27. 目覚めるベン
二人は重厚な革張りのソファーに案内された。新鮮な革のいい匂いがふわっと上がり、座り心地も上々だった。
ベンはコーラをグッと傾ける。
シュワーー! と口の中に広がる炭酸、スパイシーなフレイバーが鼻に抜け、舌に広がる甘味……。ベンは思わず目をつぶり、その懐かしの味をゆっくりと味わった。そう、これ、これなのだ。日本での暮らしがフラッシュバックし、思わず目頭が熱くなる。
最後はブラック企業に潰されてしまったが、日本での漫画、アニメ、ジャンクフード、それはベンの身体の一部となっているのだ。
久しぶりに出会えたジャンクな味にベンは言葉を失い、ただその味覚に呼び覚まされる日本での暮らしを懐かしく思い出していった。
ゴホッゴホッ!
隣でベネデッタがせき込んでいる。
「あ、無理して飲まなくていいですよ。ジャンクな飲み物なのでお口に合わないかと」
するとベネデッタは渋い顔をしながらコーラをテーブルに戻した。
「はははっ、いきなりコーラは難しかったかな?」
魔王がやってきて向かいにズシンと座った。
「あなたが魔物の頂点、魔王……なんですか?」
ベンは切り出した。
すると、魔王は愉快そうに笑って言った。
「いかにも魔王だが、頂点って言うのは違うな。魔物の管理者だよ」
「管理者……?」
ベンは何を言われたのか分からなかった。
「見てみるかい?」
そう言うと、魔王は巨大な画面を空中に展開した。そこには広大な地図と無数の赤い点が映っている。そして、魔王は両手で地図を拡大していき、
「この点が魔物なんだよね」
と言いながら、そのうちの一つの点をタップした。
するといきなり画面は森の中の映像となり、真ん中にゴブリンがうろついている。周りにはウインドウが開き、各種パラメーターが並んでいた。その画面は日本にいた時に遊んでいたVRMMOのゲーム画面そのものに見える。
「まるで……、ゲームですね……」
ベンは眉をひそめながら言った。
「うんまぁ仕組みは一緒だね」
そう言いながら魔王はゴブリンのパラメーターをいじっていく。すると、ゴブリンはどんどん大きくなり、ボン! と音がして筋骨隆々としたホブゴブリンへと進化した。
ベンは唖然とした。魔物はこうやって管理されていたのだ。なぜ魔物は倒すと消えて魔石になってしまうのか、とずっと不思議に思っていたが、謎が解けた気がした。魔物はいわばNPCなのだ。コンピューターシステムが生み出したキャラクターであり、生き物ではないのだ。
だが、ここでベンは背筋にゾクッと冷たいものが走るのを感じた。NPCが居るということは、この世界は造られた世界なのではないだろうか? 言わばこの世界全体がVRMMOのようなコンピューターによって創られた世界……。
バカな……。
ベンは急いで自分の手のひらを見てみた。細かく刻まれたしわ、そしてそれを縫うように展開される指紋の筋、その奥の青や赤の微細な血管。それらは指が動くたびにしなやかに変形し様相を変えていく。こんな芸当ができるVRMMOなんてありえない。ベンはグッとこぶしを握った。
しかし、ここで嫌なことを思い出す。自分は一度死んでいたのだ。死んだ者が生き返る、それは明らかに自然の
「どうした、ベン君? もう目覚めてしまったかな?」
魔王はニヤッと笑って言う。
ベンはうつろな目で首を振り、そして頭を抱えた。
「まぁ、目覚めたかどうかなんてどうでもいい。それより今日はお願いがあってね……」
そう言いながら、空中を裂き、空間の裂け目からガジェットを取り出すとガン! とテーブルの上に置いた。
それは金属の輪にプラスチックのアームがニョキっと生えたような代物だった。
「何ですかこれ?」
ベンはそれを持ち上げてみる。金属の輪は腕時計のベルトのように一か所ガチャっと外せるようになっていた。
「それ、履いてみてくれる?」
魔王は意味不明なことを言って、コーラをゴクゴクと飲んだ。
はぁっ!?
言われて初めて気が付いたが、これは言わばふんどしみたいな物だったのだ。
「ここにボタンがあってね、いざと言う時にここを押すとプラスチックノズルの先から肛門内へ薬剤が噴射されて、一気に便意が高まるという……」
魔王が説明を始めたが、ベンは頭に血が上ってガン! とガジェットを机に叩きつけた。
「嫌ですよ! なんでこんなもん履かなきゃならないんですか!」
顔を真っ赤にして怒るベン。
「あー、ゴメンゴメン。話を
魔王はニコニコしながらとんでもない事を言った。もう久しく聞いていない単語【恵比寿】、【焼肉】にベンは耳を疑った。
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