第3話 消される人間
――ボンという大きな爆発音とともに男が消し飛んだ。だがそれだけではない。男の背後にあったはずの、店の壁ごと消し飛んでいるのである。と同時に店中に客の悲鳴が響き渡り、店内にいた誰もが我先にと店外へ逃げ始めた。
辺りには熱気とコゲ臭い嫌なにおいだけが残り、壁に空いた巨大な楕円形の穴から風が入ってきていた。皮肉にも隣の花屋から香しい風がそんな店内に吹き込んでくる。しかし大魔王はそんな雑多なことには目もくれず、さっさとレジの方へと歩いていく。それをトシヤとカホが追いかける。
レジには一人逃げ遅れたアルバイトの女の子が一人。二十代半ばくらいであろうか。逃げようとして転んだらしく、そのまま動けない。ただ口をぱくぱくさせて、近付いてきた大魔王を見上げているだけだ。
トシヤとカホが追いつくと、すぐに大魔王に言われた。
「さっさと買うものを持ってこい」
トシヤとカホは急いで買うべきものを探してレジまで持ってきた。だがレジの女の子が動けないままだったので、トシヤとカホが二人掛かりで女の子を立たせてやる。そして申し訳なく思いながらも、トシヤが女の子に頼んだ。
「すみません、レジをお願いできますか?」
女の子はしばらく迷ったものの、ようやく一度だけ頷いた。逃げれば殺されると思ったのだろう。
他に客もアルバイトも誰もいなくなってしまった店内で、女の子は一人で会計を始めるのだが、可哀想に、嘘みたいに手が震え、なかなかバーコードを読み取れない。しょうがなくトシヤとカホがそれを手伝い、何とかレジを終える。大魔王は特に表情らしい表情もなく、それを見守っていた。帰り道も三人を邪魔するものは誰一人いなかった。
それからアパートに戻ってからトシヤもカホも口数が少なくなった。これまで大魔王は質問をすれば案外答えてもくれていたし、もう少し話せる人物だと思っていた。しかし先程の振る舞いを見て、二人は恐ろしくなった。何とか説得をして世界を滅亡させないように、などと思っていたのだが、それは無理かもしれないと思ってしまった。というのが三日前のことである。朝食中の今もトシヤとカホがあまり喋らないのは、こういうわけがあったからだ。
しかしその事件により、トシヤとカホには一つわかったことがある。大魔王がトイレに立った隙に二人は密かに話し合う。
「たぶんあの腕輪なんだよ」とトシヤは小声で言った。「だって体はカホと同じだろ。だったらあの腕輪の力なんだよ。見たろ、男に手をかざしたとき腕輪が光ったのを」
「そういえばニュースでも、それ見たかも」とカホも小声で言う。
大魔王が軍隊を壊滅させたときも同じように手をかざし、緑の腕輪が光った直後に軍隊は消し飛ばされた。反対に大魔王にミサイルが撃ち込まれたとき大魔王は無傷だったが、そのときも緑の腕輪が光っていたのだ。
このことからトシヤとカホは一つの結論に至った。全てはあの緑の腕輪の力であり、あの腕輪を外しさえすれば大魔王の暴挙を、さらには人類滅亡さえ止められると。
「絶対そうだよ」とカホは言った。「ねえ、私に考えがあるの」
「考え?」
「うん」カホは大きく頷いてみせた。
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