デート?③
◆
「それで涼んだわけだが……ここで帰るってわけじゃないんだろ」
「勿論よ。この際だし思いっきり今日を楽しんで、来れなくなった黒咲さんを残念がらせてやる!」
何故か目に闘志を燃やしている朱李。その熱が向いている先は、おそらく何処かから見ている黒咲だろう。
対抗心を抱いているところ申し訳ないが、黒咲に怒りを持つのは筋違いである。……彼女には、ここまで場を整えてもらったという恩があるわけだし。
「いや一応あの人は僕達のことを考えてドタキャンかましたんだが……」
「なら私が純粋の楽しみたいの! 君も付き合ってくれるよね⁉」
「えぇ……」
なんとも欲に塗れた理由じゃないか。……だが、その欲は嫌いじゃない。
「ま、全部が全部あの人の思惑通りに動くってのも癪だしな。乗ってやるよ」
熱くなった彼女に当てられて、僕も段々と気分が上がってきた。乗り気になった僕に笑みを浮かべ、いつもの明るさを取り戻した朱李。そんな彼女からこの後の行動を提案される。
「いいね。まずは服を見に行こうよ。デートっぽいでしょ」
「よし分かった」
……”デート”という単語を強調した意図については深く考えたくない。
そう、あくまで男女が遊びに行くという意味でのデートとして使ったに違いないのだ。ここで変に勘違いしたりわざわざ聞き返してイジられるなどといった面倒な事は避けるべきだと思い、黙って肯定した。
場所を『COMET』からショッピングモールに移し、再び涼しい場所へとやって来た。外の灼熱と中の快適な涼しさによる温度差で、少し肌寒く感じる。暑いと思って半袖を来てきたが、七分袖くらいがちょうど良かったのかもしれない。そう、今の朱李のように――
――朱李は夏に相応しい白い七分袖の服を着ていて、涼しく、また温かそうな雰囲気を纏っていた。……だが着目すべきは袖の長さではなく、比較的開いた胸元だろう。息苦しいのかボタンを二個も外したことで、彼女の豊満な双丘が余計に主張されている。魅力を通り越して魔性とも言えるその様は、彼女の横をすれ違う男の殆どが、その谷間へと視線を集中させるほどであった。
しかも下は短めのスカートで、低い身長に対して長い脚が美しく露出していた。この暑さでデニールの低いタイツさえ履いておらず……朱李から教えられた言葉で表現すると、生足。清涼感よりも魅惑的に感じさせた。
彼女と橋の上でバッタリ会った時は気まずさが勝っていたので、そこまで気にしなかった。だが彼女と仲直りし、いつも通りの関係を取り戻したことで、朱李の挑戦的な服装がとても魅力的に見えてくる。
こう思うのは朱李にとても失礼だと分かって入るのだが……とても扇情的だった。
そして僕の感情は朱李に敏感に悟られ、ニタリという擬音が付くほどいやらしい笑みを浮かべる。
「そっかそっか、やっぱり多々良部くんも男の子なんだねぇ。私のエロさに興奮しちゃった?」
「お前なぁ、この一週間の喧嘩の原因をもう忘れたか? もっと自分を大切にしてくれよ……せめてボタンをあと一つだけかけてくれ」
僕に精神安定を施すためにも。
「やだね。君の気持ちも分かるけど、実際私は二つ開けてないと息苦しいし、それに……とっくに私は自分を大切にしてる。黒咲さんとか周ちゃんみたいに優しくないの。……私が無防備になるのは、君の前だけ。君だけにこのだらしない姿を見せてる。少なくとも私はそのつもりだった、よ?」
「……」
思えば朱李の本性を晒しているのは、僕や黒咲達の前だけ。他のクラスメイトや僕の友人である悠斗の前でさえ、取り繕った態度を取っている。……彼女の言い分も理解できないわけではなかった。
「……分かったよ。俺も少し過敏すぎた。それにいちいち服装にまで口出すなんて、彼氏でもないのに束縛し過ぎだよな」
「うん、分かってくれたのは嬉しいんだけど――(”君だけ”って限定したのに)」
「ん、悪い、マジで最後が聞き取れなかったんだが」
文の最後に何か言ったのは聞いたんだが、具体的に何を言っていたのかが聞き取れなかった。一応言っておくが、これは僕が難聴系ではなく単に朱李が聞き取れないくらいの声量でボソッと言っていたからだ。
「別にいいよ、大したことじゃないし」
そう言う朱李の頬はむくれていた。口では否定しているが、明らかに不機嫌になってしまっている。
「まぁ、なんだ、その……似合ってるよ、その服」
「やっつけで褒められた感じがしてヤダ。もっと私の機嫌を取って」
「はいはい」
「『はい』は四回!」
「どんだけ言わすつもりだよ……」
僕に説教する間も彼女は前に歩んでいく。僕もそれに続き、『COMET』へ向かった時のように彼女の真横を歩く。すると僕の左手を目ざとく見つけた朱李は、右手を伸ばし僕の手を握る。
「は……っ⁉」
「いやぁ、その……ほら、私ってエロ可愛いし? 強引なナンパに遭ってお持ち帰りされちゃうかも、なんて。だからさ、私を守るためと思ってここは我慢して」
「理由が18禁スレスレなんだよなぁ……」
ド変態な朱李らしい理由といえば納得出来なくもないが、もっと単純に『人混みではぐれそう』みたな理由にしてくれたら素直に受け入れられたのに……あぁいや、そんなことはないか。しおらしく頼んできても、多分僕は手を振り解いていただろう。それを彼女は予想していたから、敢えて特異な理由で僕を説得しにかかったのだ。
そう考えると、逆に手を放す気になれなかった。
半ばやけになった僕は、握られた手を握り返す。朱李はビクッと体を震わせるが、僕の手を更に固く握る。
「せ、積極的だね、君も。まさか握り返されるなんて予想してなかった」
「誘ったのはお前だろ。なんで狼狽えてんだ」
「自分から攻めるのと受けるのじゃ全然違うの!」
ん、黒咲と似たようなこと言ってんな。あいつの場合も、男から攻められるのと、逆に自分から攻めるのじゃ全然態度違ったしな。攻め……バニーガール、ロープ……うっ、頭が!
「ほらそこ、デート中に他の女のこと考えない!」
封印したはずの記憶が飛び出てきそうだったところ、朱李からお怒りの指摘を受ける。もう彼女の中じゃ、これはデートなんですね……。
「まったくもう! これは君の罰を与えるべき案件だね」
え、なにそれ怖い。朱李からの罰とか嫌な予感しかしないんだが。
「……ちなみに訊くが、朱李の頭の中で俺は何をされてるんだ?」
「まずはロープを――」
「いや、もういい。もう言わなくていい」
嫌な予感は的中していた。女子の口から『ロープ』という単語を聞くと、もう忌避の感情しか湧いてこないようになってしまった。なんもかんも共同夢が悪い。
「頼むからもっとマシなものにしてくれ」
「ん〜〜」
僕の要求に対し頭を捻らせる朱李。というかそこまで悩むってことは、僕への罰にロープしか思いついてなかったってことかよ。どんだけ脳内ピンクなんだこの女は。
「……じゃあ、君の男の子の部分を悶えさせちゃおっかな」
おっと、またもや不穏な言葉が飛び出てきましたね。
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