第2話 三日前の事件
三日前にそれは思い知らされた。トシヤとカホがスーパーに買い物に出掛けるとき、大魔王はこの星の流通を見たいからと二人についていくと言ったが、これを断ることはトシヤとカホにはできなかった。
大魔王が擬態したことは誰もが知っていた。どこにいるのかもニュースで報道されている。だから三人が外に出ると街中がざわついた。三人が歩く道は面白いように皆避けていくのだ。
スーパーに着くと、大魔王はさっさと店内へ入っていってしまった。トシヤとカホが慌てて追いかける。
店内には思ったよりも多くの人がいた。大魔王が外に出たということで街中の人は大魔王の目につかないようにと店内へ避難したらしいのだが、まさかスーパーに大魔王が来るとは思わなかったらしい。
ほとんどの人間は大魔王を見て慌ててよけるのだが、その中になぜか大魔王からよけようともしない男がいた。一見して強面というか、そういう服装をしていて、金のネックレスと髪の毛はオールバックにしている。背が一九〇センチほどあって、それが通路を塞いでいるのである。大魔王はスーパーの通路の、ど真ん中を歩いていく。
そうして男はようやく自分の後ろに誰かがいることに気が付いて、振り返った。それがカホの見た目をした大魔王だったというわけだ。
「なんだテメエ。何を睨んでる。喧嘩売ってんのか?」と男は少し屈みこむようにして、わざと低い声で大魔王に向かって言った。
どうやら男は酔っぱらっているらしかった。世界が終わるのなら朝から飲んだくれたって構わないという、今やそういう人間は世界中にざらにいた。この男もそのうちの一人。そこに慌てて駆けつけたトシヤとカホだったが、少し遅かったらしい。
「貴様ごときが余の道を邪魔するな。どけ」
大魔王は自分のことを『余』と呼んでいた。これは右側につけた腕輪の翻訳機が、母国語を日本語に無理矢理あてがうと、そう変換されるかららしい。しかもこの翻訳機は音声だけを変換するのではなく、脳の中の言語を別言語に変換してくれるため、本人が日本語として口から発することができるという代物だった。そのため大魔王は日本語でもって『余』と言っているわけだが、これがこの目の前の男を余計に怒らせた。
「余? 余だとこの野郎、ふざけやがって」
そう言って大魔王の胸ぐらを掴もうとしたのでトシヤとカホが慌てて止める。男は相当に酒くさい。
「何だテメエら、邪魔すんな!」
男が腕を振るうと、トシヤもカホも簡単に床に転ばされてしまった。ところが次の瞬間だった。嫌な予感はしていたのだ。大魔王がスッと左手を男の方へかざした。緑の腕輪がじんわり光る。
「邪魔は貴様だ」
そう言った直後――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます