第9話 容赦はしない
「お願い!」
というカホの言葉と同時に、ボンという大きな爆発で辺り一帯が消し飛んだ。そこにあったはずの電柱や駐車場や車などが綺麗に全部無くなり、焼け野原になっている。
ところがその中にカホの姿だけがあった。よく見ればその腕に緑の腕輪が嵌められている。どうやって着けたのか、とにかくそれがカホを守った。それを見届けたトシヤは急いで起き上り、まだ近くにいたそのケンタ君親子を避難させ、遠巻きにいた野次馬も全員避難させる。
カホが生きていたことで大魔王の表情が変わった。というよりカホが腕輪を着けたのを見て、表情が変わったのだろう。
また、カホは腕輪を着けたときにわかった。これは力づくではなく、ただ強く思うだけで動く。意思に連動して勝手にそう動いてくれる。カホが大魔王みたいにして手をかざすと、その腕輪が光り、ボンという音とともに目の前が爆発する。だが大魔王は無傷だ。大魔王もまたカホに向け同じように攻撃するが、カホも全くの無傷。ボン、ボンという音の応酬。
少し離れた場所からトシヤがそれを見守る。だがこのままではまずいと思っていた。カホは近隣のことを考え、まともに攻撃ができていない。対して大魔王は容赦ない攻撃を繰り返している。そして大魔王の余裕の表情。このままでは絶対に駄目だ。トシヤは必死に考えた。カホが腕輪を着けた瞬間「お願い!」と叫んだこと。そして二人の様子を見つめ、一つのことに思い当たる。
「カホ!」トシヤが叫んだ。「相手の腕輪を掴んで!」
「どうして!」とカホ。
「いいから!」
カホは言う通りに急いで大魔王のもとへ駈け込んでいく。
「何だ貴様、離せ!」
そうしてカホが腕輪を掴んだのを見てトシヤがまた叫ぶ。
「そのまま自分の腕輪が外れるよう願って!」
最初、カホはトシヤの言っている意味がわからなかった。もしここで自分の腕輪を外したら、即死だ。
しかし次の瞬間、ピンときた。トシヤの言っている意図がわかった。カホは大魔王の腕輪を掴んだまま強く念じた。自分の腕輪が外れるようにと。
するとカホの腕輪が一瞬大きくなったかと思うと、勝手に腕から外れた。が、なぜか大魔王の方の腕輪もカホのと同じようにして同時に外れたのだ。
これは大魔王の致命的な誤算だった。DNAごとカホに擬態していたため、腕輪が二人を同一人物だと認識してしまったのだ。
「この!」と大魔王が叫ぶ。「貴様!」
二人が揉み合いになる。だが腕輪が外れた二人は、ただの女の子の力しかない。と、そこへものすごい勢いで駆け込んでくる男。トシヤだ。トシヤは大魔王を簡単に組み伏せた。それでようやく一息ついた。こうなった大魔王に、もはやできることは何一つ無い。人類滅亡どころか、今はトシヤの腕を振り払うことさえできない。このまま拘束すれば地球は救われる。歴史的なことを達成した二人だったが、周りの人間は避難してしまって誰もいない。カホが言う。
「早く誰かに連絡しないと。こういう場合って警察に電話すればいいのかな」
ところが地面に這いつくばっている大魔王が二人に向けて言った。
「そうしていられるのも今のうちだ」大魔王は不敵に笑いながら言った。「ちょうど今夜、余の配下が来ることになっている」
思わず二人は顔を見合わせた。
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