デート?⑦


 黒咲さんの登場によって、私は一時的に混乱した。彼の好みが実は黒咲さんみたいな清楚系のひとなんだって考えて、彼の前でも清楚を取り繕うようになった。……なんか違うなぁって思って、直ぐに元に戻したけど。


 とにかく私は、彼との関係をもっと進めなければと行き急ぐようになった。だから彼にもっとアプローチしたり、直に胸を揉ませるようなこともした。


 ……思い返せば、何やってたんだって自分でツッコみたくなるくらいの所業だし、それに彼も、私が身体で攻めることは気に食わなかったらしい。それが原因で、つまらない喧嘩を引き起こしてしまった。


 本来ライバルである黒咲さんにフォローされる形で仲を取り戻せたけど……だからこそ、恋敵の黒咲さんに助けられたことで確信した。



 ――このままだと、私は負ける



 容姿も能力も性格も、黒咲さんは私よりも優れている。唯一の弱点と言ってもいい男嫌いも、最近は解消してきてるらしいし……そうなったらいよいよ、私の勝ち目は消え去るだろう。


 じゃあ、私は一体何なのだろうか。


 彼と過ごした時間がたった数ヶ月長いだけの、女友達?


 いやそもそも、彼は私を気にしてくれているのだろうか。一方的にじゃれついてくるだけの変な女と思っていて、実は友人と見なしてくれていないのではないか?



 解散を告げられたときに本当は凄い悩んでたけれど、笑顔で取り繕っていた。笑顔の裏で、決意した。――今日しかない、と。


 シチュエーション? 親密度不足? ……そんなの知らない。このまま静観してるだけだと、もっと勝ち目は薄くなる。


 速攻。取られる前に獲る。


 これしかないんだ、私みたいな人間には。





 ようやく動き出した朱李に連れられ、歩く。行き先は分からない。俺から繋ごうとした手だが、離してくれない。朱李は喋らない。


「……な、なぁ。そろそろ何処に向かってんのか教えてくれないか?」


「行き先なんて無いよ」


「え?」


 黒咲達と解散した時はまだ日もそこまで傾いていなかったが、いつの間にか日が水平線に差し掛かっている。今はモールの二階、外にあるイートスペースを歩いていた。


「いや行き先が無いって……じゃあなんで残りたいって言い出したんだ?」


「残りたいだなんて言ってないよ。私は、君に付き合ってほしいって言った。それだけなの」


「うん……うん?」


 イマイチ要領を得ない会話だったが、どうにか理解しようと試みる。


「ふふっ」


 朱李は笑みを浮かべ、頭を捻らせる僕を眺める。踵を返して再び歩き出した彼女を慌てて追いかける。


 立ち止まったのは、夕日がよく見える場所。手すりにもたれかかった彼女は、片手でもう片方の腕を掴む。その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。


「……今日はさ、本当に楽しかったね」


「ん、そうだな。思えばお前とああやって遊ぶのは初めてか……楽しかったよ」


 ……実際に遊んだことでの経験よりも、隣で遊んでいる朱李を見る方が楽しかった。いつもの変態的行動を取らず、純粋に楽しむ朱李を見ることで、自分の気持ちも上がった。


 多分、今日一緒に過ごしたのが朱李以外の人だったら……自分はここまで楽しめなかっただろう。いや、それは他の人を朱李と比較しているわけではなくて……ただ、朱李という人間が僕の心に強く根付いているのだと理解しただけ。


「素直に多々良部くんが認めるだなんて! あの天邪鬼でそっけない態度の多々良部くんが!」


「前言撤回してやろうか」


 褒めた途端にす〜ぐこれだ。……まぁ、あいつも褒められて恥ずかしいのを誤魔化しているのだろう。というか本当の天邪鬼は朱李なのでは?


「”男に二言はない”って名言があるよ?」


「近年のジェンダーギャップ解消への動きって凄いよなぁ〜」


「ふん、しらばっくれちゃって。でも君が楽しいって言ったことはちゃんと覚えてますからね! その後に『今日は帰さないぜ(キラッ☆)』って言ったことも」


「記憶が何者かに改竄されてんぞ。それも重度に」


「記憶……はっ! そうだ私は前世であの世界の王――」


「いや転生してきた元王様みたいなノリしなくていいから」


「良いツッコミ! 多々良部くんも分かってきたね!」


 いつにも増してボケが多い。いやツッコむのも大変だ。朱李もこのやり取りがツボに入ったのか、笑みの色を強くした。


「あはは……はぁ」


「いや笑いから急に溜め息つかないでくれ」


「ねぇ、多々良部くん」


「どした」


「大好き」



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