Sec 2 - 第6話

 「――――ここは研究所か?」

彼は、長く白い通路の景色を遠く見ながら言っていた。

「研究・・?」

仲間もぶっきらぼうにだが、反応していた。

「・・軍部が特能力者を研究しながら『EPF』を管理しているって知っているか?」

「そんなうわさ・・・、」

「そういや、そんな話を聞いた事があるな・・?」

うわさ一蹴いっしゅうしようとしたが、隣の彼の反応を聞いて彼はその口を閉じた。

「だとしたら、オレら、実験に・・?」

「お前らが人体実験じんたいじっけんされるなら俺は逃げるが、」


息をひそ緊張感きんちょうかんかすかにただよい始めているのかもしれない。


「改造されれば、今の50,000倍のパワーがられるんだってよ、」

「な、なんだって?やっぱり『EPFは改造人間』って本当マジなのか?」

「面白くも無い、不謹慎ふきんしんだぞ。」

おどろきの事実を口走った彼は、横からの低い声で注意されてた。


そしたら急に、彼らはニッカと笑ってて。

「はっは、」

なぜか注意してきた彼にも手を上げて、ハイタッチを求めている。

注意した彼も、一応手の平を差し出しはしたけど、スマイルじゃないけど、バチンと手の平が叩かれて痛そうに顔をしかめていた。

「『悪の組織に捕まった主人公が―――』ってあるだろ?」

「なんかのマンガだな?」

「もうやめとけよ、」

「よぉ、冗談じょうだんじゃんか、」

彼らの話はどっかからか、冗談じょうだんになってたらしい。


そんな彼らのそばを共に歩くミリアも、ちょっとまたたくように彼らの様子を見てたけれど。


「軍部の敷地しきち内でよく言えるな、そんな冗談を」

「やっぱ軍部なのか?」

「ここにまえ来た事あるって言ってる奴らがいた、」

「お、ここで何をしたって?」

「それは知らねぇよ、」

「そこが重要じゃないのか?」


そんな彼らが作る行列の前をのぞいていたミリアだけど。

今も周りのみんな、同じ『EAU』の人たちは憶測おくそく交じりの情報交換じょうほうこうかんをしているし、冗談じょうだんも言い合ってるくらいで、危険なんて無いだろう、という雰囲気ふんいきは伝わってくる。


ミリアも別に危険は感じていないが、みんなと歩くこの白い通路に多少の違和感いわかんを感じるのは、さっきから周囲の音が遠い感じがするから、かもしれない。

壁や床に防音処理ぼうおんしょりのような、特殊な素材かが使われているのか、さきほどの車庫ガレージのような広い場所でも人の声は遠かったけれど、それとはまた違う違和感いわかんのある感覚かんかくだ。


この見慣れない場所の白い小奇麗こぎれいな通路では、他に発見できるものもあまり無いし、遠近感もちょっと見失いそうになるけれど。

歩く数もカウントして距離をはかってみていても、あまり意味は無い道しるべだと思えてくる。


それから、あの壁面へきめんの少し高めの位置に見かける、『ER-1』などという記号表示にミリアの目もたまにまる。

あれで4つ目か、気が付いたのを数えたらそれくらいだ。

その記号は、建物内の現在地を表すものなのか、他にも似たようなものがあったのでちらほら見つけていた。

まあ、同じような景色の通路は、ここではたらいている人たちでさえ迷子まいごになりそうだな、ってそんな想像もちょっとしてみるけれど。

歩いても歩いても辿たどりつかない道、あの記号のお陰でそれっぽい、『ここは軍部の重要施設だから』と説明されれば、きっと、迷子でうろたえている誰もが納得するかもしれない、とも思う。

たぶん。


と、誰かが上へ手を振って見せたのに気が付いた、天井近くにあるき出しの警備セキュリティカメラへ、というか、見ている向こうへのの合図か、遊びみたいだ。


ふむ。

・・・ミリアが、隣のガイへ目線を向けても。

「・・ん?」

こちらへ気が付くガイの横顔があって。

後ろを振り返れば、ケイジとリースも、一応周りの様子が気になってどこかを見ているようだ。


―――――説明を受けてないので、みんなが困惑こんわくを感じている状態だとは思う。


『一体、ここは何をするところで、なんでここに連れてこられたんだろう?』、ということだ。


今日は合同訓練と聞いていたけれど、大掛おおがかりで手間がかかっている。

そして、一緒にあの『第一線』に出てるメンバーたちも来ていて、それも理由があるとは思うけれど、教えてもらっていない。

そもそも、うちのチームは今回は最初の集合時間に間に合わなさそうで(お説教のせいで)、現地集合になった。

だから、事前にいくつかの説明を受けている人もいるのかもしれない。

例えば、ここにいる全員が一緒に訓練をするわけじゃなく、たまたま同じ訓練施設にかさなった、とか。


・・・まあ、有り得るけど合えり得ないような。

『Class - A』の招集もかかっていないし。

なんだか、少し違うみたいだ。

そんな気がする―――――


「あの横道、行けそうだな」

警備セキュリティカメラに映ってるぞ、」

「変な行動はするな、」

逮捕されるしょっぴかれるぞ」

「行って良いってことか?」

「迷子になっても監視カメラがあるから大丈夫だな、」


そんなうわさ話の延長のような、今も周囲の人たちが物珍し気ものめずらしげに話している様子を耳に入れながら。


傍のガイやケイジ、リースたちもみんな、一様にだまって歩いて周りを見ていた。


変な違和感の所為せいなのかは、わからないけど。


しばらくは、いくつかの扉やそういう『BR - 9』などの別の目印めじるしの記号を見つけて。


まあ、もっと記号をちょっと、見つけたくなっている気がしなくもない、かもしれない。



「―――――おー」

「―――ぉー?」

――――と、前の方で誰かが声を上げているようだ。


気が付いたミリアが前をのぞくと、他の人たちも同じように前を見上げ始めていて。

そんな姿がちょっと邪魔じゃまになるけれど、かろうじて少しだけ見えた通路の先を・・、でも、彼らはもっと前の方を見ているようだった。


「なんだ?」

向こうを覗くガイの疑問にはミリアも答えられない。

「お?なんかあったのか?」

ケイジも興味がわいたようで。

でも、隣のリースはほぼ無表情で前を見て、あまり気にせずに歩いている。


周りの人たちもそわそわし始めているようだけど。

このまま歩けばその先へ辿たどり着くのは、みんなわかっているわけで。

とりあえず、ミリアは背筋せすじを正し直して。

息を少し深めに吐いて・・、あまり気にしないように歩いていた。


――――ようやく、この場所へ来た目的がわかるのかもしれないから。


「ぉぁ・・?」

「金持ちの別荘べっそうか?」

「おほ、こりゃすげぇえ・・」


って、前から聞こえてくる声は、なんか、変な感想もじっているけれど。

・・またちょっと、前をのぞくだけで、先の入り口が見えた、通路の突き当りにはとびらがあったようだ。

前を歩く人の背中は大きいので、かくれてよく見えないけど。

その後ろに付くままにミリアがそこを抜けると、みんなが入って行く白い広い大部屋のスペースに出て、・・・顔を上げて、またその足をみ出していた。



 見通しの良いスペースのおかげか、空気も清々すがすがしくなったように感じる、そこは清潔せいけつ快適かいてきそうな広いラウンジルームのような。

白を基調きちょうとしているのは通路と変わらないけれど、黒や他の色のインテリアも配置されて、なんだかさっきまでとは印象の違う、お洒落しゃれな空間になっているようだ。

いくつかのそなえ付けのテーブルやチェアから、丸みのある流麗りゅうれいなシルエットがデザインされていて、『良い品質モノ』のインテリアっぽいものばかりだし。

右手には、広いスペースに一段高くなったところから壁一面ほどの大きく黒いモニタ画面があって。

逆側の左手には、バーのカウンターテーブルのようなものまであるのが見えた。


なんだか、急に私たちが違う建物へ迷い込んだような、まるでモデルルームのような、お金持ちセレブ別荘べっそうのような?どういう目的の場所かもよくわからないけれど。


いくつか置かれたソファに、さらに向こうの壁側には他の部屋へつながるんだろうシンプルな扉も見える。

それに、大部屋の中央の台やすみの方には、包まれた食べ物やドリンクが用意されているようで、ケータリングのコーナーも完備かんびのようだ。

さっそくそこをのぞきに行っている人たちで、ちょっとした人数が集まってきているみたいだけど。

いちおう、彼らは周りと相談しつつ、『これ食べていいのか?』とか話し合っているようだ。

「食べていいのこれー?」

「おい待てぇー!ロヌマ!」

大きな声で聞こえた、純粋じゅんすいに嬉しそうな子もいるみたいだ。


そんな『EAU』の彼らの中を、彼らもまた足を止めていく、わいわいとにぎやかになっていってる中で、ミリアも立ち止まって周りをきょろきょろ見回していた。


「あれ食っていいのか?」

って、ケイジがさっそく向こうを見つめている。

お腹を空かせているのか、そういえばさっきそんな事を言ってたっけ。

「俺らこれから何するんだっけ?」

って、隣のガイが。

「訓練だろ?」

ケイジが向こうへ足を向けつつ、さも『当たり前だろ?』、というように答えていて。

「だよな、」

ガイはそう納得したものの、やっぱり、周りをきょろきょろしてた。

たぶん、ちょっとの疑問ぎもんいだいているのは、きっとみんな一緒いっしょだとは思う。

これから訓練じゃなくて、このまま豪華ごうかなホールでされそうな雰囲気ふんいきだし。

ケイジなんかは食欲が勝っているようだし・・って、ケイジがもう向こうへ歩き出してたのに気が付いた。

「あ、ちょっとケイジ――――」


『全員、そろっているか点呼報告をしろ、』

と、部屋に大きくる男の人の声は、室内スピーカーから出ているようだ。

ミリアが口を開きかけたまま、つい音の出所でどころを探していたけれど。

『各リーダーはそのモニタ前のスタッフに報告しろ。全員の確認が取れ次第、一時休憩きゅうけいとする』

スピーカーの音量を、少しずつ大きくしていってるようだ。


『―――――グループ内ではぐれているヤツはいないか確認しろ。もし問題があればすぐに報告しろ。』

さっそく集団行動が必要なようで、とりあえず私もリーダーとしての行動を取るべきか。

『準備できるまでの休憩時間だ。早くした方がいいぞ、休憩が短くなる。』


「あっちの方か、」

ガイが指差す目線も見つけた、向こうでコーチじんらしき彼らが集まって話し合っているようなのが、人の隙間すきまの遠目に見えた。


「行ってくる、」

「おう。」

ミリアはそう、2人を置いて歩き出して。

点呼をするまでも無くU-25うちのチームメンバーは4人、全員そろっているので問題ない。

「ケイジを連れ戻しといて」

「りょうかい、」

ガイに言いつけておくのは忘れずに。

周囲でたむろしている彼らも、軽い会話をわしている中で動き出している人たちもいるようだった。


「よぉ、お前も来てたのか、」

そんな言葉が聞こえればつい顔を上げてしまう、たくさんの人の隙間すきまから見える見知った顔も、それ以前の訓練で見かけた人たちもいるようだ。

あの見覚えのある人たちは、たしか、前の合同訓練のあのランキングで上位を取っていたような人達だった、かもしれない。

たしか、彼らは『Class - B』や『C』の人たちが多かったはずで、そういう人達が過ごしている様子がそれぞれの人込ひとごみの中で、一瞬でもいくつか見えていた。


そして、大型のモニタ前の辺りですでに集まって来ていた彼らが、コーチ陣かスタッフの彼らに声をかけている。

「『Class - B』のポール・レイジーだ。俺の名前で登録しているが、どうやって確認する?メンバーは全員いる。個人識別番号登録ナンバーまでは要らないよな?」

「『Class - C』の責任者だが、連れてきた、あの・・」

「順番だ、順番。俺と、彼と、彼女がうけたまわる。ポール・レイジーだな?リストを確認するが・・登録メンバーは全員いると?」

「ああ、全員いる。」

「・・よし。次、お前は?」

「『Class - A』のU ユニット- 25、全員います。」

ミリアがそう、声を上げたとき、周囲からの視線を感じた気がするけれど。

「よし、次だ。」

了解をもらったので、ミリアはすぐにそのみ始めそうな場をはなれた。


「人数が多いな。」

「これからは班編成をもう少しやった方が良さそうですね、検討けんとうさせましょう。」

その端っこで運営に関するやり取りを話している人たちの会話も、ちょっと耳に入ってきたりするけど。

確かにそれはした方が良いと思う、『Class - A』と『B』と『C』では構成員の目的もそれぞれ違うから、管理システムの構造も違うって聞いた事がある。


「―――――俺たちが勝手に軍部の施設に入っていいのかよ?」

「問題ないだろ。そもそも、最初から軍部も君たちの身辺情報くらいは持っているだろ。」

ミリアが人込ひとごみをけるように歩く中で、集まる人たちがいろんな話をしていて、いくつかの会話ともすれ違う。


「軍部に個人情報を流すなんて聞いてないぜ?」

「ん?特務協戦のサインはしたんだろ?政府へ一部データを提出する義務があるってみんな同意しているはずだ」

ちょっと、気になる話にはゆっくり歩いたりして、聞き耳を立てたりもするミリアだけれど。

「そうだったっけか?」

「おいおい、書類しょるいはちゃんと読めよ、」

「そういう契約けいやく条項じょうこうは説明されてたよな、」

「まあ、大丈夫だってんならいいけどよ――――――」


「――――それよか俺たちがココに来た説明を聞いてないんだが、」

「それは後で説明される――――――」


「――――――スーパーフットのどこのチームだ?・・・あそこは弱くは無いが、今シーズンもまだパッとしてないよな?」

「いいんだよ。俺のオヤジも家族もファンなんだから―――――」


「―――――あれ食ってていいんですよね?」

「ああ、好きにしろ。」

「うーっす、」

「今の内に腹ごしらえしておけよ、トイレはあっちだ、――――」


「――――訓練の前にしっかり食ってくるのは当然だと思うんだがな?」

「まあ、慣れてない奴も多く来ているみたいだし仕方ないんだろ―――――」


―――――歩いているミリアが周囲を見ていて、後ろへ流れて行く会話を聞いていて思う、わいわいにぎやかな不思議な雰囲気だなって。


まるで、この前の合同訓練の続きのような、オリエンテーションのイベントのようだなって、思った。

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