無いし。

ってちょっと、・・はっとして、ミリアは閉じてたまぶたを、カっと見開いた・・!


め事なんて、起こした事ないけどね。」

そう堂々どうどうと言う、あくまで冷静なミリアだ。

「だからまだ起こしてねぇけど、」

「でしょ?」

ほら、とミリアは鼻を高くして。

「あ?そういやぁ、」

って、何かに気が付いたケイジは。

「あれだ、『あさ』だ、」

って言ってくるケイジで。

あさ』・・・??・・・。


「・・・。」

あ。

朝、そういえば。


ミリアも思い出した。

今朝けさ、呼び出された時に、『えらい人たち』がヒートアップした、っていうのが私の言葉がきっかけだったような、のをケイジは言っているのかもしれない。


そんなの、言われて思い出したけど。

あれは・・ん-・・・―――――


―――――って、黒い目のケイジが真っ直ぐこっちをじっと見ている、のと目がさっきから合ってるのに気が付いた、ミリアだけど。


――――――あれは『揉め事』の内には・・入らない、んじゃないかな、って思うんだけど・・あれも『揉め事』と言われれば・・・?・・?

でもあれは『不可抗力ふかこうりょく』だし。

理由を聞かれれば答えるものだし、私が何も言わなくてもお説教は続いてたかもしれないし、そもそも今朝けさの呼び出しが無ければ、あんなめんどくさい事にならないわけだし――――――

――――――考えが袋小路ふくろこうじに入りかけていたミリアの。


見つめ合っている、堂々とこっちを見ているケイジの目と目を―――――つい、と目を微妙びみょうらしたミリアだけれども。


「だろ?」

って、すかさず勝ちほこった様なケイジだ。


いや、ケイジは軽い調子で言ったみたいだけれど、得意げになったのはその表情にけて見える・・・。


「何があったんだって?」

って、急にガーニィが興味津々きょうみしんしんに、横から。

「今朝だって?」

あ、ガーニィたちは知らないんだった。

「ガーニィは耳をふさいでいろ、」

「おぉいぃ、」

ガイに押しのけられて、たしなめられていたけど。


「えホん、」

ミリアは小さく咳払せきばらいをしてた。

別にのどに引っかかりは無いけれど。

つまり、一旦落ち着いて仕切しきり直そう、っていうことだ。


周りの人たちに余計な事を聞かれると、また変なうわさが流れるかもしれないし・・・完全にみんなこっちを見ていて聞いてるし。


「んだろ?」

でも、更に言ってくるケイジはニヤっとして、ぜんぜん、おかまいなしに、こっちのメッセージも何も、考えてないかもしれない・・。

「あのね。」

ミリアはそう、一息吸って。

一息を、吐いた。

「あれ私のせいだった?」

「そうだろ?」

ケイジに、はっきり言われた。

・・・・・・。

「まあまあまあ、」

ガイが横からなごやかに、なだめてくれるけれど。

口を閉じてたミリアは。

はぁ・・っと、ミリアは一息ため息を吐いて。


そして、あらためて息を大きめに吸う・・。


「あのね、今のはあっちがぶつかってきたんだから、あっちがあやまるのが礼儀れいぎでしょ?」

あやまってなかったか?」

「そうでしょ?」

「そりゃあっちが悪いな、」

というか、ケイジじゃなくて、ガイが『うんうん』、うなずいてるけど。

・・・ガイを横目に、ジトっと見ているミリアは。

なんか適当てきとうに話を合わせられている気がする・・。

けども、・・ちょっと力の入ってる、開きかけてた口を閉じた・・・。

もう別にいいか、って――――。


「お前ら仲良いな、」

って、急に言われた、ガーニィに。


「・・えぇ?」


「なんでだよ、」

ケイジが不満ふまんそうだ。

というか、周りの彼らも話をしっかり聞いてて、うなずいてるみたいだった。


おんなじ顔してるぞ、」

って。

「はは、」

って、ちょっと彼らにくすっとも笑われた。


・・おたがいの顔を見合わせたミリアとケイジは、本当に、おたがいのいやそうな顔を、そしてまた更にいやそうに表情が動いたのを、見合わせてたわけで。


「ははは、」

それでさらに、笑われたみたいだ。


・・・ミリアは・・・なんか、なんというか。


とりあえず。

口をきゅっと閉じて、スンとした。

もう、・・何も言わない方が良い気がしたので。

無表情むひょうじょうつらぬく・・・。


ていうか、はなれた向こうでリースが1人だけのソファにもたれるように座っていて、眠そうに欠伸あくびをしていたのが、視界のはしにちらりと見えた・・・。


・・リースは、マイペースだなぁ、ってあらためて思った。


「まあ、ここはさ、いろんな奴らが来てるからなぁ、」

って、そばでガーニィが言ってる。

「『Class - B』とか『C』だけの時とはまた少し毛色けいろが違うよな?」

「ああ、まあな。」

彼らもうなずいてるけど、まあ、それはそうだと思う。

「『C』とか『B』は基本的に、感覚は一般人っつうか、軍部とかとは程遠ほどとおいヤツらが多いだろ、

だけど『A』はぶっちゃけると、なんかこわいんだよな、」

「まあ、なあ。」

って、彼らが話している。

『怖い』?・・か。

・・・まあ、そうか、普通の、一般の人の感覚かんかくだと、そうかもしれない。

確かに、『A』には雰囲気ふんいきが違う人も多いとは思う。

それは、仕事の内容の違いが大きいと思うし、仕事にどこまでみ込んでいるかの違いかもしれない。

でも、なんだかんだ言ってガーニィたち、彼らは周りをよく見ているようだ。


『――――全員を確認した。』

って、スピーカーを通した大きな声が、大部屋の中に満たされた。

『――――この場で待機たいきしている奴らはもうしばらくそうしていろ。こちらの準備が終わり次第しだいまた声をかける。10分もかからないだろう。それまではこの部屋で自由にしていてくれ。

質問が多かったから今答えるが、ロッカールームは別の部屋にある。が、後で案内する。以上だ、』


その大部屋おおべや内のアナウンスを後に、周囲がまたいっそうにぎやかになったみたいだった。

その辺りの椅子いすを引っ張ってきたり、ソファを使う人も増えている。


「どうすっかな、」

「俺、メシちょっと見に行く、」

「俺も、」

そう、ガーニィの知り合いの彼らも向こうのケータリングのコーナーへ足を向けたようだった。

「じゃな、」


最後に軽く挨拶あいさつする彼で、ミリアは、周りのガイたちや、それからガーニィと目が合って、肩を軽くすくめて見せた。


「まあ、正直、『A』の奴らは軍経験者ぐんけいけんしゃとか傭兵ようへいとかが多いっていうから、とっつきにくそうだったんだけどな。」

って、話し始めるガーニィは、彼らとは一緒に行かないみたいだ。

「お前らみたいな奴らだと話しやすい、」

って。

ふむ・・・それって、私たちが『A』っぽくないってことだろうか。

いや、別に他意たいは無いと思うけど、考えがまだトゲトゲしているのかもしれない、ってミリアはちょっとまぶたをキュっと一度閉じておいた。

「なんかあんのか?それ、」

ケイジがそう言ったので、目を開けたけど、ケイジはガーニィに聞いてたようだ。

「話しやすいって良い事だろ?」

「良いか?」

「話す時に困るじゃんか、」

「無理して話す必要もないだろ?」

って、ケイジはちょっとつぶれてるサンドイッチの最後を口に入れた。

「お前ら、ここに来てる奴らチェックしたか?」

って、ガーニィがモグモグしているケイジに言ってたけど。

「ん?」

「いや?」

「『A』の奴らが半分とその半分が『B』、『C』って感じだな。俺の知ってる中じゃ『B』のロアジュの奴らが目立つけど、『C』のセイガやクロ、前の合同訓練に来てた奴らもけっこう来てるみたいで。

トップスコアを残したヤツらもいるし、そうでないヤツもいる。

どんなヤツなのかわからない奴もいる。

『特別に有望ゆうぼうそうなヤツが集まってる』っていう印象いんしょうもあるな、前とちがって。

『C』はクセが強いって言うから物差ものさしもよくわからんけど。

ぁ、能力の話だぜ?人格キャラとかの話じゃないからな?

前は誰でもいいから参加できるって感じだったろ?

あ、ケイジとリースはいなかったな。

そんで、少し聞き回ってみたけどな。『B』と『C』の奴らもここへ来たことがあるヤツはいなさそうだ。

まだ俺も話してない奴らがいるから、なんか知ってるかもしれないが。知り合いはもうほとんど話しかけたんだよなぁ。

『A』か『B』かなんてのは見た目じゃわからないからなぁ、」


まあ、IDをスキャンできないなら、所属は外見がいけんだけじゃわからないだろう。

正直、私もほとんどわからないので、見覚えのある人以外はその人たちの雰囲気ふんいきや仕草で所属しょぞくを、『A』っぽいとか『B』っぽい、って判断はんだんするくらいしかしてない。

まあ、話しかけるなら直接聞いても良いんだけど。


「話しかけりゃいいじゃんかよ、」

って、サンドイッチを飲み込んだケイジが聞いてたけど。

「怖いじゃんかよ」

ガーニィからさっきも聞いたような答えが返ってきた。


ガーニィはその辺りを緊張きんちょうしているみたいだ。

彼は『B』・・だったっけ?

というか、ガーニィが私たちにいろいろ教えてくれるのは、『えて』なのか。

まあ、集めた情報を『えて教えてくれた』、ってことは、何かしら『考えがあって』のことかもしれない。

少なくとも、『どうだ?情報は役に立つだろ?』とケイジに具体的ぐたいてきな情報で返した、って事だろうけど。


「ここにいる奴らは有望ゆうぼうって言ったよな?」

って、ガイが何か気が付いたようだ。

有望ゆうぼうか、」

ケイジも。

「ん?」

「ってことは、お前もその有望枠ゆうぼうわくなのか?」

「はっはっ、んなわけねぇって、」

ガーニィが自分で笑ってるけど。

「まだ俺もよくわかんないんだって。つうか、お前らがぜんぜん周りを気にしない事を俺は言いたい。」

ってガーニィに言われたけど、そう言われると、そうかもしれない。


今日も招待しょうたいされたから来ただけだし。

そもそも、イベントは主催しゅさいする側に何かしらのテーマがあるのも当然だと思うし、今回の目的もただの交流のためだけじゃないだろう。

返信へんしんには、『はばひろいカテゴリの各種かくしゅ戦闘員せんとういんの技術向上のため』、とも書かれていたような気がするけど。


「オレって『A』の奴らって有名人の名前と噂ぐらいしか知らないからな。なんかヤバいヤツとかって知ってる?」

って、ガーニィは。

「知らね」

って、ケイジが正直に言ってた。

「教えてくれてもいいだろ?」

ガーニィが逆に、ちょっとおどろいたようだ。


まあ、ガーニィもいろいろ話したし、必要な情報かどうかはさておき、こっちがわかる事だったら教えても良いんだけど・・・。

別に話せそうなことも無さそうなんだよね・・・、『ヤバい人』ってそんなうわさも聞かないし。


「質問がストレート直接的ぎるな・・」

ガイの言う通りだ。

「ヤバいって?どういう意味だ?」

例えば、すごい人の事なのか、無茶をする人とか、めんどくさい人の事なのか。

「あー、ヤバいってそりゃぁ、問題児もんだいじとか・・・」

って、ガーニィが言いながらこっちを見て―――――ミリアと目が合っていた、のも明らかで、そのままスンっと口を閉じたガーニィ―――――までを、ミリアも見ていた。

・・・。

「・・え?誰が言ってんのそれ、」

心外しんがいなミリアだ。

「いやっ、誰も言ってないっス。」

「あん?」

心外しんがいなミリアなだけだったんだけど、ガーニィがケイジとミリアにちょっとめられて、さくっと発言はつげん即撤回そくてっかいしてた。

「いや、そうじゃなくて、」

明らかにこっちを見てたガーニィの仕草しぐさで、そんなうわさがあるってわかって、心外しんがいなだけなんだけど。

「まあ、俺らにはうわさが事欠かないかもな。」

って、ガイがなんかうなずきながら、したり顔で。

客観的きゃっかんてき視点してんなのか、いや、笑っているし、面白がっているようにも見えるけど・・・。

「まあそうだな。」

って、ケイジが、なぜか受け入れたみたいだ。

「言い方、『問題児もんだいじ』って。」

ミリアは不服ふふくだけど。


「まあ、基本的に『A』の人らは仕事仲間だ。」

って、ガイがもうそっちの説明をつないでた。


「変な人なんて見た事ないな。それに、試験テストで落とされるだろ。」

だから仕方なく、口を閉じたミリアだけども・・・。

「ん、そういや外でやる試験はきびしいんだったな。ま、そりゃそうか。わかりやすく異常いじょうなヤツなんて『A』にいく試験しけんで引っかかるもんな?だとしたら・・」

「うん?」

「あれだな、危ないのは『C』とか『B』にいる外来がいらいの奴らかなってさ?」

ん?

「ん、そうなのか・・?」

「ただでさえいろんな奴らがいるんだぜ?かかわるなら逆に、未熟みじゅくなヤツの方が危ないだろ?」

あぁ、そういうことか。

技術的にも未熟みじゅくな人の方が、かえって『危なっかしい』、ってことか。

外来がいらい』とも言ったけど、『EAU』の対外たいがい的にも主目的しゅもくてきである『リリー・スピアーズの特務協戦・警備・戦闘』などがおもな仕事じゃない人たちの事を言ってるのだろう。

「そんな事まで考えてんのか」

「だって、変な奴に話しかけたらすぐヤバいし。悪い奴らに目をつけられたらそく終わりだし。つうか、逆に考えれば今は『A』の奴らに自然に話しかけられる貴重きちょうなチャンスってことなんだよな。」

「まあ、そうだな?」

「え?お前行くのか?」

「どうすっかな。」

「お前、なんか色々すげぇな」

「1人で行くのもなぁ・・・付いて来てくれない?」

「行かね」

「そっちはどんななんだ?グループで来たのか?」

「ん、ああ。俺らはチーム組んでるとかじゃないからさ、同じコーチの仲間ダチというか。だけど俺は、今はこのメンツを見て来たくなかったと本気で思ってる、」

って、ガーニィは冗談じょうだんとも思えない笑顔じゃない、本当にいやそうな変な表情だ。

情報収集じょうほうしゅうしゅうって必要だろ?」

「ぶはっ、」

って、ケイジが思わずき出してた。

なので、つられたミリアも、ちょっと口を閉じて、ちょっとだけ笑うのを我慢がまんして、鼻を小さくらしたけど。


「だって聞いてた話と違うだろ?こんなメンツに放り込まれるなんて思ってなかったっていうか・・・、」

「ははっ・・」


「――――――ぁああっ!!!」


――――――って、甲高かんだかく大きな声が近くで・・した・・・!―――――びくっ!としてた、ミリアは・・・。


「お前っ!ミリアだーっ!」

って、そばで、大きな声の小さい子がこっちを指差ゆびさしてて、というか、名前も呼ばれてて・・・。


というか、至近距離しきんきょりで、よりうるさい、大き過ぎる声だ、その余韻よいんで耳が変な感じになったのを、ミリアは指でおさえながら・・・―――――今も、こっちをジロジロと見てくるその子は・・・小さな、子供?少年のような、活発かっぱつそうなくりくりしたひとみなんだろうけど、今はこっちをにらむように、私の顔を、身体や、つま先まで強い目つきでジロジロと、機敏きびんな動きで見ているようだ・・・近すぎて、なんか、あれだけど。


人がたくさんいる中で、この子も通りがかった1人のような。

あと、小さいと思ったけど、身長は私と同じくらいのようだ。

周りの他の人たち、大きな人たちと比べる事もできないんだけれど。

その子はちょっとこわい顔で、ずずいっとのぞき込んでくるような姿勢しせいだから、今は私の方が大きいくらいだ。


って、その子がまた機敏きびんに動いて、息を吸うのがわかった。

「お前がミリアだなぁああ?」

って、やっぱり声が大きい、そして近い。

少し声を低くしてるのか、その子の、丸みの面影おもかげのある目が今は細く、ねめつけてくる、ので。


「うるっせぇな、なんだこいつ?」

って、ケイジが疑問ぎもんを口にしてたけど―――――。


「なンだお前?」

「あぁあん?」

って、その子とケイジがさっそく、目つきわるからみ合おうとしているけども。


「・・あ、うん。ミ、ミリアだけど?」

ミリアは、その子にまたたきながらも、ようやく、うなずけた。


「うん?」

こっちを、ちょっとまたたくその子は。

「あ、」

思い出したようで。


「フぅぉーんっ・・・・」

またミリアをジロジロ見てくるこの子が、また近いし、声に込める力が強すぎてイントネーションもちょっと変になっている感じが、耳のおくまであつをかけてきてた。

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