第7話 開いてた

 事態が大きく動いたのはその翌日だった。またトシヤとカホの買い物に大魔王がついてくることになった。

 だが玄関を出てからカホが気付く。

「あ、財布」カホがバッグの中を探し言った。「ごめん。財布取ってくるね」


 そう言ってカホがアパートの中に戻る。トシヤと大魔王は二人残されてしまった。トシヤは昨夜のこともあり、大魔王と二人で何やら気まずい。


「カホ、遅いですね」と言ってみたものの大魔王は何も答えない。なのでトシヤは思い切って言ってみた。「昨日はすみませんでした」

「何がだ」と大魔王が言った。

「いえ、失礼なことをしてしまったかなと」


 大魔王はトシヤを少し見つめてから言った。


「二度と歯向かわないことだな」

「歯向かう?」


 そう言われてトシヤは、大魔王は昨日の朝のことを言っているのだと気が付いた。大魔王にとっては昨日の朝のことの方が重要で、昨日の夜のことは大して気にしていないらしい。そうトシヤは解釈した。


「わかりました」とだけトシヤは言っておいた。

「次に歯向かえば、貴様も消す」


 というところでカホが戻ってきて、三人は歩きだす。いつも行っていたスーパーは大魔王が破壊したせいで、閉鎖してしまったようだ。壁に巨大な穴が空いてしまったのもその一因だが、やはり人間が消される瞬間を目撃してしまったら、もう誰も近寄らなくなってしまうものらしい。そのため三人は、少し遠くにあるスーパーに向かっていた。相変わらず三人を邪魔する人間は一人としていない。三人を見るや、誰もが一目散に逃げていく。大魔王はそんなことなど特に気にせずただ歩いている。


 そんな中、カホがトシヤの肩を指で叩いた。何かと思って見れば、カホの背中に回した手に、なんと緑色の腕輪が握られているのである。

 トシヤは思わず声を出しそうになったが、何とか声を抑えた。大魔王の方を見れば、ちゃんと両腕に腕輪を着けていた。それとは別のものをカホが持っているのだ。すると、カホが「開いてた」とトシヤに囁いた。それでトシヤは理解した。どうやら和室にあったあの黒い箱を、大魔王は開けっぱなしにしていたのだろう。それをカホが偶然見つけ、中身を持ち出した。これはまたとない奇跡だ。これさえあれば大魔王と同等の力が手に入るはず。

 だからトシヤはジェスチャーでその腕輪を早く着けろと示した。だがカホが小さく首を横に振り「わからない、着け方」と囁く。

 そのとき大魔王がこちらを向いたので慌ててカホが緑の腕輪をポケットに突っ込む。


「今日はどこまで行く」と大魔王は言った。

「もうすぐです」とトシヤが答える。


 ところがそのときであった。最悪の事態が起きてしまったのだ。いきなり大魔王の背中に石が直撃した。と言っても、緑の腕輪のせいで大魔王には傷一つ無い。だがそれで、大魔王がおもむろに振り向く。


「誰だ」低い声で大魔王が言った。

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