最終話 配下の者
その夜。トシヤとカホの住む部屋のインターホンが鳴る。月の無い、湿った曇り空の夜だった。
玄関のドアを開けるとそこに立っていたのは巨大なカメレオンみたいな生物だった。玄関のドアを開けたのはカホだ。
「大魔王様でございますか?」とその配下らしき男が目の前のカホに尋ねる。
「そうだ」とカホは言った。
カホは左に緑の腕輪を、そして右には黒の腕輪を嵌めている。相手に疑う素振りは無い。
「仰せの通り、首尾よく準備はできています」
「待て」とカホが言った。「やはり気が変わった。余は一人でこの星に住む」
「一人で住む?」配下らしき男が驚いて言った。
「そうだ。だから貴様らは貴様らで勝手にしろ。全て任せる」
「それでよろしいのでしょうか?」
「そうだと言っている」
一瞬迷ったものの配下らしき男は「わかりました」と言った。
配下らしき男が帰ってから、カホとトシヤは胸を撫で下ろした。
「上手くいったね」とトシヤが言った。
「まさかこんなに上手くいくとは思わなかったよ」カホは腕輪を外しながら言う。
「でもどうしてだろう」とトシヤ。
「何が?」
「あまりにも上手く行き過ぎてないか? だってそもそも大魔王単独でそのまま放っておくなんてさ」
「ほんとだ」
すると和室の方でバタバタと音がする。和室で縛られたままの大魔王が暴れているのだ。二人は和室に入り、翻訳機の黒い腕輪だけ着けてやった上で、配下の者が帰ったことを伝えた。
「何、帰っただと?」大魔王が驚いて言った。そして何かを考えながら、目が泳ぐ。「まさか……」
そのアパートの階段を下りる異形の男。それは確かに大魔王の配下の者だったが、その口元はニヤリと笑っていた。ようやく思い通りになったと思ったのだ。全ては自分の計画通りだと。
一方、和室でカホが言った。
「じゃあこの人、早速国に引き渡そうよ」
「そうだね」
ガムテープで口を塞がれた大魔王がバタバタと暴れる。
「こらこら」とカホが言う。「あなたは自分の落ち度をこれから知るところとなるのよ。しょうがないでしょ。それに私たち二人暮らしの邪魔はさせないから」
「え?」少ししてからトシヤが言った。「二人暮らし?」
「ん?」カホが少しとぼけて言った。「何が? 二人暮らしするんじゃないの?」
「いいの?」
「もちろん」カホが笑う。
トシヤが思わずカホを抱きしめる。
大魔王がまたバタバタ暴れる。その暴れる大魔王のなんと騒々しきことか……。
(完)
ニュースで見た大魔王、東京に降りる ノザミツ @noz_k
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