Sec 2 - 第7話

 「――――それマジであってんのか?」

「説明書にそう書いている、裏が引っくり返れば『Tokin』だと、」

「それどんなルールなんだ?」

「だから、変化するんだとよ、こまの性能が、」


ミリアが通り過ぎた傍のテーブル席に、座っている彼らが話していたのを。

ミリアはちょっと振り返っていたけれど。


「へぇ、特殊ルールがあるのか。こまが変身するっていいな、強くなるのか?」

「ぁあ・・けっこう強くなるみたいだな?」

それらは目の前に置かれた卓上たくじょうゲームのことのようで。

席で彼らがその卓上たくじょうゲーム、その辺に置かれていたようなアナログゲームの1つを遊んでみているみたいだ。

「2段階変化とかないの?」

「ボスならあるんじゃないのか?」

当然セオリーだな、」

「いや、ないだろ。」

「ボスはいる、王様おうさまだ」

「お、何段階変身なんだんかいへんしんだ?」

王様おうさまは・・・変身しない。」

「マジかよ、」

「おぉい、ボスが変身しないっておかしいだろ?」

「俺もそう思う、俺も思うって、俺に文句言うなよ、」


まあ、初めて見たゲームなのか、遊んでる彼らはいくつものこまのルールや配置から手こずっているみたいだ。


ミリアはたしか、それはちょっと見た事がある、外国の伝統的クラシカルなゲームだったっけ。

こんな所に『それ』がある、というのもちょっと、またたくけど。

ただそれよりも、ここにはボードゲームもいくつか置いてあるのか、というのも、ちょっとまたたく。


やっぱりここは、ラウンジルームのような所なのか、自由目的の部屋なのか、誰か遊んで置いていったのかもしれない。

他に不必要なオブジェがあるようには見えないけれど。

まだ奥の方にもドアがあるし、もっと部屋が続いている様にも見えるし。

その先に何があるのか気になる誰かがもう、のぞきに探検たんけんしに行って楽しんでいるみたいだ。


その気持ちは、ちょっとわかるけれど、まあ、子供っぽい人はどこにでもいるものだ。

そう、ミリアはEAUの人たちで込む中を歩き出して。

とりあえず、私はガイやケイジ達と合流して、待機時間をどう過ごすか決めないと―――――と、戻る足に見つけた、ガイとケイジたちと、それから誰か達が立って話しているようだった。


 ミリアはちょっとまたたいたけれど。

その数人の姿の中には、見覚えのある・・・。

「よお、おかえり」

って、先にガイに声を掛けられた。

こっちへ振り返る彼らの、やっぱり、数人の内の1人はガーニィだった。


この前の合同訓練の時にも声を掛けてきた、おしゃべりが好きって印象の。

それから、他にも知り合いなのか、友達なのか、前に見かけた人もいると思う。


「お、リーダー、」

「よお、リーダー、」

「うっす、リーダー、」

って、一様いちように彼らに言われた。

なんか、その呼び方はむずがゆいけども、ケイジ達にも言われないし。

「どうも、」

とりあえずミリアは彼らへ、うなずくように返していた。


「そういや、お前たちの点呼は?終わらせたのか?」

「代表者だけ行けばいいっぽい、うちにリーダーなんかいないしな」

って。

ミリアはみんなの顔を見回して、ケイジの口元には赤いケチャップのようなのが付いてる、ケイジがサンドイッチを食べているのにも今気が付いたけれど。

「向こうはどうだったんだ?」

「待機でいいみたい、」

ガイに聞かれたミリアは答えておく。

「待機つっても、とりあえずなんか食うか喋ってるしかやることないもんな、」

そう言うガーニィたちはひまなようだった。

「携帯ゲーム持って来れば良かったな、」

「さすがに没収ぼっしゅうされるだろ」

「持って来てたヤツはいたぞ?」

「終わったな、そいつ」

周りを見回すミリアは、彼らが話してるのを聞き流してるけど。

まあ、私たちもどうせ待機だし、自由に過ごせばいいか。

「そういや、復帰ふっきしたばかりでまたすぐでかい事件に巻き込まれたって?」

・・って?

「例の、コールフリートの事件、あったよなぁ?」

「あぁ、この前あったな、そんな事件。」

ガーニィたちが、あの例の事件の事をガイたちと話しているようだ。

そういえば、彼、ガーニィはが好きそうなんだった。

私たちが関わった事もなんだか、バレているような言い方みたいだし。


「それがどうした?」

ガイがとぼけてみたみたいで。

「他の奴からもう聞いたよ、お前らもいたんだろ?言えって、」

ふむ、すで前調まえしらべは済んでるようだ。

「遠巻きに見てただけだよ、な、」

と、ガイは観念かんねんしてガーニィに言ったけど、それは事実だ。

それは別にかくすような事じゃないし、具体的ぐたいてきに言わなければ機密漏洩きみつろうえいなどには当たらないだろう、たぶん。

ガイが、こっちと目が合って、さり気無くウィンクしてくるのは、あやしさがすからやめた方がいいとは思うけど。


「ニュースで見たけどかなりあばれ回ったんだろ?犯人は、」


「―――――んおぉっと、」

どしんっ、って、横からの衝撃しょうげきを受けたミリアが、「ぉわっ」―――っと、ちょっと転びそうになった―――――

歩いてきた誰かにぶつかったようで、大きなお尻に押しのけられて、なんとかった。

ミリアが顔を上げかけて、ガイが手を差し出してくれたのには気が付いたけど。

それより、そのぶつかってきたお尻、のその大きな男の人は、そばで立ち止まってこっちを見下ろしていた―――――

っこくて見えなかったぜぇ、」

って、ニヤっと笑って口を開くなり、こっちへ言った・・・―――――。

―――――・・・瞬いていたミリアが、―――――その瞬間しゅんかん片眉かたまゆが深く上がり、けわしくなった。


だから、ミリアは口を開いて。

「あの、」

「ぉいおい、お前らもしっかりやれよチビ、」

って笑っている彼らが、去っていく・・・。

「あいつらか?ルーキー新人・・・」

「あれがミリアか?」

「近くで見るとさらにっこい?―――――――」

――――って、はなれてく、話す声はこっちにも聞こえているが・・・。

「・・『あぁあん』・・・?」

ミリアがおどろおどろしいかもしれない低めの声で、彼らをにらみつけるその目は、本気の目だ、まるで人をK・・・―――――

「そっちも、」

と、ミリアが向こうへ一歩をみ出しかけた――――ら、がっしって、肩を掴まれて動けなくなった――――――口を大きく開こうとしてたミリアの、肝心かんじんな所で突然とつぜん、肩を後ろからつかまれた――――

―――――引っ張られたわけじゃなくて、止められた、ガイのうでに、がっしりと。

「おたがいに、」

ガイがさわやかな微笑ほほえみを彼らへ送って、・・1人か2人がこっちをちらりと見たような、彼らがそのままはなれて行くが。


そんなガイのとなりで。

不服ふふくそうなジト目にガイを見上げているミリアだ。


「アんはあぁゃぁ?」

って、ケイジがそう、サンドイッチにかじりつきながら言ってた、音のひびきから「なんだありゃ」って言ったんだと思う、たぶん。


悪気わるぎは無さそうだ、たまたまだろうな、」

「はぁン・・?」

ガイとケイジが話すのを頭上にミリアは、ガイに上手く身体を入れられてかくされた形になってたので、去っていく彼らへはなんとか出した顔ぐらいしか見せられなかったが。


あっち離れていく彼らを見てると、仲間としゃべりながら後ろ向きにか歩いて、それが死角しかくになって私にぶつかってきたようだ。


「大丈夫か?」

って、一応気遣きづかってくれるガイへ。

「・・大丈夫だけど、」

ミリアはやっぱり、ちょっと不服そうにジト目で見ていた、そのほおも少しふくらんでいるかもしれない。

「いいじゃんか、な?」

って、言いたいことはわかっているみたいで、こっちへ白いを見せて笑うガイだけど。


・・・・。


「めっちゃにらんでんな・・?・・・」

って、そこで小声のガーニィと。

「んぁ?ああ、キレてんな・・・?」

ケイジが話している。

「あいつ、けっこうキレやすいからな。」

って、ケイジが言う・・しっかりミリアには聞こえている・・・、が、あえて何も言わないでおく。

「マジか?」

案外あんがいな。」


・・・・何も、言わないでおく。


「今日は機嫌きげんが悪いのか・・・?」

声をひそめ気味ののガーニィの質問はまだ続くみたいだ。

「いや、普通だったろ?」

ケイジの声もまあ、つられてちょっとひそめ気味かもしれない。

「知らねぇけどよ、じゃあなんでだよ・・・?本当にキレやすいのか・・?」

「ん?うーん、あいつ・・たぶん、あいつら・・・、」

「ケイジ、口元くちもとにケチャップ。」

ミリアは言っておいた、まだ低い声で。

コソコソ話していたケイジがちょっとピクっとして、すぐ手の甲で口をぬぐっていたけど。

ミリアの眉はまだ強く、ぴくぴくしたままなのに、ケイジがはっきり気づいた・・・――――ケイジの手にあるサンドイッチが、具が、ケチャップソースと共に、ぐにゅぅ・・っと出てきているのを・・、ミリアは見てたけれど。

「で、なんだよケイジ?」

「ぁあ・・・、」

ガーニィに聞かれるケイジは、ミリアがこっちをじっと見ている・・・その威圧いあつあふれんばかりにれている目で見つめて来てる、ミリアのその視線から、ケイジは目がはなせないのだが。


・・ケイジが、また、口を開く。


「あの『ち・・・」

ミリアの目が、ギンッとまた一段と強くなったのを見て。


・・・なので、ケイジは少し口を開きかけたまま、首を横に、変な風に揺らしてた。

そう、まるでこわれたおもちゃのように―――――。

「・・なんだよケイジ?」

本気マジだ。」

「は?なにが?」

一言ひとことだけ、ぼそりと言ったケイジに、ガーニィが眉をひそめていた。

「ケイジ、ガーニィ、さっきはなんの話だったっけか?」

って、ガイが普通に聞いてた。

「え?ああ・・・なんだ?」

ガーニィが忘れてた話題のようだった。


「ミリア、めごと起こすなよ?」

って、ケイジに言われた。


・・・・。


「おん?」

ガーニィたちの変な声も聞こえたけど。


え、私が?と、ミリアはおどろいたのと、そしてまたすぐ憮然ぶぜんとした表情でケイジを見た。


ケイジはいたってマジメそうに、こっちを見ているけれど。


「いつ私がめごと起こすの。」

とっても心外しんがいなミリアなので、にらみつけながらの抗議こうぎになっているが。

ケイジがそれに気が付いて、手に付いてたソースをめる。

・・ケイジのがだらしないくせに・・・―――――。



「だってお前、すげぇ顔してるぞ、」

って、ケイジに言われた。

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