第1話ー① ここはどこ
山小屋の中は、ひっそりと暗く静まり返っている。時折、隣の居間らしき部屋から山小屋の住人達の笑い声や話し声が聞こえてくるばかりだ。
あのスイカの実とやらを切った後しばらくして、住人達は夕食の支度に入った。
野菜や果物まではまだよかった。
(肉とか魚は、正直やばい…………)
身体の上で、生臭くて柔らかい肉を断ち切られ、臓物の残りがぶちまけられる、何とも言えない瞬間。
思い出すだけで吐きそうだ。
(よお、まな板くん。落ち着いたか?)
隣からのん気な声がしたので、吐き気を抑えて視線をやる。例の中華包丁が一仕事終えた後のうたた寝から起きたようで、刀身を軽く震わせながら大きな欠伸をしていた。
(落ち着くって……、落ち着ける訳ないだろ。そもそも何処なんだ、ここは)
(ここか……この世界ね。確かに何処なのか判んないよな)
中華包丁は部屋の中に目をやる。部屋の中は灯りが消されて真っ暗だ。隣の居間との間に扉は無いので、そこから漏れてくる明かりだけが頼りだが、現代社会に慣れた人間の目にはそれすら暗く、周りを見る助けにもならない。
(見てのとおり、俺は包丁でお前はまな板だ。変身とか空飛んだり、台所から世界が見える訳でもない。基本的には、ただの包丁とまな板)
(何で!? それって、何のための転生? 何で? 本当に意味わかんねぇ!)
これまでの緊張と不安を爆発させたかの如く、
中華包丁は、しばらくの間、何でだ、おかしいと叫ぶ
(まあ、すぐには受け入れられないよなぁ。無理に落ち着けとは言わねぇよ。その代わり、俺の知ってることを教えてやる)
(お前の……?)
(ああ。俺はお前より長くこの世界にいるし、実のところ、何回か現実世界とこの世界を行き来してんだ)
(え! 行き来出来たって、現実世界に帰れんの?!)
(ああ。一応)
(やったぁ!! っっしゃああ!!)
いきなり窮地に落とされて、その場で解決策があるという、まるでジェットコースターのような展開である。思わず
(まぁ慌てるなよ。まず、ここについて、俺がわかる範囲で教えてやろう)
中華包丁は、壁に寄り掛かりながら語り出した。
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